2025年6月10日更新.2,492記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用の違いとは?

薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用の違いとは?

日々の診療や服薬指導で、「薬の飲み合わせ」について問われることはよくあります。

「この薬とこの薬、一緒に飲んで大丈夫ですか?」
「お酒と一緒に飲むとどうなりますか?」

そんな時、薬剤師や医療従事者は、「薬物相互作用」という視点で、薬の作用や副作用に影響がないかを確認しています。

実は、薬物相互作用には大きく分けて2つの種類があります。

・薬物動態学的相互作用(PK相互作用)
・薬力学的相互作用(PD相互作用)

この2つは似て非なるものであり、理解しておくことで薬の作用の仕組みや併用時の注意点が明確になります。

薬物動態学的相互作用とは(Pharmacokinetic interaction)

〇定義と概要
薬物動態学的相互作用とは、薬の血中濃度に影響を与える相互作用のことを指します。
言い換えると、薬が体内で「どのように吸収され、運ばれ、代謝され、排泄されるか(ADME)」に影響を与えるものです。

つまり、薬の血中濃度を上下させ、効果や副作用に変化をもたらす作用です。

〇関連する4つの過程(ADME)

過程説明代表的な相互作用
吸収(Absorption)主に腸管から血液中への移行胃酸を抑える薬による吸収抑制など
分布(Distribution)血液から標的部位への移行血漿タンパク結合の競合など
代謝(Metabolism)肝臓などでの薬物の分解CYP酵素の誘導や阻害(例:リファンピシン)
排泄(Excretion)尿や胆汁としての排出腎機能への影響、尿pHによる排泄変化

〇薬物動態学的相互作用の具体例
・クラリスロマイシンとカルバマゼピンの併用
 → クラリスロマイシンが代謝酵素CYP3A4を阻害し、カルバマゼピンの血中濃度が上昇。

・制酸薬と抗菌薬(キノロン系)の併用
 → 制酸薬がマグネシウムやアルミニウムとキレートを形成し、抗菌薬の吸収を低下。

・セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)と経口避妊薬
 → セント・ジョーンズ・ワートがCYP3A4を誘導し、避妊薬の代謝が亢進→効果減弱。

薬力学的相互作用とは(Pharmacodynamic interaction)

〇定義と概要
薬力学的相互作用は、薬の血中濃度は変化しないが、標的部位での薬効や副作用に影響を与える相互作用です。
すなわち、薬が標的部位に届いたあと、受容体・酵素・イオンチャネルなどを介して生じる反応に、別の薬が影響を与えるものです。

〇作用機序が重なり合うことによる相互作用
薬力学的相互作用では、以下のような組み合わせで作用が増強・減弱・拮抗します。

・同じ受容体を刺激・阻害する(競合)
・異なる経路で同じ作用を増強する(相加・相乗)
・逆の作用をもたらす薬の併用(拮抗)

〇例:薬力学的相互作用の具体例
・ワルファリンとアスピリンの併用
 → 両者とも抗血栓作用があり、出血リスクが増強(作用が相加)。

・ベンゾジアゼピン系薬とアルコール
 → 両者が中枢神経抑制作用を持ち、眠気・呼吸抑制が増強(相乗効果)。

・降圧薬と利尿薬の併用
 → 血圧低下作用が強まり、起立性低血圧などの副作用リスクが上昇。

・β遮断薬とβ刺激薬(気管支拡張薬)
 → 作用が拮抗し、β刺激薬の効果が十分に発揮されない。

見分け方のポイント:「血中濃度」が鍵

両者の違いを簡潔に見分けるポイントは、「血中濃度が変わるかどうか」です。

相互作用の種類血中濃度影響を与える部分代表例
薬物動態学的相互作用変化する吸収・代謝・排泄などクラリスロマイシン+カルバマゼピン
薬力学的相互作用変化しない標的受容体・酵素などアスピリン+ワルファリン

〇なぜこの分類が重要なのか?
・予測と対策のしやすさが違う:
薬物動態学的相互作用は、血中濃度のモニタリング(TDM)や用量調整で対処可能。
薬力学的相互作用は、症状が出て初めてわかることも多く、予測が難しい場合も。

・相互作用を避ける戦略が異なる:
動態学的:併用禁忌・時間差投与・代替薬の選択
力学的:投与中止・減量・症状観察・モニタリング強化

〇薬剤師の服薬指導の現場では?
例えば…

「この薬を飲んだら、前より眠気が強くなった」
→ 薬力学的相互作用かもしれません。中枢抑制作用が重なっている可能性を疑います。

「この薬を飲んでから副作用が増えたような気がする」
→ 薬物動態の変化による血中濃度の上昇を疑い、代謝酵素や腎機能のチェックが必要かもしれません。

両者の違いを理解し、適切に対応しよう

観点薬物動態学的相互作用薬力学的相互作用
血中濃度変化する変化しない
対象ADME(吸収・分布・代謝・排泄)標的受容体・酵素・チャネルなど
影響効果や副作用の増減効果や副作用の増強・減弱・拮抗
対処法血中濃度モニタリング、用量調整症状の観察、作用機序の理解が必要

薬物相互作用は、患者さんの安全を守る上で非常に重要な知識です。
血中濃度が変わるのか?それとも作用機序の競合か?

この視点で見極めることが、臨床現場でも非常に役立ちます。

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