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リウマトレックスは小児には効きにくい?若年性特発性関節炎に対する用量
公開. 更新. 投稿者:免疫/リウマチ.この記事は約4分59秒で読めます.
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リウマトレックスの若年性特発性関節炎に対する用量と注意点

リウマトレックス®(一般名:メトトレキサート)は、関節リウマチ(RA)や若年性特発性関節炎(JIA)に広く用いられている免疫抑制薬です。関節リウマチ治療においては「第一選択薬」と位置づけられるほど、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)の中で中心的な役割を担っています。
若年性特発性関節炎(JIA)は「小児の関節リウマチ」と呼ばれることもありますが、成人の関節リウマチ(RA)とは異なる疾患概念であり、病型分類や臨床経過も異なります。そのため、両者を単純に同一視せず、薬剤の使われ方や投与量の設定も別に考える必要があります。
リウマトレックスの用量設定は、成人と小児で大きな違いがあります。特に日本では、2008年以前は小児用量が添付文書に記載されていませんでした。
成人関節リウマチに対する用量
日本の添付文書によれば、関節リウマチに対しては次のように記載されています。
・通常投与量:週1回、メトトレキサートとして6mgを分割経口投与(例:2mg×3カプセルを12時間間隔で2日間に分ける)
・増量可能範囲:忍容性や反応に応じて適宜増減。ただし、最大16mg/週まで。
この「最大16mg/週」という上限は、過去の8mg/週から段階的に引き上げられてきた経緯があります。臨床現場では、これ以上投与しても副作用が増えるだけで有効性の頭打ちになるとされ、日本では欧米の25mg/週に比べて控えめな上限設定となっています。
若年性特発性関節炎に対する用量
一方で、小児に用いる場合、添付文書には以下のように記載されています。
・通常投与量:週1回、メトトレキサートとして 4〜10mg/m² を経口投与
・分割方法:1回投与、または2〜3回に分けて12時間間隔で投与。残りの日は休薬。
・投与量は患者の年齢、症状、忍容性に応じて増減可。
ここで注目すべきは、最大投与量の明確な数値は設定されていない という点です。成人のように「16mg/週」とは書かれておらず、体表面積(m²)換算で調整する形が取られています。
成人と小児で投与量が逆転する現象
かつて成人の最大量が8mg/週に制限されていた時代、小児では 10mg/m²/週 という設定が認められており、体格によっては成人よりも高用量を投与されるケースがありました。
例えば、体表面積1.2m²の小児なら
10mg/m² × 1.2m² = 12mg/週
となり、当時の成人最大8mg/週を上回ります。
現在は成人が最大16mg/週まで投与可能となったため、この「逆転現象」は解消されています。しかし、歴史的に小児用量が高めに設定されていたのは、海外データを根拠にした経緯があるためです。
小児用量設定の経緯
2008年までは、日本にはリウマトレックスの小児用量は存在しませんでした。小児リウマチの治療は行われていたものの、正式な承認用量がなかったのです。
このため厚生労働省の「小児薬物療法検討会」で議論が行われ、海外でのエビデンスを参考にして小児用量が設定されました。
結果として、海外で標準的に使われていた 4〜10mg/m²/週 という範囲がそのまま日本の添付文書にも採用されました。
添付文書上の注意点:小児と忍容性
添付文書には以下のような注意書きがあります。
「本剤については、成人の方が小児に比べ忍容性が低いとの報告があるので、若年性特発性関節炎の10歳代半ば以上の年齢の患者等の投与量については特に注意すること。」
つまり、同じ薬剤でも 小児の方が副作用が出にくい という点が指摘されているのです。特に思春期以降では成人に近い反応を示すため、慎重な投与が求められます。
小児で副作用が少ない理由
なぜ小児ではリウマトレックスの副作用が少ないのでしょうか。
腎排泄が早い
小児は成人より腎機能が旺盛で、薬物のクリアランスが高い傾向があります。これにより血中濃度が過剰に上昇しにくく、副作用も起こりにくいと考えられます。
間質性肺炎の報告が少ない
成人RAの患者では0.4〜2%に薬剤性間質性肺炎が発生し、時に致死的となります。そのリスク因子は「高齢」「既存の肺線維症」であり、これらの背景を持たない小児では間質性肺炎はほとんど問題になりません。
骨髄抑制の頻度も低い
骨髄障害は高齢者や腎機能低下例で多く、小児では稀です。
予防策:葉酸製剤の併用
メトトレキサートの副作用には、肝障害、口内炎、消化器症状、骨髄抑制など、用量依存性のものが多くあります。これらは葉酸製剤(フォリアミン®など)を併用することで予防可能です。小児でも成人でも、葉酸補充はスタンダードな対策として推奨されています。
まとめ
・成人RA:最大16mg/週まで明記
・JIA:4〜10mg/m²/週、最大値は明記されず
・かつては小児の方が成人より高用量を投与されるケースがあった
・小児では腎排泄が早く、副作用が少ない
・成人特有の重篤な副作用(間質性肺炎、骨髄抑制)は小児では稀
・葉酸製剤併用で安全性を高めることが可能
リウマトレックスは「小児では効きにくい」と感じられる背景には、小児での忍容性が高く、副作用が少ないために十分な量まで増量できる という事情も関係しています。
成人と小児で同じ薬を使っていても、その薬物動態やリスクプロファイルは異なります。薬剤師として処方を鑑査するときには、「成人用量の基準だけで判断してはならない」という点を念頭に置く必要があります。