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アイファガンのスイッチOTC?マイティアルミファイ
公開. 更新. 投稿者:緑内障/白内障.この記事は約5分48秒で読めます.
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マイティアルミファイとは?

2024年3月14日、「マイティアルミファイ」という新たな目薬が要指導医薬品として発売されました。発売当初から、薬剤師の間では注目を集めており、その理由は有効成分が「ブリモニジン酒石酸塩」であることにあります。
ブリモニジンといえば、眼科で緑内障治療薬として使用されるアイファガン点眼液に含まれる成分として知られています。ついに緑内障点眼薬がスイッチOTC(要指導医薬品)化されたのか?と思いきや、マイティアルミファイの効能は「結膜充血の改善」。眼圧下降目的ではなく、充血除去に特化した商品なのです。
ブリモニジンとは?
ブリモニジンは、アドレナリンα2受容体作動薬に分類される薬剤です。
・緑内障治療では、毛様体での房水産生を抑制し、房水の排出を促進することで眼圧を下げます。
・一方、マイティアルミファイでは血管収縮作用を利用し、結膜充血を除去する目的で使用されています。
この成分が持つ複数の作用点のうち、今回市販品として着目されたのは「血管収縮」の側面です。
アイファガンとの違い:濃度と目的に注目
マイティアルミファイに含まれるブリモニジン酒石酸塩の濃度は、0.1mg/mL(0.01%)です。これは、処方薬のアイファガン点眼液(1mg/mL、0.1%)の10分の1の濃度となっています。
この濃度差から、マイティアルミファイには眼圧下降作用は期待できないと考えられます。緑内障患者が自己判断で市販薬を使用することで、眼圧管理が不十分になるリスクは低いと思われますが、逆に、充血を気にする患者が市販薬に手を出す可能性は否定できません。
マイティアルミファイの特徴と製品説明
マイティアルミファイの商品説明では、以下のように記載されています:
「ブリモニジン酒石酸塩」は、主に結膜の血管の静脈および細動脈を収縮させることで結膜充血に効果をあらわします。この作用により、細胞への酸素や栄養分などの運搬に大きな影響をおよぼすことなく結膜充血を除去することが期待できます。
この点が、他の充血除去薬と一線を画すポイントです。従来の血管収縮成分(ナファゾリンなど)と異なり、交感神経作動薬ではなくα2作動薬として作用するため、リバウンド充血が起こりにくいとされています。
ブリモニジンの作用機序を整理する
ブリモニジンはα2アドレナリン受容体作動薬であり、
・中枢(脳内)のα2受容体刺激 → 交感神経抑制 → 血圧下降
・末梢(毛細血管など)のα2受容体刺激 → 血管収縮 → 充血除去
という、部位によって異なる反応を引き起こすのが特徴です。
一見すると矛盾しているようにも見えますが、これは交感神経系の制御部位の違いによるものです。高血圧治療で使われるα2刺激薬(クロニジンなど)は中枢に作用して血圧を下げますが、目薬としてのブリモニジンは、主に局所で末梢の血管を収縮させ、充血を抑える方向に働くのです。
この作用機序は、「興奮時には主血管への血流を増やし、末梢の毛細血管への血流を抑える」といった交感神経の本来の働きとも整合的です。
なぜブリモニジンで「充血」が副作用にもなるのか?
一見すると矛盾しているようですが、実際に処方薬のアイファガン(ブリモニジン点眼液)では副作用として結膜充血(1〜5%未満)が報告されています。
この理由は、ブリモニジンの持続的な血管収縮による代償反応や、薬剤添加物による刺激性が関連していると考えられます。
考えられるメカニズム:
・血管収縮の反動(リバウンド):長時間の血管収縮により、薬効が切れたタイミングで一過性に血管が拡張し、充血が出現することがある
・局所刺激による充血:保存剤(ベンザルコニウム塩化物など)やpH、浸透圧の違いが刺激となり、充血の一因となることがある
・頻回使用や感作による炎症性充血:慢性的な点眼が局所炎症を招く可能性がある
市販薬であるマイティアルミファイは、短期的な局所血管収縮による充血除去を目的としており、濃度も10分の1と低いため、副作用の頻度も抑えられると考えられます。
そのため、「ブリモニジン=充血の副作用」という印象は、あくまで処方薬レベルの濃度と使用頻度でのリスクであり、低濃度・短期使用ではむしろ充血除去が主目的として成り立つという違いがあります。
この点を理解しておくと、ブリモニジンの二面性(治療と副作用)が納得しやすくなります。
結膜充血はなぜ起こるのか?
目の充血は、さまざまな要因(疲れ、アレルギー、ドライアイ、コンタクトレンズの刺激など)により、結膜の血管が拡張し、血流が増えることで生じます。
これを抑えるには、
・ナファゾリンのようなα1刺激による血管収縮
・ブリモニジンのようなα2刺激による末梢収縮
などのアプローチがあり、いずれも「見た目の赤みを取る」という点では有効です。
ただし、ナファゾリンは長期使用によるリバウンド充血が問題となりやすく、慢性的な使用には不向きとされてきました。
その点、ブリモニジンは比較的リバウンドが起きにくいとされ、新しい選択肢として注目されています。
薬剤師が知っておきたい注意点
◆緑内障患者との混同リスク:
ブリモニジン=緑内障治療薬というイメージを持つ患者も多く、マイティアルミファイが緑内障にも効くと思い込んでしまう可能性があります。患者対応時には、「眼圧を下げる薬ではない」「緑内障治療には使用できない」と明確に説明する必要があります。
◆長期使用に対する注意:
リバウンドが起きにくいとはいえ、長期連用は推奨されません。目の充血が慢性化している場合は、根本原因(ドライアイ、アレルギー、眼精疲労など)に対する対応が必要です。
◆使用対象の年齢と使用回数:
要指導医薬品として販売される以上、薬剤師の関与が必須です。適正な使用方法や回数、年齢制限の有無など、添付文書を確認の上、適切な指導が求められます。
まとめ:新しい市販目薬としての可能性と役割
マイティアルミファイは、ブリモニジンという医療用成分をスイッチ化した新しいアプローチの市販目薬です。
緑内障治療で知られるブリモニジンですが、その血管収縮作用を利用することで、「見た目の充血除去」にも有効であることが示されました。
ナファゾリンなど従来の充血除去薬とは異なる作用機序を持ち、リバウンドの少なさや局所作用の確かさにおいて、今後新しい選択肢としての地位を築く可能性があります。
薬剤師としては、緑内障との混同を避けつつ、適切な説明と販売対応を行うことが重要です。市販薬の中でも要指導医薬品という位置づけを活かし、生活者に安心して使ってもらえるよう、サポートしていきましょう。