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ランバート・イートン筋無力症候群と重症筋無力症との違い
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ファダプス錠とランバート・イートン筋無力症候群

2025年1月、「ファダプス錠10mg」(一般名:アミファンプリジン)が国内で発売されました。適応はランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)。これは非常にまれな神経筋接合部の疾患であり、これまで有効な治療選択肢が限られていました。ファダプス錠の薬理作用に加え、LEMSの病態、そしてよく混同されがちな重症筋無力症(MG)との違いについて勉強します。
ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)とは?
LEMSは、神経から筋肉への信号伝達がうまくいかなくなることで筋力が低下する自己免疫性疾患です。
◆ 発症メカニズム
LEMSでは、神経終末の電位依存性カルシウムチャネル(P/Q型VGCC)に対する自己抗体が作られます。この抗体がチャネルを阻害することで、神経からアセチルコリン(ACh)が十分に放出されず、筋肉がうまく収縮できなくなります。
◆ 代表的な症状
・下肢優位の筋力低下(階段を登れない、立ち上がれない)
・ウォームアップ現象(動かしていると一時的に筋力改善)
・自律神経症状(口渇、便秘、立ちくらみ、勃起障害など)
◆ 原因と背景
・小細胞肺がんとの関連が強い(パラネオプラスティック症候群)
・発症は中高年に多く、喫煙歴のある男性に多い傾向
・神経内科や腫瘍内科と連携した治療が必要
ファダプス錠(アミファンプリジン)の作用機序と特徴
◆ 薬剤概要
・商品名:ファダプス錠10mg
・一般名:アミファンプリジン(amifampridine)
・適応症:ランバート・イートン筋無力症候群
・製造販売元:ダイドーファーマ株式会
◆ 作用機序
アミファンプリジンはカリウムチャネル遮断薬であり、神経終末での脱分極を持続させることにより、カルシウム流入を促進します。
これにより、自己抗体により抑制されていたアセチルコリンの放出が促進され、筋力が改善されます。
LEMS:ACh放出↓⇒アミファンプリジン:ACh放出↑
◆ これまでの治療との違い
国内ではLEMSに特化した治療薬は未承認だったため、免疫抑制剤や対症療法が主流でした。
ファダプス錠は、LEMSに対する初の承認治療薬として大きな意義があります。
カリウムチャネル遮断薬の多彩な働き
ファダプス錠(一般名:アミファンプリジン)は、薬理学的にはカリウムチャネル遮断薬に分類されます。カリウムチャネルとは、細胞膜を通じてカリウムイオン(K⁺)を出し入れするためのタンパク質で、電気的な興奮性や再分極に深く関与しています。このチャネルを遮断する薬剤は、作用部位やチャネルのサブタイプの違いによって、まったく異なる臨床効果を持つのが特徴です。
たとえば、心臓の興奮伝導に関わるIKrやIKsといったカリウムチャネルを遮断する薬剤は、再分極を遅延させて心拍の安定化をもたらします。これがいわゆるクラスⅢ抗不整脈薬(アミオダロン、ソタロールなど)であり、致死的不整脈の予防に用いられます。
一方で、膵臓のβ細胞に存在するATP感受性カリウムチャネル(KATP)を遮断する薬は、インスリン分泌を促す作用を持ちます。これは2型糖尿病の治療に使われるスルホニル尿素薬(グリメピリドなど)の基本的な作用機序です。
さらに、ファダプスのように神経終末に存在する電位依存性カリウムチャネル(Kv1系など)を遮断することで、神経の脱分極を長引かせ、カルシウム流入とアセチルコリン放出を促進するという、神経伝達を強める作用もあります。これはLEMSの病態である「アセチルコリン放出障害」を補う理にかなった治療戦略です。
このように、「カリウムチャネル遮断薬」と一括りにされる薬剤群は、心臓・神経・膵臓など多様な組織で異なるカリウムチャネルを標的としており、その臨床効果は極めて幅広いのです。ファダプスは、その中でも「神経筋接合部におけるカリウムチャネル遮断薬」として、希少疾患であるLEMSの治療に新たな選択肢をもたらしました。
重症筋無力症(MG)との違い
LEMSは重症筋無力症(MG)と混同されがちですが、病態・診断・治療すべてにおいて異なります。以下に比較表を示します。
項目 | ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS) | 重症筋無力症(MG) |
---|---|---|
原因 | カルシウムチャネルに対する自己抗体 | アセチルコリン受容体に対する自己抗体 |
主な標的 | 神経終末のCa²⁺チャネル | 筋肉側のアセチルコリン受容体 |
自己抗体 | 抗VGCC抗体 | 抗AChR抗体/MuSK抗体 |
初発症状 | 下肢の筋力低下や歩きにくさ | 眼瞼下垂、複視などの眼筋症状 |
筋力の変化 | 使うと改善(ウォームアップ現象) | 使うと悪化(易疲労性) |
自律神経症状 | あり(便秘、立ちくらみなど) | 基本的になし |
合併症 | 小細胞肺がんとの関連が強い(パラネオプラスティック) | 胸腺腫との関連あり |
反応する治療薬 | アミファンプリジン(アセチルコリン放出促進) | コリンエステラーゼ阻害薬(アセチルコリン作用延長) |
好発年齢 | 中高年(特に男性) | 若年女性、高齢男性 |
障害部位 | 神経終末(アセチルコリン放出前) | 筋肉側(受容体) |
診断方法のポイント
LEMSとMGは見かけ上似ていることもあるため、電気生理学的検査と抗体検査が鍵となります。
◆ 神経伝導検査
反復刺激試験により、反復後の複合筋活動電位(CMAP)の増加を確認(LEMSでは特異的)
◆ 抗体検査
LEMS:抗VGCC抗体陽性
MG:抗AChR抗体または抗MuSK抗体陽性
LEMSは希少疾患(指定難病)であり、診断が遅れることもしばしばあります。しかし、LEMSはがんの早期発見につながるケースも多く、早期に診断・介入することが患者の予後に大きく関わります。
また、ファダプス錠のような特異的治療薬が登場したことで、診断精度と治療成績の向上が期待されます。
まとめ
・ファダプス錠(アミファンプリジン)は、LEMSに対する初の承認治療薬
・LEMSは神経終末の障害、MGは筋肉側の受容体障害であり、病態は明確に異なる
・LEMSでは歩行困難や自律神経症状が目立つ
・MGでは眼瞼下垂や複視が初発症状として出やすい
・ファダプス錠の登場により、LEMSの治療選択肢が大きく前進