2025年9月25日更新.2,632記事.

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透析で除去されない薬

透析で除去されない薬とは? 血液透析と薬物管理の重要なポイント

慢性腎不全や急性腎不全の治療として、血液透析(HD:Hemodialysis)が行われる患者さんは多くいらっしゃいます。透析治療によって、体内にたまった老廃物や余分な水分、電解質が除去され、生命維持に必要な環境が整えられます。しかし、透析は「全ての物質を等しく除去できるわけではない」という点が非常に重要です。

特に、薬剤の透析による除去性は薬物治療計画に大きく影響します。透析で除去されやすい薬、ほとんど除去されない薬があり、透析施行の有無で投与量を調整したり、投与タイミングを変えたりする必要があります。「透析で除去されにくい薬・除去されない薬」を中心に、その背景や具体例、注意点を勉強します。

血液透析で薬が除去される仕組み

まず、血液透析で薬物が除去されるかどうかは、以下の要素で決まります。

①分子量
・小さい分子ほど透析膜を通過しやすく除去されやすい。
・例えば尿素(分子量60)、クレアチニン(113)は容易に除去される。

②タンパク結合率
・血中でアルブミンなどと結合している割合が高い薬は、結合型が透析膜を通過できないため、除去されにくい。
・フリー(非結合)型だけが除去される。

③分布容積(Vd)
・Vdが大きい(組織に広く分布する)薬は、血中にはわずかしか存在しないため、透析での除去は少ない。
・Vdが小さい薬(血中に多く存在する)は除去されやすい。

④水溶性・脂溶性
・水溶性の薬は除去されやすく、脂溶性の薬は透析除去されにくい傾向。
・こうした性質の組み合わせで、「透析で除去されるか否か」が決まります。

透析でほとんど除去されない代表的な薬

以下に、透析で除去されにくい薬剤を一部挙げます。

抗てんかん薬・精神神経用薬
●フェニトイン
・高いタンパク結合率(90%以上)
・分布容積も大きいため、ほぼ除去されません。

●バルプロ酸ナトリウム
・タンパク結合率が高く、除去は限定的。

●カルバマゼピン
・脂溶性が高く、分布容積も大きい。

抗不整脈薬
●アミオダロン
・分布容積が極めて大きい(約60L/kg)ため、透析で除去不可。

抗菌薬
●バンコマイシン
・分子量は大きいが、血中濃度が高いため一部除去される。
・ただし透析膜の種類により異なるため、注意。

●リネゾリド
・高タンパク結合ではないが、分布容積が大きく、除去は限定的。

ワルファリン
●ワルファリン
・タンパク結合率が97%以上。
・透析除去はほぼないため、維持量の調整は不要。

ジゴキシン
・分布容積が非常に大きく、透析除去は無視できる。

抗真菌薬
●アムホテリシンB
・高分子・高脂溶性で除去不可。

このように「タンパク結合率が高い」「分布容積が大きい」「脂溶性が高い」薬は、ほとんど除去されません。

透析で除去される薬の特徴と対比

逆に、透析で除去されやすい薬も理解しておくと対比が分かりやすいです。
・分子量が小さい
・水溶性
・低タンパク結合
・分布容積が小さい

例えば:
・アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン)
・シメチジン
・メトホルミン
は透析で比較的除去されやすい薬です。

除去されない薬の投与の注意点

「透析で除去されないから投与量を変えなくてよい」と思いがちですが、必ずしもそうではありません。

①腎排泄が主体かどうか
・透析除去されなくても、腎機能低下で蓄積する薬が多い。
・例:ジゴキシン(透析除去は少ないが、腎排泄が主)

②代謝産物の蓄積
・代謝産物が腎排泄の場合、これが毒性を引き起こすことがある。
・例:モルヒネ(活性代謝物が蓄積し意識障害)

③投与間隔の調整
・毒性回避のため、透析日に投与を避ける必要がある薬もある。

④透析条件で変わる除去率
・近年は「高透過性膜」「オンラインHDF」など透析技術が進歩し、除去性が変化している。

このため、腎機能低下時や透析患者では、「透析で除去されないからそのまま使う」ではなく、
・腎排泄割合
・蓄積毒性
・血中濃度モニタリング
・透析条件
を総合的に考慮して投与計画を立てます。

実際の臨床での判断方法

臨床では添付文書や書籍、ガイドラインを参照し、下記のような情報を確認します。

●薬物動態パラメータ
・分子量
・タンパク結合率
・分布容積
・腎排泄率

●透析条件
・透析膜(low flux / high flux)
・透析時間・回数
・血流量

●既存データ
・透析患者への投与経験
・血中濃度モニタリングデータ

このように多角的な評価をして、投与量・間隔・タイミングを決めます。

まとめ

血液透析ではすべての薬が等しく除去されるわけではなく、薬物動態や透析条件に大きく依存します。「透析で除去されない薬だから安全」という思い込みは危険です。

特に注意が必要なのは、
・高タンパク結合
・高脂溶性
・大きな分布容積
を持つ薬剤。

これらは透析除去はほとんどされませんが、腎機能が低下するとやはり蓄積しやすいため、用量調整やモニタリングが必須です。

透析患者の薬物治療は、病態・透析条件・薬物動態を総合的に評価する必要があります。薬剤師や医師、看護師、透析技師が密に連携し、最適な治療を提供することが、患者のQOLと安全性の確保につながります。

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