2025年11月26日更新.2,671記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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CT検査の前にβブロッカーを飲ませる?─冠動脈CTと心拍コントロール

CT検査の前にβブロッカーを飲むのは本当?─冠動脈CTと心拍コントロールの医学的理由

CT検査は現代医療において欠かせない画像診断技術であり、がん・内臓疾患・血管病変まで幅広く利用されている。しかし、その中でも 心臓(冠動脈)を評価するCT検査だけは「他のCTとはまったく性質が違う」ことをご存じだろうか。

胸部CTや腹部CTでは薬を事前に飲む必要はほとんどない。
しかし、冠動脈CT(CCTA:Coronary CT Angiography)の場合は、
検査前にβブロッカー(心拍数を下げる薬)を服用することが一般的である。

なぜ、冠動脈のCTだけ薬が必要なのか?
なぜ心拍数が下がると画像が良くなるのか?
どのような薬が使われるのか?
危険性はないのか?
保険診療としてはどう扱われるのか?

薬剤師として知っておくべき 「冠動脈CTとβブロッカー」の仕組み、臨床運用、禁忌、代替手段などを勉強していく。

CT検査の中でも冠動脈CTは“特殊な検査”

通常のCTは、腹部・胸部・頭部などを撮影するが、臓器は比較的静止しているため、画像がブレにくい。

しかし、心臓だけは事情が違う。

・1分間に60〜80回打ち続ける
・横方向に揺れ、収縮・拡張を繰り返す
・血流量が多く、血管も常に動いている

このため、動いている対象を撮影するための特別な工夫が必要になる。

そのひとつが
「心臓が止まって見える瞬間(静止相)」を狙って撮影すること
である。

冠動脈CTは、この“わずかな静止相”を高精度で捉える必要があるため、心拍が早すぎると画像がボケてしまう。

心拍数が高いと画像がブレる理由

現代の冠動脈CTは「マルチスライスCT」と呼ばれ、1回転で大量の断面を取得できる。しかし、どれだけ装置が進化しても、
被写体(心臓)が高速で動いていたらブレは避けられない。

● 心拍が速いと問題が起きる
1回の心拍の中で画像に適しているのは、収縮期と拡張期の“ほんの数ミリ秒”だけ。

心拍が速いと:
・静止時間が短くなる
・CTの取得時間が静止相に一致しない
・その結果、冠動脈の輪郭がボケる
・狭窄(血管の細い部分)を評価できなくなる

つまり、心拍が高い=冠動脈CTは失敗しやすいという構造がある。

理想の心拍数は「60 bpm以下」

冠動脈CT撮影の理想は
心拍数 50〜60/分。

多くの施設では、撮影前に次の基準を設定する。

・60以下 → 撮影可能
・65〜70 → 条件付きで撮影 or βブロッカー追加
・70以上 → 心拍コントロール必須

実際、緊張して70〜80台になっている患者は多い。

そこで登場するのがβブロッカーである。

βブロッカーを使う理由:心拍数を下げるため

βブロッカーは
・心拍数を下げる
・心臓の収縮力を抑える
・リラックスさせる(交感神経を抑制)

という作用があり、冠動脈CT撮影で最も重要な「心拍をゆっくりにする」目的に最適。

● どの薬を使うのか?
施設によるが、以下がよく使われる。

・テノーミン(アテノロール)
・セロケン(メトプロロール)
・インデラル(プロプラノロール)
・ランジオロール(静注) ←即効性が高い

とくに テノーミン・セロケン はβ1選択性が高く、気管支喘息への悪影響が比較的少ないため使われやすい。

● 内服タイミング
一般的には:
・検査の1〜2時間前に内服
・または検査直前に静注(ランジオロールなど)

βブロッカーを使うのは冠動脈CTだけ?

胸部CT・腹部CT・頭部CTでは使用しない。

βブロッカーを使うのはあくまで
“心臓の細い血管(冠動脈)を撮るときだけ”。

冠動脈の診断精度を高めるために、心拍をコントロールする必要があるからだ。

どんな患者に使えないのか(禁忌と注意)

βブロッカーは非常に有効だが、使えない患者もいる。

◆ 使用禁忌
・気管支喘息(特に非選択性βブロッカー)
・治療されていない高度徐脈
・2度・3度房室ブロック
・急性心不全
・βブロッカーアレルギー

◆ 使用注意
・COPD
・低血圧
・糖尿病で低血糖注意
・徐脈傾向

喘息患者には使わないため、検査自体が中止・延期になることもある。

βブロッカー以外の代替薬

βブロッカーが使えない患者には、以下の薬が使用されることがある。

● Ca拮抗薬(ジルチアゼムなど)
・心拍を下げる
・気道収縮がないため喘息患者でも使える
・効果はβブロッカーほど強くない

硝酸薬
・血管拡張で冠動脈を見やすくする補助
・心拍そのものはそこまで下がらない
・最終的に心拍が下がらなければ検査が成立しない場合もある。

検査の実際の流れ

1.来院時の脈拍測定
2.70以上の場合、βブロッカー追加指示
3.検査の1〜2時間前に内服
4.必要があれば直前に静注(ランジオロール等)
5.CT撮影
6.撮影後はβブロッカー継続なし(あくまで準備薬)
7.造影剤の観察(アレルギーに注意)

βブロッカー使用の安全性

一時的に脈を下げる目的で使うため、
ほとんどの患者で安全に使用できる。

・半減期が短い薬(ランジオロール)は“必要な時だけ効く”
・中止すればすぐに消失する
・通常は検査後に薬は残らない

医療機関では必ず
心電図・血圧・酸素飽和度をモニターしながら投与する。

冠動脈CTとβブロッカー ― まとめ

● βブロッカーを使う理由
・心拍を60/分以下に下げる
・心臓が“止まって見える瞬間”を長くする
・冠動脈の画質が劇的に向上する

● 使用する薬
・テノーミン(アテノロール)
・セロケン(メトプロロール)
・インデラル(プロプラノロール)
・ランジオロール(静注)

● 禁忌
・喘息
・重度の徐脈
・房室ブロック
・急性心不全

● 結論
CT検査の中でも、冠動脈CTだけは“心拍を遅くする必要がある”。
そのため、検査前にβブロッカーを使うのは医学的に合理的で、
全国の医療機関で広く行われている。

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