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アセトアミノフェンに腎障害は無い?
公開. 更新. 投稿者:腎臓病/透析.この記事は約3分25秒で読めます.
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アセトアミノフェンは腎臓にやさしい?

解熱鎮痛薬としてよく使われるアセトアミノフェン(一般名:パラセタモール)は、「胃にやさしい」「副作用が少ない」「小児でも使える」といった印象から、「比較的安全な薬」として認識されがちです。特にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と比較して、腎臓への影響が少ないとされるため、慢性腎臓病(CKD)や高齢者にもよく使用されます。
しかし、「本当に腎臓には影響がないのか?」というと、答えはYESでもあり、NOでもあるのが実際のところです。
アセトアミノフェンとは?基本的な作用と代謝経路
● 主な用途
・解熱(発熱の解消)
・鎮痛(頭痛、歯痛、筋肉痛など)
・小児の発熱時の頓用薬
● NSAIDsとの違い
特徴 | アセトアミノフェン | NSAIDs(例:ロキソプロフェン) |
---|---|---|
炎症抑制作用 | ほとんどなし | 強い |
解熱・鎮痛作用 | 中等度 | 強い |
胃への影響 | 少ない | 潰瘍・出血のリスクあり |
腎機能への影響 | 少ないとされている | 血流低下を介した腎障害のリスクあり |
● 代謝経路
・アセトアミノフェンは主に肝臓で代謝されます。
・大部分(90%以上):グルクロン酸抱合・硫酸抱合により無害な代謝産物として尿中排泄
・一部(5〜10%):CYP酵素(主にCYP2E1)によりNAPQIという毒性代謝産物に変換される
・NAPQIは通常、グルタチオンにより速やかに解毒されますが、大量摂取やグルタチオン枯渇状態では蓄積 → 肝障害・腎障害を引き起こす可能性あり
アセトアミノフェンに腎障害のリスクはあるのか?
● 基本的な結論:
「通常用量ではほぼ安全。しかし高用量・長期使用・脱水や併用薬があると腎障害リスクはゼロではない」
● 報告されている腎障害の種類
【1】急性腎障害(AKI)
・大量服用による中毒例で報告されている
・肝不全と併発するケースが多い
・病態としては、急性尿細管壊死(ATN)をきたす
【2】慢性腎障害(CKD)
・長期連用により、間質性腎炎や腎血流の障害が報告されることがある
・他の鎮痛薬(NSAIDsやアスピリン)との併用による「鎮痛薬腎症」の一因となる場合も
アセトアミノフェンによる腎障害の機序は?
● NAPQIの腎毒性
・肝臓で生成された毒性代謝物NAPQIは、肝細胞だけでなく腎尿細管細胞にもダメージを与える可能性がある
・動物実験では、アセトアミノフェン中毒により腎臓での酸化ストレスやミトコンドリア障害が報告されています
● 解毒システムの破綻
・グルタチオン枯渇時、NAPQIが腎にも蓄積
・飢餓、アルコール常用、飽和脂肪酸の摂取過剰などがリスク要因
腎障害リスクを高める条件とは?
以下のような状況では、アセトアミノフェンによる腎リスクが相対的に高くなります。
リスク因子
・高用量: 1日最大量(成人4000mg)を超える服用
・長期連用: 数週間〜数ヶ月の連続服用
・脱水状態: 腎血流量の低下により感受性が増加
・高齢者: 代謝機能や腎機能の低下
・アルコール常用者: CYP2E1誘導によりNAPQI増加
・他の腎毒性薬剤との併用: NSAIDs、抗菌薬(バンコマイシンなど)
・肝障害・栄養不良: グルタチオン低下
どのくらいの量から危険なのか?
年齢・体重 | 一般的な安全上限 | 中毒の可能性がある量 |
---|---|---|
成人 | 1日最大4000mg | 1回7.5g以上(成人) |
小児 | 体重1kgあたり60mg/日 | 体重1kgあたり150mg以上 |
中毒の症状は、初期は無症状〜軽度の悪心・嘔吐、24〜72時間後に肝障害、腎障害が進行することもあります。
〇実際の臨床報告や研究データ
● 通常量使用での腎障害の発症頻度は極めて稀
・通常使用範囲でのアセトアミノフェン単独による腎障害はきわめてまれ
・ほとんどは「脱水+高齢者+併用薬」など複数要因の重なりがあるケース
● 中毒例では腎障害が30%以上に発生との報告あり
米国の中毒センター報告では、アセトアミノフェン中毒例の約30〜40%に急性腎障害の所見が認められた
薬剤師としての服薬指導のポイント
● 患者が「安全」と思い込みすぎないように注意
・「胃に優しいから安心」「妊婦でも使えるから無害」など、過信による自己増量や連用に注意を促す
● 適正な用量・服用間隔を守らせる
・成人なら1回500〜1000mg、1日3〜4回まで(最大4000mg)
・小児は体重換算が必要
● 他剤との併用確認
・NSAIDs、抗生物質、抗がん剤、抗HIV薬など腎毒性のある薬との併用歴に注意
● 水分摂取の促し
・発熱時や脱水傾向がある患者では、水分摂取の重要性を強調
まとめ:腎障害のリスクは「ゼロではない」
アセトアミノフェンは比較的安全性が高く、腎障害の頻度はNSAIDsに比べてはるかに低い薬です。しかし、条件が重なれば腎臓にも害を及ぼすことはある、ということは知っておくべきです。
・通常量では腎障害はきわめて稀
・中毒量や長期連用、脱水、他剤併用があるとリスクは上昇
・NAPQIによる腎尿細管障害が原因となる
・腎機能低下者でも使いやすい薬だが、慢性使用には注意が必要
・薬剤師は「安全性と注意点の両面」を伝えるバランスが重要