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蛋白尿は何が悪い?―腎機能低下のサインだけではない
公開. 更新. 投稿者: 106 ビュー. カテゴリ:腎臓病/透析.この記事は約7分12秒で読めます.
蛋白尿と腎機能

健康診断などで「尿蛋白+」と言われると、
「尿から蛋白が出ているから、体の蛋白が減ってしまうのだろうか?」
と思うかもしれない。
確かにネフローゼ症候群のように大量の蛋白が尿中へ失われれば、低アルブミン血症や浮腫につながる。
しかし、軽度~中等度の蛋白尿で問題となるのは、単純に「体から蛋白がもったいなく漏れている」ということだけではない。
蛋白尿は、
① 腎臓が傷んでいることを示すサイン
であると同時に、
② 蛋白尿そのものが腎障害を進行させる因子
でもある。
そのため、CKD(慢性腎臓病)の治療ではeGFRだけでなく、蛋白尿・アルブミン尿を減らすことも重要な目標となる。
そもそも、なぜ尿に蛋白が出ないのか?
血液中にはアルブミンをはじめ、さまざまな蛋白質が存在している。
腎臓では血液が糸球体で濾過されて原尿が作られるが、正常な糸球体では血液中の蛋白質が大量に尿へ漏れないようになっている。
ところが糸球体の濾過障壁が障害されると、本来なら血液中にとどまるはずのアルブミンなどが尿中へ漏れやすくなる。
つまり、
糸球体障害
↓
蛋白が漏れる
↓
蛋白尿
という関係である。
一方、尿細管での蛋白再吸収が障害されることによって生じる尿細管性蛋白尿などもあり、「蛋白尿=すべて糸球体障害」というわけではない。
蛋白尿=腎機能低下ではない
ここは重要なポイントである。
「蛋白尿がある=腎機能が低下している」
と考えたくなるが、厳密には少し違う。
一般的に腎機能を評価するeGFRは、腎臓がどの程度血液を濾過できているかを表している。
一方、蛋白尿・アルブミン尿は、腎障害の存在を示す別の指標である。
そのため、
eGFRは正常なのに蛋白尿がある
という患者も存在する。
日本腎臓学会のCKD診療ガイド2024でも、CKDはGFRだけで判断するものではない。0.15g/gCr以上の蛋白尿や30mg/gCr以上のアルブミン尿など、腎障害を示す所見が3カ月を超えて持続する場合には、GFRが60mL/分/1.73m²以上であってもCKDとなり得る。
したがって、
eGFR=腎臓の濾過能力
蛋白尿=腎障害を捉える重要な指標
くらいに分けて考えたほうがよい。
なぜ蛋白尿そのものが腎臓に悪いのか?
蛋白尿は単なる「腎臓が悪くなった結果」ではない。
糸球体から漏れた蛋白質は尿細管へ流れていく。
少量であれば近位尿細管で再吸収されるが、大量の蛋白が流れ込む状態が続くと尿細管に負担がかかり、炎症や間質の線維化などに関係すると考えられている。
つまり、
糸球体が傷む
↓
蛋白尿が増える
↓
尿細管・間質にも負担がかかる
↓
腎障害が進行する
↓
さらに蛋白尿が増える
という悪循環が起こり得る。
このため蛋白尿は、腎障害の「マーカー」であると同時に、腎障害を進行させる「メディエーター」としての側面も持つ。
蛋白尿が多いほど腎予後も悪い
CKDでは腎機能だけでなく、蛋白尿・アルブミン尿の程度も予後予測に使用される。
日本のCKD重症度分類では、
C:Cause(原因疾患)
G:GFR
A:Albuminuria/蛋白尿
を組み合わせた「CGA分類」で評価する。
例えば糖尿病以外のCKDでは、尿蛋白/Cr比によって、
- A1:0.15g/gCr未満
- A2:0.15~0.49g/gCr
- A3:0.50g/gCr以上
と分類される。
GFRが同程度でも蛋白尿が多いほど、末期腎不全や心血管疾患などのリスクが高くなる。
したがってCKD患者を見るときには、
「eGFRはいくつか?」
だけでなく
「蛋白尿はどのくらい出ているか?」
を見ることが重要になる。
尿蛋白とアルブミン尿は同じ?
厳密には違う。
「尿蛋白」は尿中に存在するさまざまな蛋白質をまとめて測定する。
一方、「尿アルブミン」はその中のアルブミンに着目して測定する。
特に糖尿病関連腎臓病では、比較的早期からアルブミン尿が増加するため重要な指標となる。
そのため糖尿病関連腎臓病では、
- A1:30mg/gCr未満
- A2:30~299mg/gCr
- A3:300mg/gCr以上
というアルブミン尿区分が用いられる。
「尿蛋白+」だけでは判断できない
尿試験紙による「-」「±」「+」「2+」などはスクリーニングとして便利だが、尿の濃さに影響される。
同じ量の蛋白が排泄されていても、濃縮尿なら強く陽性になり、薄い尿なら弱く出る可能性がある。
そのため蛋白尿を正確に評価する場合には、
尿蛋白/Cr比(g/gCr)
などによる定量評価が重要になる。
また、一度尿蛋白が陽性になったからといって、必ず慢性腎臓病とは限らない。
激しい運動、発熱、ストレス、起立などでも一過性に蛋白尿が認められることがある。
CKDの診断では「持続しているか」という時間軸も重要である。
蛋白尿を減らす薬① ACE阻害薬・ARB
蛋白尿を伴うCKD治療で重要なのがRAAS阻害薬である。
代表的なのが、
ACE阻害薬
ARB
である。
アンジオテンシンⅡには、糸球体から血液が出ていく側にある「輸出細動脈」を収縮させる作用がある。
これは糸球体内の圧力を維持する方向に働く。
ACE阻害薬やARBでアンジオテンシンⅡの働きを抑えると、
輸出細動脈が拡張
↓
糸球体内圧が低下
↓
蛋白が漏れにくくなる
↓
蛋白尿・アルブミン尿減少
という効果が期待できる。
したがってACE阻害薬・ARBは、単に「血圧を下げる薬」というだけではない。
糸球体内圧を下げることで腎臓を保護する薬
という側面を持つ。
KDIGO 2024では、アルブミン尿を伴うCKDに対してACE阻害薬またはARBの使用が推奨・提案されている。
ただし、ACE阻害薬とARBを併用して蛋白尿をさらに下げればよいというものではない。KDIGOではACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬の併用を避けることが推奨されている。
蛋白尿を減らす薬② SGLT2阻害薬
現在のCKD治療でもう一つ重要なのがSGLT2阻害薬である。
もともとは糖尿病治療薬として登場したが、現在では「血糖を下げる薬」だけではなく、腎保護薬として重要な位置を占めている。
SGLT2阻害薬は近位尿細管でNaとブドウ糖の再吸収を抑える。
すると緻密斑へ届くNaClが増え、尿細管糸球体フィードバック(TGF)が回復する。
その結果、主として輸入細動脈側から糸球体の過剰濾過・糸球体高血圧が是正される。
非常に単純化すれば、
ACE阻害薬・ARB
→ 糸球体の「出口」を広げて内圧を下げる
SGLT2阻害薬
→ 糸球体の「入口」側から過剰な濾過を抑える
とイメージすると分かりやすい。
KDIGO 2024では糖尿病の有無だけでなく、一定のeGFR・アルブミン尿などの条件を満たすCKD患者にSGLT2阻害薬が推奨されている。
蛋白尿を減らす薬③ フィネレノン
非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)であるフィネレノンも、糖尿病を伴うCKD治療で重要になっている。
ミネラルコルチコイド受容体の過剰な活性化は、炎症や線維化などを介して腎障害の進展に関係すると考えられている。
KDIGO 2024では、2型糖尿病とCKDがあり、RAS阻害薬を最大耐容量使用してもアルブミン尿が残存するなど一定の条件を満たす患者について、腎・心血管ベネフィットが証明された非ステロイド型MRAが提案されている。
ACE阻害薬・ARBやフィネレノンでは高カリウム血症にも注意が必要である。
原疾患を治療して蛋白尿を減らす場合もある
すべての蛋白尿を「糸球体内圧を下げればよい」と考えてはいけない。
例えば、
IgA腎症
微小変化型ネフローゼ症候群
膜性腎症
ループス腎炎
などでは、免疫学的機序によって糸球体が障害されていることがある。
この場合には病態に応じてステロイドや免疫抑制薬などによる原疾患の治療が行われ、その結果として蛋白尿が減少する。
つまり蛋白尿の治療には、
「蛋白尿を減らす治療」
だけでなく、
「なぜ蛋白尿が出ているのかを調べ、その原因を治療する」
という視点が欠かせない。
蛋白尿を「蛋白が漏れているだけ」と考えない
蛋白尿については、
「尿から蛋白が出ること自体が問題なのではなく、腎機能が低下していることが問題なのでは?」
という疑問が浮かぶ。
これは半分正しく、半分は修正が必要である。
蛋白尿は確かに腎障害を知らせる重要なサインである。
しかし、eGFRが正常でも蛋白尿が認められることはあり、蛋白尿が多いほど将来の腎機能低下などのリスクは高くなる。
さらに、糸球体から漏れた蛋白そのものが尿細管・間質の障害を促進し、CKD進行に関与する可能性もある。
したがって、
蛋白尿=腎障害の結果
だけではなく、
腎障害
→ 蛋白尿
→ さらなる腎障害
という双方向の関係で捉えたほうがよい。
だからこそCKD治療では、
eGFRを守ることと、蛋白尿・アルブミン尿を減らすこと
の両方が重要になるのである。
まとめ
蛋白尿は単に「体の大切な蛋白質が尿から失われてしまう」というだけの問題ではない。
蛋白尿・アルブミン尿は腎障害を示す重要なマーカーであり、eGFRとは別の角度から腎臓の状態を評価している。
さらに蛋白尿そのものが尿細管・間質障害を介して腎障害の進行に関与するため、蛋白尿を減らすこと自体にも治療上の意味がある。
そのためCKDでは、
原因疾患の治療+血圧管理+RAAS阻害薬+SGLT2阻害薬+病態に応じたその他の腎保護治療
という形で、蛋白尿と腎機能低下の悪循環を断ち切ることが重要になる。
蛋白尿を見たときには、単に「+か-か」を見るのではなく、
なぜ出ているのか、どのくらい出ているのか、eGFRはどうなのか、そして経時的に増えていないか
まで考えることが、CKDを理解するうえで重要である。



