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高血圧や糖尿病の人が飲めない風邪薬
公開. 更新. 投稿者: 117 ビュー. カテゴリ:風邪/インフルエンザ.この記事は約4分20秒で読めます.
目次
プソイドエフェドリン含有風邪薬の注意点

プソイドエフェドリン(pseudoephedrine)は、市販の総合感冒薬や鼻炎薬に配合されることが多い交感神経刺激薬です。鼻閉を改善する効果がある一方で、交感神経作用に基づく副作用や、乱用・違法使用の問題から、薬剤師が調剤・販売の場面で注意すべき点が数多く存在します。
薬剤師が現場で見逃してはならない「大量購入のリスク」と「禁忌・慎重投与対象患者の見極め」を中心に、プソイドエフェドリン含有薬に関する注意点をまとめます。
プソイドエフェドリンとは
薬理作用
プソイドエフェドリンは、交感神経を刺激し、鼻粘膜の血管収縮を促します。その結果、鼻粘膜の腫脹が軽減され、鼻閉症状が改善します。効果は比較的速やかであり、かぜ薬や鼻炎薬に配合される理由はここにあります。
主な配合製剤
・総合感冒薬(例:パブロン系、コンタック系 など)
・鼻炎薬(例:ナザールスプレー内服薬タイプ など)
これらはドラッグストアや薬局で広く購入できるため、患者にとって身近な薬剤です。
大量購入と乱用リスク
覚醒剤原料問題
プソイドエフェドリンは、違法に覚醒剤の原料として利用されることが海外で大きな社会問題となりました。日本国内でもその可能性が否定できず、薬局での販売にあたっては購入量や販売記録に注意が必要です。
大量購入の兆候
薬剤師が気をつけるべきサインとして以下が挙げられます。
・同一人物が短期間に大量購入を試みる
・家族や代理購入を装って複数回購入する
・特定の成分を含む製品のみを目的買いする
こうしたケースでは乱用・転売目的を疑い、販売を控える、または適切に販売記録を残す対応が求められます。
プソイドエフェドリンを避けるべき患者
プソイドエフェドリンを含有するアレグラFXプレミアム(ディレグラのスイッチOTC)には「服用しないでください」として以下の患者が挙げられている。
(1)本剤又は本剤の成分によりアレルギー症状を起こしたことがある人
(2)15才未満の小児
(3)次の症状のある人:尿閉,前立腺肥大による排尿困難
(4)次の診断を受けた人:高血圧,心臓病,甲状腺機能障害,糖尿病,緑内障
(5)かぜ薬,鎮咳去痰薬,鼻炎用内服薬などにより,不眠,めまい,脱力感,ふるえ,動悸を起こしたことがある人
高血圧患者
交感神経刺激作用により血圧を上昇させる可能性があります。特に降圧薬を服用している患者では、コントロール不良の原因となり得ます。
心疾患患者
頻脈や心筋梗塞リスクの増加が懸念されます。既往歴がある場合には使用を避けることが望ましいです。
糖尿病患者
交感神経刺激により血糖コントロールに悪影響を与える可能性があります。糖尿病治療薬を使用している患者では注意が必要です。
甲状腺機能亢進症
代謝が高まり、心悸亢進や不整脈のリスクが増加するため禁忌です。
前立腺肥大症
排尿困難を悪化させることがあります。
ディレグラを避けるべき患者
市販のアレグラFXプレミアムと同じ成分の医療用医薬品のディレグラの禁忌には、
・重症の高血圧の患者[症状が悪化するおそれがある。]
・重症の冠動脈疾患の患者[症状が悪化するおそれがある。]
・閉塞隅角緑内障の患者[症状が悪化するおそれがある。]
・尿閉のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
という記載があるが、「高血圧」や「糖尿病」だからといって、服用していけないわけではない。
花粉症増悪時の短期間の使用であれば、影響は少ないかもしれないが、注意を要する。
薬剤師が現場で行うべき確認事項
購入者の背景確認
OTC薬販売時には、購入目的や既往歴、他薬との併用状況を確認します。特に高血圧・糖尿病などの基礎疾患を持つ患者を見逃さないことが重要です。
他の成分との重複
総合感冒薬には複数の成分が含まれているため、鎮咳成分や抗ヒスタミン薬との相互作用、副作用の重複にも注意が必要です。
代替薬の提案
鼻閉改善を目的とする場合でも、プソイドエフェドリンを避けたい患者には他の成分を含む薬剤や点鼻薬を提案することができます。
販売記録と情報共有
店舗内での販売記録を残し、スタッフ間で共有することで、大量購入や不自然な購入パターンを早期に察知できます。
ケーススタディ:服薬指導での会話例
ケース1:高血圧患者
患者「市販のかぜ薬が欲しいのですが…」
薬剤師「現在、血圧の薬を飲まれていますか?」
患者「はい」
薬剤師「プソイドエフェドリンを含む薬は血圧を上げてしまうことがあるので、別のタイプの薬を選んだ方が安心です。」
ケース2:大量購入を希望する人
購入者「この薬を10箱ください」
薬剤師「こちらは一度に大量に使用するものではありません。体調を拝見すると別の対応が必要かもしれませんので、まずは1箱で様子を見ていただけませんか?」
こうした声かけが、患者の安全と違法利用防止の両面で重要となります。
海外での規制動向
・米国:一定量以上の購入には身分証提示と記録義務
・オーストラリア:処方箋医薬品扱い
・日本:現状はOTC販売可能だが、薬剤師による適切な販売判断が求められる
規制は国ごとに異なりますが、共通するのは「乱用防止のための監視強化」です。
薬剤師へのメッセージ
プソイドエフェドリン含有薬は一見すると「ありふれた市販薬」ですが、その裏には 乱用・違法使用リスク、重篤な副作用リスク が潜んでいます。薬剤師は、単なる販売者ではなく、患者と社会を守る「ゲートキーパー」としての役割を担っています。
・患者背景を聞き出す
・適切な薬を提案する
・不自然な購入には毅然と対応する
これらを徹底することが、安全な薬物使用のために不可欠です。
まとめ
・プソイドエフェドリンは鼻閉改善に有効だが、交感神経刺激作用によるリスクを持つ。
・大量購入は乱用・違法利用の兆候であり、薬剤師の監視が必要。
・高血圧、心疾患、糖尿病、甲状腺機能亢進症、前立腺肥大症などは禁忌・注意対象。
・海外では規制強化が進んでおり、日本でも薬剤師の責任ある販売姿勢が問われている。



