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漢方薬に使われる「面白い材料」と身近な食材由来の生薬
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漢方薬に使われる「面白い材料」と身近な食材由来の生薬

漢方薬というと、多くの方が「植物の根や葉、樹皮を乾燥させたものを煎じて飲む」といったイメージを持つでしょう。葛根湯や小柴胡湯など、耳なじみのある処方名にも植物名が含まれています。しかし実際の漢方の世界はもっと広く、動物由来や鉱物由来の思いがけない素材も薬として用いられています。
一方で、漢方に配合される生薬の中には、普段の食卓で口にしている食品や香辛料も少なくありません。「薬と食の境界線は曖昧」という東洋医学の考え方が反映されている部分です。
阿膠(あきょう) – ロバの皮から作られるゼラチン質
由来と効能
阿膠は、ロバの皮を長時間煮てゼラチン質を抽出・乾燥させた動物性生薬です。血を補う(補血)、出血を止める(止血)、体を潤す(滋陰)作用を持つとされ、主に女性疾患や不正出血に応用されます。
含有する代表的な漢方製剤(ツムラ番号)
・No.22 温経湯 … 月経不順や冷え性に
・No.29 猪苓湯 … 排尿異常に
・No.79 炙甘草湯 … 動悸や不整脈に
・No.108 芎帰膠艾湯 … 妊娠中の不正出血に
・No.114 猪苓湯合四物湯 … 排尿異常+貧血傾向に
女性の健康に寄与する処方に多く登場するのが特徴です。
竜骨(りゅうこつ) – 古代哺乳類の化石骨
由来と効能
竜骨は、ゾウやサイといった古代の大型哺乳類の骨が化石化したものです。古代中国では「竜の骨」と信じられていました。鎮静・安神作用があり、不眠や神経過敏に用いられます。
含有する代表的な漢方製剤
・No.12 柴胡加竜骨牡蛎湯 … イライラや不眠に
・No.54 桂枝加竜骨牡蛎湯 … 夜尿症や神経不安に
牛黄(ごおう) – 牛の胆石
由来と効能
牛の胆のうに自然にできた胆石を乾燥させたもの。強心・鎮痙・解熱作用があるとされ、古来より高価な生薬として扱われてきました。
含有する漢方製剤
ツムラの一般的処方にはなく、牛黄清心丸(市販薬)などが代表的です。
かつては救急的に発熱や意識障害に用いられた歴史もあります。
石膏(せっこう) – 鉱物の結晶
由来と効能
硫酸カルシウムを主成分とする鉱物。強い清熱作用を持ち、高熱や口渇、発汗過多の症状に使われます。
含有する代表的な漢方製剤
・No.24 白虎加人参湯 … 高熱や口渇に
・No.27 越婢加朮湯 … 関節炎や浮腫に
・No.60 麻杏甘石湯 … 喘息や咳に
漢方における「鉱物の力」を象徴する生薬です。
牡蛎(ぼれい) – カキの殻
由来と効能
牡蛎の殻を焼成し粉砕したもの。鎮静・制酸作用があり、神経過敏や不眠、胃酸過多に用いられます。
含有する代表的な漢方製剤
・No.12 柴胡加竜骨牡蛎湯
・No.54 桂枝加竜骨牡蛎湯
竜骨とセットで処方されることが多く、精神神経症状の改善に役立ちます。
食品としてなじみ深い生薬たち
意外な材料が薬になる一方で、食材や香辛料として身近な植物がそのまま漢方に配合されるケースも少なくありません。
人参(にんじん/オタネニンジン)
・薬用の人参は高麗人参。補気作用を持ち、疲労倦怠や食欲不振に用いられる。
・配合例:No.32 人参湯、No.41 補中益気湯
桂皮(けいひ/シナモン)
・シナモンの樹皮。発汗・解熱・血行促進作用を持つ。
・配合例:No.25 桂枝茯苓丸、No.45 桂枝湯
葛根(かっこん/クズの根)
・発汗解熱・肩こり改善に効果。
・配合例:No.1 葛根湯
小麦(しょうばく/コムギの種子)
・安神作用を持ち、不眠や精神不安に。
・配合例:No.74 甘麦大棗湯
生姜(しょうきょう)
・体を温め、消化を助ける。
・配合例:No.19 小青竜湯、No.16 半夏厚朴湯
大棗(たいそう/ナツメ)
・クロウメモドキ科ナツメの果実。補気・安神作用。
・配合例:No.25 桂枝湯、No.74 甘麦大棗湯
枸杞子(くこし/クコの実)
・補血・滋養作用。
・配合例:杞菊地黄丸(保険適用外のことも多いが有名)。
陳皮(ちんぴ/ミカンの皮)
・健胃・理気作用。
・配合例:No.43 六君子湯、No.16 半夏厚朴湯
山薬(さんやく/ヤマイモ)
・補気・健脾作用。
・配合例:No.107 八味地黄丸、No.106 六味丸
薏苡仁(よくいにん/ハトムギ)
・利水・健脾作用。イボの改善にも有名。
・配合例:No.14 薏苡仁湯、No.20 桂枝加薏苡仁湯
これらは「食べ物」として親しまれているため、患者さんにも理解しやすく、服薬指導にも役立ちます。
まとめ
漢方薬は「自然界にあるものすべてを薬にする」という思想のもと発展してきました。そのため、ロバの皮、古代の化石骨、牛の胆石、鉱物の結晶、カキの殻といった驚きの素材が、今もツムラの医療用漢方製剤に配合されています。
一方で、人参、桂皮、葛根、生姜、ナツメ、クコの実、ハトムギなど、食卓に並ぶ食材も生薬として処方されているのです。
「意外な材料」と「なじみ深い食品」が同居している点こそが、漢方薬の奥深さであり、魅力でもあります。
薬剤師として患者さんに説明する際には、こうしたトリビアを交えることで、理解や納得感が高まり、服薬アドヒアランスの向上にもつながるでしょう。