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TPNとIVHの違いは?
公開. 更新. 投稿者:栄養/口腔ケア.この記事は約4分26秒で読めます.
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TPNとIVHの違いは?

病院で入院患者に対して「高カロリー輸液が必要だ」と言われたとき、医療関係者の間では「TPN」や「IVH」という言葉がしばしば使われます。しかし、これらは本来どういう意味を持ち、何が同じで何が異なるのかを正確に理解している人は意外に多くありません。
この記事では、TPNとIVHという2つの用語の定義、背景、歴史、実際の臨床でのニュアンスの違い、さらに中心静脈栄養(CVカテーテル)や末梢静脈栄養との関係について、勉強します。
IVHとは?
■IVHの正式名称
IVHとは、Intra Venous Hyperalimentation(経静脈的高カロリー輸液法)の略語です。
Intra Venous=静脈内
Hyperalimentation=高栄養(alimentationは「栄養補給」)
この言葉が普及したのは、1960年代に米国で中心静脈カテーテルを用いて十分なカロリーを投与できるようになったことがきっかけです。当時、経口摂取や経腸栄養ではまかないきれないエネルギーを効率的に補給できる新しい治療として「IVH(高カロリー輸液)」が注目されました。
日本では1970年代にIVHという用語が広まり、その後30年以上にわたって広く使われてきました。現在も習慣的に「IVH」と呼ぶ医療スタッフが少なくありません。
TPNとは?
■TPNの正式名称
TPNはTotal Parenteral Nutrition(完全非経口栄養)の略語です。
Total=完全
Parenteral=腸管外
Nutrition=栄養補給
Parenteral(パレンタラル)は「経腸」を除いたすべての経路(静脈、皮下、筋肉など)を指す言葉です。つまりTPNとは本来、消化管を全く使わない完全な非経腸栄養を意味します。
ただし、実際の医療現場で腸管以外から長期にわたって大量の栄養を投与するルートは、ほとんどが静脈ルートであり、特に中心静脈カテーテルが主体です。そのため、TPN≒IVHとほぼ同義で使われるようになりました。
近年は「IVH」という用語が国際的にはあまり用いられず、TPNが標準的な表記として浸透しています。
IVHとTPNの違い
両者は似ている言葉で、現場では混同されることもあります。要点を整理すると以下のようになります。
項目 | IVH | TPN |
---|---|---|
定義 | 静脈経由で高カロリー輸液を行う | 腸管以外から完全に栄養を投与する |
経路 | 静脈に限定 | 静脈が主体だが本来は「腸管以外すべて」 |
概念の広さ | 比較的狭い | 広い(静脈以外も含む) |
国際的用語 | あまり使用されない | 標準的用語 |
結論としては、「実際の臨床ではほぼ同義」と捉えて問題ありません。
ただし、国際論文やガイドライン、学会資料では「TPN」と記載されることが多いため、専門家の間でもTPNが正式用語として好まれています。
中心静脈栄養と末梢静脈栄養
IVHやTPNを考える際に混同しやすいのが、「末梢静脈栄養法」と「中心静脈栄養法」の違いです。これは言葉のレベルではなく、投与ルートの選択という具体的な治療方針に直結します。
■中心静脈栄養法(CVカテーテル)
・鎖骨下静脈や内頸静脈などの太い静脈にカテーテルを留置し、長期間大量の高浸透圧輸液を投与できる
・糖質、アミノ酸、脂肪乳剤、微量元素、ビタミンなどを全量投与
・エネルギー投与量が多い(成人で2000kcal/日以上)
・感染やカテーテルトラブルなどのリスクがある
■末梢静脈栄養法(PPN)
・末梢の静脈(前腕など)から比較的低浸透圧の輸液を行う
・短期間(目安は2週間以内)の使用
・栄養量は限定的(維持輸液に近い)
・投与中に血管痛や静脈炎が起こることが多い
TPNやIVHは中心静脈栄養を指す場合が多いですが、厳密には末梢静脈栄養もTPNの一部に含まれると考えることもできます。
適応と選択の考え方
実際の臨床現場では、患者の状態や経過予測、感染リスク、投与可能な血管の状況などから「どの経路でどのレベルの栄養を行うか」を決定します。
短期間(2週間以内)で消化管機能が一部保たれている場合
→末梢静脈栄養や経腸栄養の併用を考慮
2週間以上の栄養管理が必要で、消化管機能が使えない場合
→中心静脈栄養(=TPN/IVH)
とくにがん末期や術後長期絶食が見込まれる患者では、中心静脈栄養が治療の柱になります。
用語の変遷と現在のトレンド
かつて日本では「IVH=高カロリー輸液」という表現が一般的でした。しかし、国際的に「IVH」という言葉はほとんど用いられていません。代わりに「TPN(Total Parenteral Nutrition)」が正式用語として定着してきました。
加えて、欧米の文献やガイドラインでは、「PN(Parenteral Nutrition)」という略語を用い、
Partial Parenteral Nutrition(部分的腸管外栄養、経腸併用)
Total Parenteral Nutrition(完全腸管外栄養)
と使い分けるケースも増えています。
今後の学術的な資料や学会発表では「TPN」「PN」を用いたほうが、世界標準に合った表記になります。
栄養管理チームの視点
高度な経静脈栄養では、栄養サポートチーム(NST:Nutrition Support Team)が介入し、以下を多職種で管理します。
・適切なカロリー・電解質・微量元素の設計
・感染管理(カテーテル関連血流感染症の予防)
・血糖コントロール
・肝障害・胆汁うっ滞のモニタリング
・経腸栄養への移行のタイミング
このように、TPNは単なる「カロリー投与」にとどまらず、全身状態に大きな影響を与える治療です。
まとめ
・IVHは「静脈経由の高カロリー輸液」を意味する旧来の用語
・TPNは「腸管以外からの栄養」で、現在は標準的な国際用語
・実際の現場ではほぼ同義で使われるが、TPNのほうが概念として広い
・中心静脈栄養は長期・高カロリー輸液に用いる
・末梢静脈栄養は短期間・低浸透圧輸液に適する
・言葉の正確な意味を理解し、患者の状況に応じた最適な方法を選択することが重要
TPNやIVHは、患者の生命維持に欠かせない一方、カテーテル感染や代謝性合併症のリスクも高い治療法です。用語を正しく理解し、NSTを含めたチーム医療で適切に運用することが大切です。