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点耳薬でめまいが起こる?温度が耳に与える影響と前庭機能との関係
公開. 更新. 投稿者:めまい/難聴/嘔吐.この記事は約3分22秒で読めます.
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点耳薬でめまいが起こる?

点耳薬(耳にさす薬)は、耳の病気の治療において広く用いられていますが、その使用に伴い、思わぬ副作用のような症状が出ることがあります。なかでも「点耳薬をさした直後にめまいを感じた」という訴えは、実際に薬局や診察室でも耳にすることがあります。
点耳薬使用後に現れる「めまい」のメカニズム、背景にある耳の構造との関係、医療現場で行われる検査(カロリックテスト)との類似性について勉強します。正しい知識をもとに、患者への適切な指導を行うことが重要です。
点耳薬でなぜめまいが起きるのか?
点耳薬そのものの薬理作用でめまいが起こることは通常ありません。しかし、薬液の温度が低すぎる場合、耳に入った瞬間に三半規管が刺激されて一時的なめまいを起こすことがあります。
●その原因とは?
・耳の奥にある「三半規管」は、内耳の一部で、体のバランスを感知するセンサーのような役割を果たしています。
・体温(約37℃)から大きく外れた温度の液体(特に冷たい液体)が耳に入ると、三半規管に物理的刺激を与え、内リンパの対流を引き起こします。
・この流れが神経を通して脳に伝えられることで、眼振(目が勝手に揺れる現象)が起こり、それに伴って「めまいのような感覚」が生じるのです。
この現象は薬の副作用ではなく、生理的な反応に近いものと考えられています。
カロリックテストとは?医療に応用される“めまいの誘発”
医療現場では、この「耳に冷たい液体を入れるとめまいが起きる」という現象を逆に利用した検査があります。それがカロリックテスト(温度刺激眼振検査)です。
●検査の概要:
・左右の耳の外耳道に、冷水(30℃前後)または温水(44℃前後)を注入することで、三半規管を刺激します。
・その際に誘発される眼振の方向や強さ、持続時間を観察し、前庭機能(バランス感覚を司る機能)の左右差や低下を診断します。
●カロリックテストでわかること:
・片側性の前庭障害(例:前庭神経炎など)
・脳幹や小脳の病変による異常
・慢性のめまい症状の評価
つまり、点耳薬によって起こるめまいは、このカロリックテストとほぼ同じ原理によって生じているといえます。
患者指導で重要なポイント
点耳薬は冷蔵保存が必要なものが多く、そのまま耳にさしてしまうと、思わぬ不快感やめまいを引き起こすリスクがあります。患者への指導時には以下の点に注意しましょう。
●冷蔵保存が必要な薬剤の例:
・抗生物質入りの点耳薬(例:クラリスロマイシン含有製剤)
・ステロイド・抗菌薬合剤(例:ヒアレイン点耳液)
●指導内容のポイント:
・使用直前に容器を手で包んで温める(人肌に近づける)
・耳に入れる前にしばらく常温で置く(ただし安定性に影響がある薬は避ける)
・点耳直後に「めまいが出た」ときは、薬の副作用ではなく温度による刺激反応であることを説明
このような情報をあらかじめ伝えておくことで、患者の不安を軽減し、トラブルや誤解を防ぐことができます。
点耳薬によるめまいの実例と相談対応
●ケース1:中年女性、初回の点耳後にめまいを訴える
「耳にさした途端にクラッとした。薬が合わないのかと思った」
→ 薬剤師から「冷蔵庫で保管していた薬をすぐ使用しましたか?」と確認。
→ 室温で5分ほど置いてから使うよう指導し、以後症状消失。
●ケース2:高齢男性、めまいをきっかけに使用中止
「点耳薬を使うと気持ち悪くなった。やめた方がいいか?」
→ 医師と連携の上、眼振の一時的反応と判断。薬効には問題ないと説明し、再開。
→ 使用方法を変更(温めてから点耳)することで解決。
耳とバランスの関係:三半規管のしくみ
めまいのメカニズムを理解するには、耳の構造、とくに三半規管の働きについての知識が不可欠です。
・三半規管は内耳の一部で、X・Y・Z軸の3方向に対応した管状の構造
・頭の動きによって内部のリンパ液が動き、感覚毛を刺激
・その情報が前庭神経を通じて脳へ伝達され、姿勢・バランスが保たれる
この繊細な機構が、外部からの温度刺激で乱されると、一時的なバランス異常(=めまい)が起きるのです。
まとめ:点耳薬は温度にも注意して使おう
点耳薬の使用に伴う「めまい」は、薬の副作用ではなく、三半規管への温度刺激による生理的反応であるケースが多く見られます。
患者が不安になることのないよう、以下の指導を忘れずに:
「冷たいまま耳に入れないでください」
「手で温めてから点耳しましょう」
「めまいが出ても一過性です。気になるときはご相談ください」
点耳薬の正しい使用方法と併せて、温度による影響についての理解を深めることで、より安全で安心な治療が実現します。