2025年12月28日更新.2,701記事.

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オレキシン受容体拮抗薬まとめ ― 新薬ボルズィ錠の登場と4剤比較

オレキシン受容体拮抗薬まとめ ― 新薬ボルズィ錠の登場と4剤比較

不眠症治療薬の領域は近年大きな変化を遂げています。かつてはベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ-drug)が主流でしたが、副作用や依存性の問題から、新たな治療選択肢が模索されてきました。
その中で注目を集めているのが オレキシン受容体拮抗薬(Dual Orexin Receptor Antagonist: DORA) です。

日本ではすでに以下の3剤が承認・販売されています。
・ベルソムラ®(スボレキサント)
・デエビゴ®(レンボレキサント)
・クービビック®(ダリドレキサント)

そして新たに、国内4番目のDORAとして ボルズィ®(ボルノレキサント) が登場予定です。
それぞれの特徴を整理しながら比較し、臨床現場での使い分けの視点を考えてみます。

オレキシンと睡眠のメカニズム

オレキシンは覚醒維持に関わる神経ペプチドで、オレキシン受容体(OX1R, OX2R)を介して覚醒系を活性化します。OX1RとOX2Rのどちらがより覚醒・睡眠に寄与しているかは、まだわかっていないが、OX2Rの方が覚醒・睡眠の調整により重要な役割を担っているのではないかと考えられている。

DORA(デュアルオレキシン受容体拮抗薬)はこれらの受容体を同時に阻害することで、覚醒のシグナルを抑制し、自然に近い入眠を促す作用を示します。

従来の睡眠薬(GABA受容体作動薬)とは異なり、脳全体を抑制するのではなく、覚醒ドライブを抑える点が特徴であり、依存性や反跳性不眠が少ないとされています。

ちなみにオレキシンは覚醒を維持するとともに、食欲を促進する働きもあり、ギリシャ語で食欲を意味する「orexis」が名前の由来になっている。

各薬剤の特徴

ベルソムラ®(スボレキサント)
・発売年:2014年(日本が世界初承認)
・作用:OX1R/OX2R両方に拮抗
・特徴:最初に登場したDORA。用量は20mg(高齢者は15mg)。
・課題:効果発現がやや弱いとの声もあり、添付文書上「翌日眠気」の副作用が一定数報告されている。
・使い分け:不眠症治療に新しい選択肢を提示した先駆薬。

デエビゴ®(レンボレキサント)
・発売年:2020年
・用量:5mgまたは10mg(高齢者は5mgから開始)
・特徴:OX2Rへの親和性が強く、入眠効果だけでなく中途覚醒改善効果も期待される。
・臨床データ:ベルソムラよりも「中途覚醒」への改善が明確に示された。
・課題:眠気による転倒リスクへの注意。

クービビック®(ダリドレキサント)
・発売年:2024年
・用量:25mgまたは50mg
・特徴:血中半減期が短め(約8時間)で、翌朝への持ち越し効果が少ないことが期待される。
・臨床試験:睡眠効率の改善が明確に示されており、特に「翌日の眠気が少ない」点を強調。
・課題:実臨床での使用経験はまだ少なく、処方実績が積み上がる段階。

ボルズィ®(ボルノレキサント)
・発売予定:2025年(国内4番目のDORA)
・特徴(速報ベース):
  OX1R/OX2R両方を遮断するDORA
  他剤と比較して「即効性」「翌日のパフォーマンス維持」を強調
・期待される点:選択肢が広がることで、患者背景(高齢者、転倒リスク、翌日の活動性など)に応じた個別化が進む。

オレキシン受容体拮抗薬比較一覧表

医薬品名一般名剤形・規格併用禁忌
ベルソムラスボレキサント錠(10㎎、15㎎、20㎎)イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、ボノプラザン・アモキシシリン・クラリスロマイシン、ラベプラゾール・アモキシシリン・クラリスロマイシン、リトナビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル
デエビゴレンボレキサント錠(2.5㎎、5㎎、10㎎)なし
クービビックダリドレキサント錠(25㎎、50㎎)イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸
ボルズィボルノレキサント錠(2.5㎎、5㎎、10㎎)イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル含有製剤、エンシトレルビル フマル酸、コビシスタット含有製剤、セリチニブ

作用時間での使い分け

医薬品名半減期Tmax作用型
ボルズィ約2時間約0.5~0.75時間超短時間
クービビック約8時間約1時間短時間
ベルソムラ約10~12時間約1~1.5時間中時間
デエビゴ約30時間約1~2時間長時間

作用時間で分類すると、ボルズィは超短時間作用型、クービビックは短時間作用型、ベルソムラは中時間作用型、デエビゴは長時間作用型の薬になる。

しかし、オレキシン受容体拮抗薬では、半減期による作用時間の分類はあまり意味がなく、全て短時間作用型としてまとめている情報もある。参考程度の情報として伝えた方が良いだろう。

いずれの薬もTmaxまでは1時間前後なので、服用法は就寝直前の用法になっている。
「夕食後に飲んでもいい?」と聞かれることもあるが、人によっては30分くらいでふらついてくるだろうし、夕食後の服用後にテレビとか見て過ごすと効果の減弱にもつながるので、あくまで就寝直前に飲むように指導する必要がある。

おわりに

不眠症治療薬の選択肢は、ここ10年で大きく変化しました。オレキシン受容体拮抗薬は「自然な眠りを促す」という新しいコンセプトで、依存性の低さや翌日への影響の少なさが期待されています。
今後、ボルズィ錠の登場によって、DORAはついに4剤体制となります。薬剤ごとの特徴を把握し、患者ごとの症状・生活背景・リスクに合わせた選択をすることが、薬剤師に求められる役割となるでしょう。

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