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スマート療法とショットガン療法―喘息・長引く咳に対する治療
公開. 更新. 投稿者: 315 ビュー. カテゴリ:喘息/COPD/喫煙.この記事は約6分29秒で読めます.
目次
SMART療法とショットガン療法

「SMART療法」という治療法がある。
「スマート(smart)」という名前から、「賢く治療する方法」という意味なのかと思ってしまうが、SMARTは略語である。
一方、医療では「ショットガン療法」という言葉を耳にすることもある。
こちらは散弾銃(shotgun)にたとえた言葉で、SMART療法とはまったく性質が異なる。
特に喘息や長引く咳の治療では、薬の使い方を考えるうえで興味深い言葉なので、その違いについて整理する。
SMART療法とは?
SMARTは、
Single Maintenance And Reliever Therapy
の略である。
日本語にすると「維持療法と発作時治療を1つの吸入薬で行う治療」といった意味になる。
喘息では、気道に慢性的な炎症が起きている。
そのため、治療の基本となるのがICS(吸入ステロイド薬)である。
一方、息苦しさや喘鳴などの症状が出たときには、気管支を速やかに拡張させる薬が必要になる。
従来、
- 毎日使う「長期管理薬」
- 苦しいときに使う「発作治療薬」
を別々に使う治療が一般的だった。
SMART療法では、ICS+ホルモテロール配合剤を、毎日の維持療法と症状が出たときの追加吸入の両方に使用する。日本における代表的な薬剤はシムビコートタービュヘイラーである。
現在はMART(Maintenance And Reliever Therapy)という呼び方も広く使われている。
なぜホルモテロールなのか?
LABA(長時間作用性β2刺激薬)なら何でもSMART療法に使えるわけではない。
ポイントとなるのがホルモテロールの作用発現の速さである。
ホルモテロールはLABAでありながら比較的速やかに気管支拡張作用を発揮する。
そのため、
普段は長時間作用する気管支拡張薬として使用し、症状が出たときには速やかな気管支拡張を期待して追加する
という使い方ができる。
したがってSMART療法は、「ICS/LABA配合剤ならどれでも可能」という治療ではない。
SMART療法の「SMART」なところ
SMART療法の面白いところは、単に吸入器を1つにまとめられることではない。
喘息が悪化すると患者自身が、
「少し息苦しい」
「咳が増えてきた」
「ゼーゼーする」
と感じるようになる。
そこでICS+ホルモテロールを追加吸入すると、
ホルモテロールによる気管支拡張
と同時に、
ICSも追加される。
つまり、症状が悪化して吸入回数が増えるほど、喘息の本態である気道炎症に対する治療も自動的に強化される仕組みになっている。
GINAではICS-ホルモテロールを維持療法と症状時の治療の両方に用いるMARTについて、従来の維持療法+SABAなどと比較して重い増悪を減らせることが示されている。
これがSMART療法の大きな特徴である。
SABAだけを使う場合との違い
従来、喘息発作時にはSABA(短時間作用性β2刺激薬)がよく使われてきた。
SABAを吸入すると気管支が拡張するので、息苦しさは改善する。
しかし、SABAは喘息の背景にある気道炎症そのものを治療する薬ではない。
これに対してICS+ホルモテロールを追加するSMART療法では、
「気管支を広げる」
と同時に、
「炎症を抑える薬も追加する」
ことになる。
症状が悪化したタイミングで必要なICS量が増えることが、SMART療法の合理的なところである。
SMART療法なら発作治療薬を別に持たなくてもいい?
SMART療法を行っている患者では、維持療法に使用している吸入薬を症状出現時にも追加吸入する。
環境再生保全機構の成人喘息の解説でも、発作時にはSABAを使用する一方、シムビコート使用中ではSMART療法として追加吸入できる場合があると説明されている。
ただし、患者が自己判断で無制限に追加してよいという意味ではない。
追加吸入の方法や1日の上限、どの程度の症状になったら医療機関を受診するかについて、あらかじめ医師から指示を受けておく必要がある。
海外ではさらに「必要時だけICS+ホルモテロール」も
SMART療法と混同しやすいのが、ICS+ホルモテロールを症状があるときだけ使用する治療である。
GINAでは、成人・思春期喘息の軽症例でも、必要時の低用量ICS-ホルモテロールが推奨されている。
しかし、
「毎日の維持吸入+症状時にも同じ薬を追加するSMART/MART」
と、
「維持吸入を行わず、必要時だけICS-ホルモテロールを使用する方法」
は同じではない。
また、日本では承認された用法との違いにも注意が必要である。2026年の厚生労働省の検討会でも、日本ではシムビコートの「症状があるときだけ使用する」という頓用のみの用法について承認されていないことが説明されている。
ショットガン療法とは?
では「ショットガン療法」とは何だろうか。
こちらはSMARTのような特定の薬物療法を指す正式な名称ではない。
shotgunとは散弾銃のことである。
散弾銃は1発の弾丸を一点に当てるのではなく、多数の弾を広い範囲に飛ばす。
そこから、
原因を1つに絞り込まず、可能性のある複数の病態に対して一度に治療を行う
ような方法を「ショットガン療法」「ショットガンアプローチ」などと表現することがある。
医学用語というより、治療方法を説明する比喩的な表現と考えたほうがよい。
長引く咳ではショットガン療法になりやすい?
ショットガン的な治療がイメージしやすいのが「長引く咳」である。
咳の原因は非常に多い。
たとえば、
- 喘息・咳喘息
- アトピー咳嗽
- 感染後咳嗽
- 副鼻腔炎・後鼻漏
- 胃食道逆流症(GERD)
- ACE阻害薬など薬剤による咳
- COPD
- 間質性肺炎
などが考えられる。
実際、日本呼吸器学会の「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」でも、喘息・咳喘息、アトピー咳嗽、後鼻漏症候群、GERD、薬剤による咳など多数の原因疾患が取り上げられている。
そこで原因がはっきりしない患者に、
気管支拡張薬も使う、抗アレルギー薬も使う、鎮咳薬も使う、去痰薬も使う……
といったように、可能性のある治療をまとめて行えば、ショットガン的な治療となる。
ショットガン療法の問題点
薬をたくさん使えば、どれかが効く可能性は高くなるかもしれない。
しかし、問題もある。
最大の問題は、
「結局どの薬が効いたのかわからない」
ことである。
5種類の薬を同時に開始して咳が治ったとしても、
「咳喘息だったから吸入薬が効いた」
「アレルギー性の咳で抗ヒスタミン薬が効いた」
「自然に感染後咳嗽が治った」
などを区別しにくい。
また、薬剤数が増えれば、副作用や相互作用、服薬負担も増える。
そのため、検査や症状、治療反応などから原因を考え、可能な限り治療対象を絞っていくことが重要になる。
ただし「薬を試して診断する」こと自体が悪いわけではない
咳の診療では、検査だけで原因を完全に特定できないこともある。
そのため、
ある病気を疑って治療し、効くかどうかを見る
という「治療的診断」が行われることがある。
たとえば咳喘息が疑われる患者に気管支拡張薬などによる治療を行い、症状の変化を見るという考え方である。
これは闇雲に多種類の薬を同時に投与するショットガン的治療とは少し違う。
仮説を立て、
病態を推測する → 適した治療を行う → 効果を評価する → 診断や治療を再検討する
という流れで行えば、治療反応そのものが診断の材料になる。
SMART療法とショットガン療法の違い
名前だけ見ると、
「SMART療法」
「ショットガン療法」
は同じような特殊な治療法の名称に見える。
しかし、実際には性質がまったく違う。
| SMART療法 | ショットガン療法 | |
|---|---|---|
| 言葉の性質 | 定義された喘息治療法 | 比喩的な表現 |
| 対象 | 主に喘息 | さまざまな疾患・症状 |
| 方法 | ICS+ホルモテロールを維持・症状時の両方に使用 | 複数の可能性を想定して広く治療 |
| 狙い | 症状悪化に合わせて気管支拡張+抗炎症治療を強化 | 原因不明でも複数の可能性をカバー |
| 問題点 | 用法・追加吸入上限などの理解が必要 | どの治療が効いたのかわかりにくい |
SMARTは「smart=賢い」という意味から命名されたわけではない。
しかし、症状が増えたときに患者自身が同じ吸入薬を追加することで、気管支拡張薬だけでなくICSも増えるという仕組みは、結果的にはかなり「スマート」な治療方法に見える。
一方のショットガン療法は、多くの可能性に対して広く弾を撃つような治療である。
薬が効く可能性はあるものの、薬剤数が増え、「何が効いたのかわからない」という問題も生じる。
喘息や長引く咳の治療を考えるときには、単に「どの薬を使うか」だけでなく、なぜその薬を使い、効かなかったら次にどうするのかという治療戦略まで考えることが重要である。



