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鼻炎の薬でダイエット?
公開. 更新. 投稿者:栄養/口腔ケア.この記事は約4分17秒で読めます.
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鼻炎の薬でダイエット?

「鼻炎薬で痩せるって聞いたけど本当?」「昔は風邪薬で痩せ薬として使われていたものがあるって…?」
そんな噂を耳にしたことがあるかもしれません。
かつて風邪薬や鼻炎薬に含まれていた成分がなぜ「ダイエット目的」で使われ、そしてなぜ販売中止や規制に至ったのか。
結論から言えば、「鼻炎薬でダイエット」は誤用・乱用の結果であり、命に関わる重大な副作用を引き起こす可能性があるため、絶対に推奨されるものではありません。
「ダン・リッチ」とは?かつて存在した医療用風邪薬
「ダン・リッチ」という名前を聞いたことがある方は、医療関係者か、かなり前の市販薬事情に詳しい方かもしれません。
この薬は、かつて医療機関で処方されていた総合感冒薬(風邪薬)で、以下のような成分が含まれていました。
● 医療用ダン・リッチの主成分
・塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)
・塩酸ジフェニルピラリン
・ヨウ化イソプロパミド
この中でも、特に問題となったのが「塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)」です。
塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)とは?
PPA(Phenylpropanolamine)は、交感神経刺激作用をもつ化合物で、鼻粘膜の血管を収縮させることにより、鼻づまりを改善する作用がありました。
さらにこのPPAは、中枢神経にも作用して食欲を抑える効果があることがわかっており、アメリカでは肥満治療薬(食欲抑制剤)としても使われていました。
● ダイエット目的での乱用:
PPAの「食欲抑制作用」を利用して、一部の若年女性がダイエット目的で風邪薬を乱用するという現象が日本でも問題視されるようになりました。
「鼻炎薬や風邪薬で食欲がなくなるから痩せる」といった誤った認識が広がったのです。
● 深刻な副作用:若年女性の脳出血:
1990年代後半、アメリカでPPAを含む製剤の使用により、脳出血を起こす症例が複数報告されました。
特にリスクが高かったのは:
・10〜30代の健康な女性
・食欲抑制目的でPPAを使用していた人
こうした報告を受け、FDA(米国食品医薬品局)は2000年に「PPAの販売中止」を勧告。日本でもそれを受けてPPAを含む医療用医薬品は全て販売中止となりました。
エフェドリン類もダイエット目的で乱用されていた
PPAと構造が似ている物質に「エフェドリン」や「ノルエフェドリン(=PPAの別名)」があります。これらも交感神経刺激薬で、もともとは喘息薬や咳止め**として使用されていました。
しかし、脂肪燃焼を促進する効果や、食欲抑制作用があることから、これらの薬もまたダイエット目的で乱用されることがありました。
● エフェドラ(Ephedra)騒動:
アメリカでは、「エフェドラ」と呼ばれるハーブ製品に天然のエフェドリンアルカロイドが含まれていたことから、これを使ったサプリメントが大量に販売され、ダイエットブームを巻き起こしました。
しかしその後、心血管障害・高血圧・心筋梗塞・突然死などの副作用が多数報告され、FDAは2004年にエフェドラ製品の販売を全面禁止しました。
● サルブタモール・クレンブテロールの乱用も:
サルブタモール(気管支拡張薬)やクレンブテロール(家畜用の成長促進剤)が筋肉増強・脂肪燃焼作用を目的にスポーツ選手や一般人に乱用された例もあり、ドーピング規制薬物にも指定されています。
これらの薬は本来、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療に欠かせない薬剤であり、不適切な使用は命に関わるリスクを伴います。
現在販売されている「ダンリッチ鼻炎カプセル」は別物?
「ダン・リッチ」という名前は現在も市販薬で見かけることがあります。たとえば、
● 市販薬:ダンリッチ鼻炎カプセルS
・dl-メチルエフェドリン塩酸塩 72mg
・ヨウ化イソプロパミド 5mg
・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 4mg
・無水カフェイン 100mg
現在販売されているこの市販薬にはPPA(フェニルプロパノールアミン)は含まれておらず、代わりにメチルエフェドリンやカフェインなどが配合されています。
つまり、名前は似ていても成分も作用もまったく異なる薬です。
「鼻炎薬で痩せる」は誤解。危険な都市伝説
過去に食欲を抑える作用のある成分が含まれていたことがあったために、「鼻炎薬で痩せる」といった情報がいまだにインターネット上に残っていることがあります。
しかし、これは明確に誤った情報であり、以下のような理由で危険です:
・本来の用途(風邪や鼻炎の治療)以外で使用することで重篤な副作用を引き起こすリスクがある
・薬に頼った無理なダイエットは栄養障害・心臓病・精神不調の原因にもなる
・医薬品は、効果よりも安全性の確保が第一
薬剤師からのアドバイス:薬を「やせ薬」として使ってはいけない理由
薬局には、「風邪薬を飲んだら体重が落ちた」「鼻炎の薬を飲んでいたら食欲が減った」といった経験をもつ患者さんが来局することがあります。
こうした方には、以下の点を丁寧に説明する必要があります。
・それは「副作用」であって「効果」ではないこと
・同じ成分でも量や体質によっては中枢神経系に重大な影響を及ぼすこと
・服用目的と異なる使用は医薬品医療機器等法(薬機法)違反や副作用被害救済制度の対象外
正しいダイエットは薬ではなく生活習慣から
最後に強調したいのは、薬に頼ったダイエットは持続しないうえに危険だということです。
健康的な減量を目指すなら、
・栄養バランスの取れた食事
・適度な運動
・十分な睡眠
・ストレス管理
これらが不可欠です。
医薬品はあくまで「病気を治すための道具」であり、「痩せるための手段」ではありません。
「薬で痩せる」は医学ではなく、誤解と危険の産物です。
もし「薬で痩せられる」という情報を見かけたら、それは誰かの健康を犠牲にした過去の事例かもしれません。