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なぜ前立腺は肥大するのか?
公開. 更新. 投稿者:前立腺肥大症/過活動膀胱.この記事は約3分9秒で読めます.
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なぜ前立腺は肥大するのか?―前立腺肥大症のメカニズムと治療、そして「戻らないのか?」という疑問

男性が中高年以降に直面する泌尿器の代表的疾患が前立腺肥大症(Benign Prostatic Hyperplasia: BPH)です。夜間頻尿や排尿困難、残尿感といった下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptoms: LUTS)を引き起こし、生活の質を大きく下げる要因となります。
「なぜ前立腺は肥大するのか?」
「肥大してしまった前立腺は元に戻らないのか?」
こうした疑問は患者さんからもよく聞かれるものです。前立腺肥大症のメカニズム、治療法、そして誤解されやすい前立腺癌との違いについて整理します。
前立腺の役割と位置
前立腺は男性にしか存在しない生殖器官で、膀胱の直下にあり、尿道を取り囲むように位置しています。大きさは成人でおよそ15g、栗の実に例えられる形をしています。
主な役割は前立腺液の分泌です。前立腺液は精液の15〜30%を占め、クエン酸、亜鉛、酵素(プロテアーゼなど)を含み、精子の活動を助けます。また、射精時の収縮や尿排泄の制御にも関与しているとされますが、機能の全容は未解明な部分も多く、まさに「謎の臓器」とも言えます。
前立腺が肥大するメカニズム
ホルモンの影響
加齢に伴い、テストステロンから変換されるジヒドロテストステロン(DHT)の作用が重要になります。DHTはテストステロンより約10倍強い前立腺肥大作用を持ち、アンドロゲン受容体に結合して細胞増殖を促進します。
テストステロン →(5α還元酵素)→ DHT
前立腺内ではテストステロンよりDHTの方が優位に存在し、細胞増殖を刺激。
細胞増殖と細胞死のバランス崩壊
中高年になると、前立腺細胞の増殖>アポトーシスという不均衡が生じ、組織が徐々に肥大していきます。
自律神経の影響
前立腺の平滑筋にはα1受容体が存在し、交感神経刺激により収縮します。これが尿道を圧迫し、排尿困難の一因になります。
前立腺肥大症による症状(LUTS)
前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、排尿障害が生じます。典型的な症状には以下があります。
・排尿困難:尿線が細くなる、途切れる。
・排尿遅延:排尿開始まで時間がかかる。
・頻尿:特に夜間頻尿。
・残尿感:排尿後もスッキリしない。
これらは進行すると腎機能障害や尿路感染のリスクを高めるため、早めの治療が望まれます。
薬物療法
α1遮断薬
・前立腺や膀胱頸部の平滑筋を弛緩させ、尿道抵抗を下げる。
・効果は早いが、前立腺自体の大きさを縮小させる作用はない。
5α還元酵素阻害薬(デュタステリド、フィナステリド)
・テストステロン→DHT変換を阻害。
・半年ほどかけて前立腺体積を20〜30%縮小できる。
・性欲減退など副作用はあるが、抗アンドロゲン薬に比べ軽度。
抗アンドロゲン薬
・前立腺を縮小させるが、副作用(性機能障害、肝障害、女性化乳房など)が強いため現在は主流ではない。
肥大した前立腺は戻るのか?
答えは「薬で縮小は可能だが、完全に元通りにはならない」です。
・5α還元酵素阻害薬により縮小が見込めるが20〜30%程度。
・治療を中断すれば再び肥大傾向に戻る。
・外科的治療(TURPなど)で物理的に切除すれば排尿障害は改善するが、臓器そのものが「自然に若い頃の状態に戻る」ことはない。
前立腺癌との違い
・前立腺肥大症:内腺に発生する良性腫瘤。転移なし。
・前立腺癌:外腺に発生。初期は無症状で進行すると骨やリンパ節に転移。
両者は発生部位も病態も異なり、肥大症が癌に進行することはないとされています。ただし、同年代に併存することは珍しくなく、鑑別が重要です。
治療の選択肢と生活習慣
・薬物療法:軽症〜中等症。
・外科的治療:重症例や薬物効果が乏しい場合。TURP、HoLEPなど。
・生活習慣改善:水分摂取の工夫、アルコールやカフェイン制限、適度な運動など。
まとめ
・前立腺肥大は加齢とホルモン(特にDHT)の影響で起こる。
・肥大により排尿障害(LUTS)が生じる。
・薬物療法で症状改善・縮小は可能だが、完全に「元の状態」に戻るわけではない。
・前立腺癌とは別の病気であり、肥大症が癌に進展することはない。
・適切な薬物療法と生活習慣改善、必要に応じた外科治療で生活の質は保てる。