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ニキビにイブプロフェンが効く作用機序
公開. 更新. 投稿者:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約3分48秒で読めます.
149 ビュー. カテゴリ:イブプロフェンとニキビ

「イブプロフェン」と聞くと、「イブ」や「ブルフェン」など、鎮痛・解熱用の内服薬を思い浮かべる方が多いかと思います。
プロピオン酸系のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に属し、炎症を抑える作用があります。
内服薬だけでなく、塗り薬としてもイブプロフェンが存在します。
ベシカムクリームやスタデルムクリームといった外用薬です。
成分名が「イブプロフェンピコノール」です。
ニキビ(尋常性ざ瘡)に対して正式に保険適応があるNSAIDs外用薬です。ちなみに、ベシカム軟膏やスタデルム軟膏といった軟膏基剤のほうには尋常性ざ瘡の適応はありません。
イブプロフェンピコノールとは
まずこの薬、名前がややこしい。
「イブプロフェン」と「ピコノール」という物質がエステル結合でくっついた構造をしており、塗布後に体内で分解されてそれぞれの成分になります。
では、なぜわざわざ合成してこの形にするのか?
それには理由があります。
・経皮吸収をよくするため
・患部で効率的に活性化させるため
・副作用を抑えるため
つまり、「塗るための設計」がされたイブプロフェンなのです。
ニキビへの効果:ポイントは「リパーゼ」
添付文書の薬効薬理には、こんな記載があります。
「イブプロフェンピコノールはモルモット皮膚リパーゼ活性およびアクネ菌(Propionibacterium acnes)由来のリパーゼ活性をin vitroで強く抑制した」
これ、実は非常に重要なポイントです。
リパーゼとは、皮脂を分解して遊離脂肪酸を生み出す酵素です。
アクネ菌はこのリパーゼを使って皮脂を分解し、遊離脂肪酸を発生させます。
この遊離脂肪酸が皮膚に刺激を与え、炎症(赤く腫れる)を引き起こし、ニキビの悪化につながるのです。
アクネ菌が悪さをする
↓
リパーゼで皮脂を分解
↓
遊離脂肪酸が発生
↓
炎症が起こる
↓
ニキビになる
ここでイブプロフェンピコノールが登場。
この薬はリパーゼの働きを抑えることで、アクネ菌の“炎症トリガー”を止めにかかるのです。
ほかのNSAIDsではだめなのか
この「リパーゼ阻害作用」、実はほかのNSAIDs(インドメタシンやケトプロフェンなど)ではあまり報告されていません。
イブプロフェンピコノール特有の性質だと考えられており、
「ただの抗炎症薬」ではなく、「ニキビの発症メカニズムに切り込む薬」として設計されていることがわかります。
「それならイブプロフェンを飲めばいいのでは?」
と思うかもしれませんが、残念ながらそれではダメです。
・全身性の副作用(胃障害など)が出やすい
・皮脂腺に集中的に効かせるのが難しい
・ニキビの局所治療には向いていない
皮膚に直接届けて、リパーゼの暴走を抑えるためには「外用薬」である必要があるのです。
外用レチノイド系(ディフェリンなど)や抗菌薬(ダラシン、ゼビアックスなど)が主力ではあるものの、「炎症をやわらげるだけ」の治療も一定の需要があります。
とくに、肌が弱い患者、赤みだけが気になるケースでは選択肢に入ってきます。
イブプロフェンピコノールは、華やかな作用を持つ薬ではありませんが、
「ニキビの根本原因のひとつ」であるリパーゼの働きを抑えるという、
とても理にかなった薬です。
・抗炎症作用 + リパーゼ阻害
・アクネ菌の「酵素攻撃」を抑える
・飲むNSAIDsにはない局所作用
・他のNSAIDsにはない特異性
「ニキビ=菌を殺すか、皮膚をターンオーバーさせる」と思いがちですが、
「菌の出す酵素を抑える」という治療もあるという視点は、薬剤師として知っておきたい知識のひとつではないでしょうか。
イブプロフェンピコノールを含む市販薬もあります。
「他のニキビ治療薬が合わない」「刺激が強すぎる」といった方には、イブプロフェンピコノールが一つの選択肢になるかもしれません。