2025年11月29日更新.2,673記事.

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ガチフロ点眼液1日15回?抗菌点眼薬の頻回投与

抗菌点眼薬の頻回投与 ― 角膜炎・角膜潰瘍治療における意義と実際

眼科の治療のなかでも、「抗菌点眼薬の頻回投与」は他科にはない独自の治療戦略といえます。
1時間に1回、時に15〜30分ごとというようなペースで点眼が指示されることがあります。これは決して過剰治療ではなく、角膜炎や角膜潰瘍といった失明に直結する感染症に対して、局所の薬物濃度を最大限に高め、感染を制御するための合理的な方法です。

内服や点滴では十分な抗菌薬濃度を角膜上に到達させることが難しいため、局所への高濃度投与=頻回点眼こそが、眼科感染症治療の要となっています。

角膜炎・角膜潰瘍とは

角膜は、外界と直接接する透明な膜であり、外傷・乾燥・コンタクトレンズなどによって容易にバリア機能が破綻します。そこに細菌が侵入すると、角膜上皮から実質にかけて炎症を起こし、混濁(白濁)や潰瘍形成を生じます。これが細菌性角膜炎、さらに重症化した状態が角膜潰瘍です。

角膜の透明性が損なわれると視力障害を残すため、初期治療の成否が予後を決定します。とくに感染の進展は速く、24〜48時間で角膜穿孔に至ることもあるため、時間との戦いです。

角膜炎の主な起炎菌

一般的に「角膜炎の4大起炎菌」として以下が知られています。

肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)
 進行が早く、強い炎症反応を示す。角膜穿孔のリスクが高い。

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
 皮膚常在菌であり、外傷やドライアイなどを契機に感染。

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
 コンタクトレンズ装用者で多く、角膜組織を急速に融解する。

モラクセラ菌(Moraxella spp.)
 慢性角膜疾患や免疫低下例でみられる。

これらの菌は一部で抗菌薬耐性を獲得しているものも多く、点眼薬の種類や投与間隔の工夫が重要になります。

抗菌点眼薬の特徴と濃度依存性

抗菌点眼薬は主に以下の系統が用いられます。

・ニューキノロン系[ガチフロ(ガチフロキサシン)、クラビット(レボフロキサシン)など]:広範囲のグラム陽性・陰性菌に有効。角膜実質への移行性も高い。
・セフェム系[セフメノキシム]:緑膿菌などにも対応。
・アミノグリコシド系[トブラマイシン、ゲンタマイシン]:強い殺菌力を持つが角膜毒性に注意。

点眼薬は全身投与と異なり、涙液によってすぐに流されるため、薬物濃度が短時間で低下します。
そのため、頻回に投与して局所濃度を維持することが非常に重要になります。
特にキノロン系抗菌薬は「濃度依存性」の殺菌作用を示すため、短時間でも高濃度を保てれば、感受性が低い菌に対しても効果を発揮します。

ガイドラインにおける位置づけ

日本眼感染症学会の「細菌性角膜炎診療ガイドライン(2018)」では、以下のように記載されています。

重症細菌性角膜炎では、治療初期に抗菌薬点眼を頻回(15〜60分毎)に投与し、感染がコントロールされたら漸減する。

この「頻回点眼」は初期集中治療(loading therapy)として推奨されており、海外のOphthalmology誌やAAO(American Academy of Ophthalmology)ガイドラインでも同様の考え方が採用されています。
とくに緑膿菌性角膜炎など急速進行型では、最初の24〜48時間が勝負であり、この期間にどれだけ薬剤を浸透させられるかが鍵となります。

頻回投与の具体的スケジュール

臨床現場では次のようなスケジュールが取られることがあります。

病態と点眼頻度
・軽症角膜炎:1〜2時間ごと。日中のみの点眼で十分なことも
・中等症角膜炎:1時間ごと。夜間も継続が望ましい
・重症角膜潰瘍:15〜30分ごと。初期24〜48時間は“終夜投与”

患者には現実的に難しい頻度ですが、入院管理下や家族の協力のもとで行われます。
また、感染の勢いが落ち着いたら、2時間ごと → 4時間ごと → 1日4回…と漸減していきます。

頻回点眼の臨床的意義

高濃度効果
 点眼液は涙液で希釈・排出されるが、頻回点眼によって薬剤が角膜上に持続的に存在する。これにより、感受性の低い菌にも殺菌的濃度を維持できる。

抗菌スペクトルの拡大
 耐性菌に対しても、薬理学的に「濃度で勝負する」戦略が取れる。実際、緑膿菌に対してキノロン耐性であっても、局所高濃度で抑制可能な場合がある。

角膜実質への浸透促進
 角膜上皮が欠損している病態では、薬剤が角膜実質に浸透しやすく、頻回点眼により深部感染にも到達しやすくなる。

点眼以外の治療との併用

角膜潰瘍の治療では、点眼単独では不十分な場合も多く、全身抗菌薬や結膜下注射、点眼剤の併用が行われます。

・全身抗菌薬(点滴):感染が角膜深部・強膜へ及ぶ場合
・結膜下注射:高濃度薬液を直接局所に届ける手段
・併用療法:ガチフロ+トブラマイシン、またはキノロン+セフェム系など、抗菌スペクトルの補完を目的とする

ただし、角膜は血流が乏しいため、やはり主役は「点眼による局所治療」です。

薬剤師・医療従事者としての留意点

投与目的の理解と説明
頻回点眼は「重症感染に対する初期治療」であることを説明する。
一見“過剰”に見えても、角膜温存のためには必要な治療です。

使用期間と衛生管理
点眼瓶の使い回しによる二次感染を防ぐため、1本あたりの使用期限は原則10日以内。

手指衛生を徹底し、容器先端がまぶたや睫毛に触れないよう指導する。

コンプライアンス支援
外来患者では現実的に15分おき点眼は不可能。

家族の協力や在宅看護支援を活用する。

点眼スケジュール表やアラームの使用も有効。

頻回投与の限界と副作用

頻回点眼では、角膜上皮障害、点眼薬中の防腐剤(ベンザルコニウム塩化物など)による刺激、涙液バランスの崩れなどが問題になります。
必要に応じて防腐剤無添加製剤や単回使用容器を選択し、症状を観察しながら減量していくことが重要です。

治療成績と今後の課題

国内外の報告では、早期に頻回点眼を開始した症例ほど角膜穿孔や視力低下を回避できる割合が高いとされています。一方、耐性菌の増加、点眼薬の選択肢の限界、患者の負担といった課題も残されています。

最近では、高濃度レボフロキサシン点眼液(1.5%クラビット)など、薬剤の改良によって投与回数を減らしつつ有効濃度を維持できる製剤も登場しています。
それでも、角膜潰瘍の初期治療においては「頻回点眼こそが生命線」であるという考え方は変わっていません。

まとめ

・角膜炎・角膜潰瘍は視力喪失に直結する緊急性の高い疾患。
・治療初期には15〜60分ごとの抗菌点眼が基本戦略。
・頻回点眼により局所高濃度を維持し、感受性が低い菌にも効果を発揮する。
・感染が落ち着いたら段階的に減量し、衛生管理・副作用にも注意する。

頻回点眼は「量」でなく「濃度」で勝負する眼科の武器」
感染初期の数日間を制することが、視力を守る最大の鍵である。

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