2025年7月4日更新.2,510記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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吸入剤を使う順番は?

吸入剤を使う順番と正しい使い方

喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療では、さまざまな吸入薬が処方されます。
しかし、「どの順番で吸ったらいいの?」「間隔はどうすればいい?」と戸惑う患者さんは少なくありません。

吸入治療は薬の効果を最大限にするだけでなく、誤った使い方を防ぎ副作用を減らすためにも正しい手順が大切です。
β2刺激薬・吸入ステロイド薬・抗コリン薬などの主な吸入剤の順番と使い方のポイントを整理し、勉強します。

吸入剤の主な種類と役割

まず、吸入薬の種類を理解しておきましょう。

●短時間作用性β2刺激薬(SABA)
・発作時の緊急用(リリーバー)
・例:サルブタモール(ベネトリン)、プロカテロール(メプチン)

●長時間作用性β2刺激薬(LABA)
・発作予防の維持療法(コントローラー)
・例:サルメテロール(セレベント)、ホルモテロール(オーキシス)

●吸入ステロイド薬(ICS)
・気道の炎症を抑える
・例:フルチカゾン(フルタイド)、ブデソニド(パルミコート)

●抗コリン薬(LAMA)
・気管支平滑筋の収縮を抑える
・COPDでよく使う
・例:チオトロピウム(スピリーバ)、グリコピロニウム

●配合剤(ICS/LABAなど)
・コントローラーの成分を1つの吸入器に配合
・例:シムビコート、アドエア

この中で、β2刺激薬と吸入ステロイド薬を併用する際の順番が特に重要です。

β2刺激薬と吸入ステロイド薬の順番

基本の順番
・β2刺激薬 → 吸入ステロイド薬

この順番が推奨される理由は、
・β2刺激薬が気管支を拡げる
・気道が広がることで、ステロイドの粒子が末梢気道に届きやすくなる
・結果として抗炎症作用が高まる

特に短時間作用型β2刺激薬(発作止め)を使用した場合は、この順番が明確です。

長時間作用型β2刺激薬の場合
セレベント(サルメテロール)などは最大効果が出るまで約30分かかるため、
「吸入の順番で即時の効果の差は小さい」とされています。

しかし、使用後のうがいを確実に行うため、ステロイド吸入を最後にすることが多いです。

実際の使い方例

例1:短時間β2刺激薬とICS併用
・発作があればまずβ2刺激薬を吸入
・数分~10分程度待つ(気道拡張を期待)
・吸入ステロイドを吸入
・うがいを行う

例2:LABA単剤とICS併用
・順番の厳密さはやや緩和
・最後にICSを吸入し、うがいをする

吸入の間隔と息止め

吸入間隔
複数の吸入薬を使う場合、厳密な時間の間隔は決まっていません。

ただし、
・1回吸入後に5~10秒間息を止める
・その後にゆっくり呼気をする
・呼吸が落ち着いてから次の吸入を行う

この流れを守ると、十分に薬が気道に沈着しやすくなります。

息止めの理由
吸入薬の粒子が肺に沈着するまで数秒かかるため、すぐに吐き出すと効果が下がります。
「吸ってすぐ吐く」は避け、息を止める時間を確保しましょう。

うがいの重要性

吸入ステロイド薬は、口腔や咽頭に沈着すると

・口腔カンジダ症
・嗄声(声のかすれ)

を引き起こすことがあります。

吸入後は必ずうがい(または水を含んで吐き出す)を行うことが大切です。

特にICSを最後に吸入する理由の一つが、この「うがいしやすい流れを作る」ことです。

配合剤の場合の考え方

最近は「ICS+LABA」の配合剤が主流になっています。

・シムビコート(ブデソニド+ホルモテロール)
・アドエア(フルチカゾン+サルメテロール)

配合剤では別々の順番を考える必要はありません。
1つの吸入で両方の成分が気道に届くので、
・うがいを最後に行う
・吸入後の息止めを守る
この2点を徹底すれば十分です。

実務でよくある質問と回答

Q1:複数回吸入する場合、何分あけるべき?
→吸入後に呼吸が落ち着けば、すぐに次の吸入をして問題ありません。
ただし、吸うごとに「息止め→呼気→呼吸を整える」を守ります。

Q2:吸入後にうがいを忘れたら?
→気づいた時点でうがいを行います。数時間経過しても、うがいをしておくと口腔カンジダのリスク低下につながります。

Q3:うがいの代わりに水を飲んでいい?
→飲むだけでは薬を吐き出せず、口腔内に残ることがあります。うがいして吐き出すのが基本です。

デバイスによる吸入のコツ

吸入器のタイプにより操作が異なります。

●MDI(定量噴霧式吸入器)
・吸入と噴霧を同調する必要がある
・ゆっくり深く吸い込む

●DPI(ドライパウダー吸入器)
・吸気で薬剤を引き込む
・強く素早く吸い込む

●ソフトミスト吸入器(SMI)
・MDIより操作が容易
・ゆっくり深く吸い込む

デバイスの種類によっても吸入動作が異なるため、指導時は患者さんの使う器具を確認しましょう。

まとめ:吸入薬の使い方のポイント

順番
・発作時:短時間β2刺激薬 → ICS
・維持療法:LABA → ICS(もしくはICS/LABA配合剤)
・ICSは最後に吸入し、うがいを徹底

吸入後の動作
・5~10秒息を止める
・吸入後にしっかりうがい

デバイスの操作
・吸入器の種類を確認
・正しい吸入動作を練習

吸入薬は「ただ吸えばいい」と思われがちですが、順番や操作のちょっとした工夫が薬効に大きく影響します。

「いつも同じ使い方で大丈夫かな?」と疑問に思ったときは、遠慮なく医師や薬剤師に相談してください。

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