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高尿酸血症は治療しなくても良い?
公開. 更新. 投稿者:痛風/高尿酸血症.この記事は約9分43秒で読めます.
3,654 ビュー. カテゴリ:高尿酸血症の治療は必要か?
尿酸値の正常値は、2.1~7.0 mg/dlで、尿酸値7.0 mg/dl以上を高尿酸血症といいます。
昔は尿酸値7.0 mg/dl以上なら薬を飲んでいました。
現在は、血清尿酸値が常に9mg/dl以上である患者さんや、8mg/dl以上でも高血圧や腎障害の合併がある患者さんが、尿酸コントロール治療の対象になっています。
しかし、高尿酸血症の患者で実際に痛風をおこす患者はごくわずかなので、痛風を起こす直接の原因は別にあるとする考え方も存在します。
ちなみにアメリカでは痛風発作をおこしていない高尿酸血症患者に対する治療を推奨していません。
高尿酸血症=痛風ではない
性・年齢を問わず、血清尿酸値が血漿中の尿酸溶解濃度である7.0mg/dLを超えるものを高尿酸血症と定義される。
痛風は、高尿酸血症が持続した結果として関節内に析出した尿酸塩が起こす結晶誘発性関節炎であり、高尿酸血症と痛風は同義ではない。
痛風発作時には適正な薬物治療を行わなければ、痛風発作の増悪をまねき、適切に薬剤を服用しなければ十分な効果を得ることができないため、薬剤師の関与が必要である。
また、高尿酸血症患者は高血圧症や脂質異常症、肥満を合併していることが多く、高尿酸血症は、心血管イベントの危険因子となる可能性が高い。
そのため、長期にわたる尿酸値の良好なコントロールが必要であり、患者が継続して薬物治療、食事・運動療法を実施するよう薬剤師も関与する必要がある。
尿酸値は適当に下げれば良い?
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)」では尿酸降下薬の投与開始基準として、痛風関節炎がある患者には血清尿酸値が7.0mg/dL、痛風関節炎はないが合併病態がある患者には8.0mg/dL、痛風関節炎もなく合併病態もない患者には9.0mg/dLを超えた時点で尿酸降下薬の投与を考慮すると記載されている。
血清尿酸値を低く維持するほど痛風関節炎の発症頻度は低下する。
また、高尿酸血症は痛風のみならず慢性腎臓病(CKD)や高血圧、メタボリックシンドロームなどの合併症との関連が指摘されており、腎不全や動脈硬化性疾患の独立した危険因子となりうることも近年明らかにされつつある。
そのため、血清尿酸値は6.0mg/dL以下に維持する必要があると指摘されている。
しかし、実地診療では適正な血清尿酸値が意識されないままアロプリノールが投与されており、血清尿酸値のコントロールが不十分である場合が多い。
そのため、患者の血清尿酸値が適正にコントロール出来ているか、適した薬剤が使用されているかを確認することもポイントである。
尿酸値が高いとどうなる?
尿酸は通常は血液中に溶けこむ形で血液とともに体内を巡回していますが、血液に溶け込める量、いわゆる血液中の尿酸の濃度には限界点があります。
この尿酸が血液中に溶け込む事ができる限界濃度(尿酸飽和濃度)が尿酸値検査の基準値の上限とされている「7.0mg/dl」です。
尿酸値7を超えると、尿酸が血液中に溶け込むことができなくなって、尿酸塩の結晶となって出てくる。
そして、その尿酸塩の結晶が関節に蓄積されると炎症を起こして、痛みが起こる。それが痛風発作です。
6-7-8のルール
痛風の専門家の学会(プリン・ピリミジン代謝学会)では最近高尿酸血症・痛風の治療について「6・7・8のルール」を発表しました。
血液中の尿酸濃度の正常値は7mg/dl以下、8mg/dlを超えたら治療開始、治療目標は6mg/dlというものです。
薬を飲んでない人は7以下を目指して。
薬を飲んでいる人は6以下を目指したほうがいい。
薬を飲むと尿酸値はどのくらい下がる?
尿酸の基準値は7mg/dL以下。
血漿の中で尿酸は7mg/dLまでは溶けますが、これを超えると結晶になる傾向があります。
なので、7mg/dLを超えると高尿酸血症と診断される。
「薬を飲むと尿酸値がどのくらい下がりますか?」というような質問をしてくる患者さんがいる。
正直わからない。個人差あるしー、と言い逃れ。
体重100kgの人がダイエットで痩せられる幅と、体重60kgの人がダイエットで痩せられる幅は違う。
よくダイエット関連のCMで「○○を使って体重が平均10kg減った」とか言われても、もともとの体重がどのくらいだったか示されないと参考にはならない。
しかし「わかりません」と言うと、「薬剤師なのにそんなこともわからないのか?」と言われるので、目安を調べてみる。
ある記事に、ザイロリック(アロプリノール)だと1.5mg/dLくらいしか下げられないのに対し、フェブリク(フェブキソスタット)だと4.0mg/dL下げられると書かれていた。
フェブリクの添付文書に「投与開始後8週の血清尿酸値変化率(%)」が書かれています。
フェブリク40mg/日で、血清尿酸初期値8.83mg/dLで血清尿酸値変化率-41.5%ってことは、5.17mg/dLくらいにに下がったってことなのかな。3.5mg/dLくらい下げてるので「4.0mg/dL下げられる」という情報は合っていそう。
でも比較として表示されているアロプリノール200mg/日でも、血清尿酸初期値8.89mg/dLで血清尿酸値変化率-35.2%なので、5.76mg/dLくらいに下げているような。3.1mg/dLくらい下げてるわけで、ザイロリックが1.5mg/dLくらいしか下げられないという情報は疑わしい。
ザイロリックとかユリノームの添付文書だと、有効率という数値で示されており、血清尿酸値正常化率、つまり6.0mg/dL以下に下がった割合で示されている。
昔のガイドライン的には9.0mg/dL以上で高尿酸血症なので、9.0mg/dL以上→6.0mg/dL以下くらいには下げていると思われ、薬の服用により3~4mg/dL下げるという風に思われる。
痛風の診断は難しい
痛風発作は、第1中足趾節関節(足の親指のつけ根)などの下肢の関節に好発し、激痛という明確な自覚症状を伴うため診断は容易であると考えられがちである。
しかし、爪周囲炎や外反母趾、さらに腰椎由来の下肢症状など、さまざまな非関節炎疾患との鑑別が重要になる。
したがって、過去の高尿酸血症の罹患歴や、靴を脱がせて結節、腫脹、発赤の有無を確認することも重要である。
痛風は何科?
痛風発作自体は急性関節炎で整形外科を受診することが多く、整形外科で痛風を診ることも多いです。
しかし、痛風の治療は急性関節炎が治まった後の尿酸コントロールが重要ですので生活習慣の指導なども含めて内科が適当だろうと考えます。
泌尿器科は、痛風に合併しやすい尿路結石などがある場合に受診することがあり、痛風患者さんの尿路管理に熱心な先生もいますが、通常痛風で受診することはあまり考え難いです。
尿酸の下げ過ぎはよくない?
尿酸は抗酸化物質です。
抗酸化物質といえば、アンチエイジングの代名詞のような、体によさげな物質です。
老化防止作用や、最近では放射線被ばくに効くとかいう話もあります。
尿酸はビタミンCよりもはるかに強力な抗酸化物質であり、体内に一定量存在することにはおおきな意義がある。
尿酸 – Wikipedia
しかし過剰な尿酸は血管に炎症をもたらすことが近年の研究で判明しており、高尿酸血症は放置すべきではないとの論調が主流を占めつつある。
従来、高尿酸血症は痛風が発症しなければ積極的な治療対象ではありませんでした。
しかし、最近の研究でメタボリックシンドロームなど生活習慣病と尿酸が関連する可能性が示されたため、高尿酸血症と診断された時点で痛風がなくても、生活習慣の改善など治療を始めることが望ましいとされています。
痛風・核酸代謝学会の治療ガイドラインによると、高尿酸血症の診断基準は血中尿酸値7.0mg/dL以上。
すでに痛風がある場合は薬物療法に入る。6.0未満まで下げることが望ましい。
一方、痛風がない無症候性の高尿酸血症患者は、血中尿酸値8.0mg/dLから生活習慣の改善指導を、高血圧や慢性腎臓病(CKD)など合併症がある場合は、すぐに薬物療法に入る。データ不足で明確な結論は先送りされているが、こちらの暫定治療目標値も6.0未満。
痛風の有無によらず6.0未満に維持するとよいようです。
「Lower the Better~下げるほどよい」とされる血圧とは違い、下げ過ぎは好ましくありません。
というのも、尿酸は強力な抗酸化作用があるからです。
活性酸素は生体の老化や発がん性に関係する有害な物質で、さまざまな組織障害を引き起こす。
尿酸は活性酸素を掃除することで生体の組織を保護すると推測される。
しかし現代人の生活習慣では「低尿酸血症(基準値2.0mg/dL以下)」に陥る可能性は少ない。
そのため、尿酸の下がり過ぎを心配するよりも、高尿酸血症の治療を積極的に行った方が良いというわけだ。
尿酸は抗酸化物質?
痛風の原因物質として悪者扱いの尿酸ですが、少量の尿酸は体を守るような働きがあるのではないかといわれています。
実は体の中に尿酸が溜まるのは、哺乳類では霊長類といわれるヒトとチンパンジーだけです。
一般に哺乳類では尿酸をアラントインに分解するウリカーゼという酵素があるのですが、オラヌータンからチンパンジーに至る進化の過程でなくなってしまったのです。
ヒトとチンパンジーは、体の大きさと寿命とを考えた場合に他の哺乳類に比べて発がん率が低いため、尿酸には抗酸化作用があるのではないかといわれています。
ただ、そのためにはごくわずかな量の尿酸があれば十分です。
痛風を起こすほどの尿酸は必要ありません。
尿酸による痛風発作のメカニズム
体内に細菌やウイルスが侵入すると白血球が戦いを挑みます。
その戦いの様を実感できるのが痛風発作です。決まって早朝の4時頃ピークに達する痛風発作の激痛。炎症で真っ赤に腫れた足の親指の付け根で何が起こっているのか。
血液中に溶けきれなくなった過剰な尿酸は、針状の結晶(尿酸塩結晶)となって関節組織に沈着します。そして、何らかの物理的刺激やストレスなどによる尿酸値の急激な変動によって尿酸塩結晶がはがれ落ち、関節腔内に放出されると、白血球などの炎症細胞が異物と認識して遊走してきます。
白血球は尿酸塩結晶を貪食し、蛋白分解酵素や炎症メディエーターを放出します。その際に起こるのが痛風発作の激痛なのです。
尿酸酸化酵素
尿酸は体内で合成されたプリン体や」食物から吸収されたプリン体の最終代謝産物です。
多くの哺乳類には「尿酸酸化酵素」が存在し、尿酸はアラントインに分解されます。さらに、硬骨魚類ではアラントイン酸に、両生類や軟骨魚類では尿素に分解されます。
しかし、ヒト、チンパンジー、ゴリラなどの大型類人猿と一部の旧世界ザル、鳥類、一部の爬虫類は、突然変異によって尿酸酸化酵素の活性が失われているため、尿酸を分解することができないのです。
この酵素遺伝子の研究から、大型類人猿では約1500万年前に、一部の旧世界ザルでは約900万年前に突然変異が起こったといわれています。
このように、比較的近い時期に独立して突然変異が起こったことは、何らかの自然選択が働いて尿酸酸化酵素を失ったことが示唆され、特に大型類人猿がこの酵素を失ったことは、進化学的にみて有利な突然変異であったといわれています。
尿酸の役割
霊長類の最大寿命と尿酸レベルの間に一定の関係がみられ、尿酸レベルが高いほど最大寿命が長いことが明らかになっています。
また、糖尿病患者や喫煙者に尿酸を投与(尿酸1000mgを静脈内に投与)して血清尿酸値を上昇させると、低下していた血管内皮細胞の機能が健常人レベルまで回復することも報告されています。
さらに、特発性腎性低尿酸血症患者では低尿酸血症そのものが運動後急性腎不全の発生促進因子といわれています。
これまで、尿酸は不要の物質とされ、その生理的意義はほとんど研究されてきませんでした。しかし、尿酸は活性酵素のスカベンジャーとして働き、ビタミンやポリフェノールなどより遥かに強力な抗酸化効果をもっていることが明らかになりつつあります。
そのため、血中の尿酸は腎で約90%が再吸収され、実際に尿中に排泄されるのはわずか10%に過ぎないのです。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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