2025年11月22日更新.2,667記事.

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眠くなくなる薬?不眠や覚醒を引き起こす薬

眠くなくなる薬?不眠や覚醒を引き起こす薬

眠くなる薬ばかりが注目されるが…
薬には「眠くなる薬」と「眠くならない薬」があります。
抗アレルギー薬などでは「車の運転に注意」と明記され、眠気への注意喚起が徹底しています。

一方で、「眠くなくなる薬=覚醒を促す薬」に関しては、意外と意識されていません。
「最近眠れない」と訴える患者の背景には、実は服用中の薬が関係していることもあります。

眠気を抑える・眠れなくする薬、つまり「眠くなくなる薬」について、
その仕組みや代表的な薬、漢方や生活上の注意点も含めて勉強していきます。

眠れなくなる薬のメカニズム

眠気は「脳の活動が鎮静化すること」によって起こります。
つまり、眠くならない・眠れない薬とは、脳や神経を活発にしてしまう薬です。

大きく分けると、次のような作用で覚醒が起こります。

・中枢神経刺激:カフェイン、エフェドリン、テオフィリン アドレナリン様作用で脳を興奮させる
・ドパミン活性化 レボドパ、マジンドール、リタリン 覚醒・意欲を高めるが眠れなくなる
・ステロイド作用 プレドニゾロン、デキサメタゾン 交感神経を刺激し、睡眠を妨げる
・神経伝達物質バランス変化 SSRI、SNRI、ドネペジルなど セロトニン・ノルアドレナリン増加で不眠を誘発

① 漢方薬でも「眠くなくなる」ことがある

麻黄を含む漢方薬は中枢興奮性
就寝前に漢方薬を飲むのは基本的に問題ありません。
しかし、麻黄(マオウ)や茶葉など、興奮作用を持つ生薬を含む漢方は注意が必要です。

麻黄にはエフェドリンやテオフィリン、カフェイン様成分が含まれ、交感神経を刺激して目を覚まさせます。

就寝前に避けたい漢方薬の例
・葛根湯(麻黄):発汗・血流促進で体温上昇、寝つきが悪くなる
・麻黄湯(麻黄):咳止め・解熱目的だが交感神経刺激が強い
・小青竜湯(麻黄、桂皮、乾姜など):鼻炎・咳の薬だが夜の服用は避けたい
・川きゅう茶調散(茶葉):カフェインによる覚醒作用

麻黄のエフェドリン量を数値で見る
小青竜湯エキス顆粒1日分には、麻黄3.0gが含まれます。
日本薬局方の規格によれば、麻黄には0.7%以上の総アルカロイドが含まれるため、
理論上は21mg以上のアルカロイド(うち約15mgがエフェドリン)を含みます。

エフェドリンは交感神経興奮作用を持ち、気管支拡張・血圧上昇・心拍数増加を引き起こすため、
夜間服用すれば確実に眠気が飛ぶ薬理効果があるのです。

② カフェイン・テオフィリン:覚醒と利尿の二重作用

コーヒーを飲むと目が覚める――。
その主成分であるカフェインは、中枢神経興奮作用をもつ代表的な物質です。

気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療で用いられるテオフィリン製剤(テオドール®など)は、
カフェインと同系統のメチルキサンチン誘導体で、
覚醒・気管支拡張・利尿作用を併せ持ちます。

テオフィリンによる副作用例
・不眠
・動悸
・頻尿・夜間排尿
・手の震え、焦燥感

テオフィリンでおねしょ?
テオフィリンは腎血流を増やし、利尿を促進します。
夜服用すれば、夜間の尿意が増えて目が覚めたり、おねしょの原因になることも。
特に小児の喘息治療では、服用時間に注意が必要です。

③ ステロイド:抗炎症とともに覚醒も促す

ステロイド(プレドニゾロン、デキサメタゾンなど)は、
体内の炎症を抑える一方で、交感神経を活性化させるため、
服用後に「眠れない」「夜中に目が覚める」と訴える患者が少なくありません。

なぜ眠れなくなるのか?
・コルチゾール様作用で血糖・血圧上昇
・体内リズム(サーカディアンリズム)に影響
・精神的な高揚・焦燥感

特に夜間服用や長期連用では、睡眠リズムが崩れやすいため、
朝にまとめて服用するのが一般的な指導法です。

④ 抗うつ薬・SSRI・SNRI:意外な「不眠」の副作用

うつ病治療でよく使われるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、
精神を安定させる一方で、不眠を引き起こすことがあります。

作用と睡眠の関係
SSRIは脳内のセロトニン濃度を上昇させ、気分を安定させますが、
同時に覚醒作用を持つノルアドレナリン神経系を刺激するため、眠りが浅くなります。

また、SSRIは徐波睡眠(深いノンレム睡眠)を減少させることが知られています。
そのため、「寝ても疲れが取れない」「浅い眠りで何度も目が覚める」などの訴えが出やすいのです。

⑤ ドパミン作動薬・パーキンソン病治療薬

パーキンソン病の治療で使用されるレボドパやドパミンアゴニスト(プラミペキソールなど)も、
中枢神経を刺激し、覚醒・意欲向上をもたらす一方で、不眠を起こすことがあります。

ドパミンは「やる気ホルモン」と呼ばれるほど、脳の覚醒に関与しています。
したがって、投与量が多いと「目が冴えて眠れない」状態になります。

特に高齢者では睡眠リズムが崩れやすく、昼夜逆転を起こすこともあります。

⑥ 降圧薬・脂質異常症治療薬でも眠れなくなる?

不眠を誘発するのは、精神系の薬だけではありません。
実は、血圧やコレステロールを下げる薬でも睡眠に影響を与えることがあります。

β遮断薬・ARB
交感神経に作用し、心拍や血圧を抑制しますが、
一部の薬(プロプラノロールなど)は脳に移行して夢を多く見る・不眠を訴えることがあります。

スタチン(脂質異常症治療薬)
脂溶性スタチン(アトルバスタチンなど)は血液脳関門を通過しやすく、
脳内ホルモンに影響して睡眠の質を下げることがあります。

一方、水溶性スタチン(メバロチンなど)は脳に移行しにくく、不眠を起こしにくいとされています。

⑦ アルツハイマー病治療薬:ドネペジルやリバスチグミン

アルツハイマー病治療薬の中にも、不眠の副作用を持つものがあります。
代表的なのがドネペジル(アリセプト®)やリバスチグミン(リバスタッチ®)です。

これらは脳内のアセチルコリン分解を抑制し、神経伝達を活性化させることで認知機能を改善します。
しかし、脳の活動が活発になりすぎると、夜に眠れなくなることがあります。

ただし、リバスチグミンにはグレリン分解抑制作用があり、
食欲改善の方向に働くという報告もあり、
「覚醒・食欲・認知機能」が複雑に絡み合っているのが特徴です。

⑧ 覚醒剤様作用を持つ薬:リタリン、マジンドールなど

リタリン(メチルフェニデート)
中枢神経刺激薬で、ナルコレプシーやADHDに使用。
ノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害作用により、強い覚醒を引き起こします。

マジンドール
肥満症治療薬。リタリンに似た構造で、食欲抑制とともに強い覚醒作用を示します。

エフピー錠(セレギリン塩酸塩)
パーキンソン病の治療に使用されるMAO-B阻害薬です。
ドパミンの分解を抑えて脳内ドパミン濃度を高めるため、日中の覚醒度が上がります。
一方で、中枢神経刺激作用により不眠の副作用が出ることがあるため、朝または昼の服用が推奨されます。

睡眠と脳のしくみ:レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠は単なる「休息」ではありません。
脳波の状態によって、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に分けられます。

・レム睡眠(REM):夢を見る眠り。体は休んでいるが脳は活動中。 覚醒に近い
・ノンレム睡眠(徐波睡眠):深い眠り。成長ホルモン分泌、体力回復。 脳活動は低下

SSRIなどはこのノンレム睡眠を減少させるため、「寝ても疲れが取れない」と感じるのです。

眠れないときに薬を疑うべきサイン

・新しい薬を飲み始めてから不眠が出た
・薬の服用時間を変えたら眠れなくなった
・日中の眠気が減った反面、夜眠れない

こうした場合は、薬剤性の不眠を疑うべきです。
薬の減量・朝への服薬変更などで改善するケースもあります。
「睡眠薬を足す」のではなく、「原因薬を見直す」ことが大切です。

まとめ:眠くなる薬と同じくらい、眠くならない薬にも注意

・漢方(麻黄含有:小青竜湯、麻黄湯):エフェドリンによる交感神経刺激
・カフェイン類(テオドール、コーヒー):中枢刺激・利尿
・ステロイド(プレドニン):コルチゾール様作用
・抗うつ薬(SSRI、SNRI):ノルアドレナリン活性化
・パーキンソン薬(レボドパ):ドパミン活性化
・スタチン(アトルバスタチン):脳移行による睡眠障害
・認知症治療薬(ドネペジル、リバスタッチ):神経伝達促進による覚醒

眠くなる薬だけでなく、眠くなくなる薬にも十分な注意が必要です。
夜間の覚醒は翌日の眠気や集中力低下を招き、事故や転倒リスクにもつながります。

おわりに

「眠くなくなる薬」は、気づかないうちに睡眠リズムを乱します。
もし不眠を訴える患者がいたら、
「まず服用薬を見直す」ことが薬剤師の重要な役割です。

そして、漢方やサプリメントも含め、
寝る前に興奮性成分(麻黄・カフェイン・ステロイド系)を避ける意識を持つことで、
より自然な睡眠を取り戻すことができます。

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