2025年9月1日更新.2,611記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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最悪の耐性菌とは?

最悪の耐性菌とは?

近年、世界中の医療現場で深刻化しているのが「薬が効かない感染症」、すなわち「耐性菌(薬剤耐性菌)」の存在です。とくに最悪の耐性菌とされるものは、既存の抗菌薬がほとんど無効であり、感染すると非常に高い致死率をもたらすことがあります。最悪の耐性菌として知られる代表的な菌種やその背景、そして今後の対策について勉強します。

耐性菌とは何か?

耐性菌とは、抗菌薬(抗生物質)に対して耐性を持つようになった細菌のことを指します。通常の細菌感染症であれば、ペニシリンやセフェム系などの抗菌薬で治療可能ですが、耐性菌はこれらの薬が効かない、あるいは効きにくくなっています。これにより、治療が困難になり、重症化や死亡のリスクが高まります。

最悪の耐性菌たち

カルバペネム耐性腸内細菌(CRE)

CRE(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae)は、カルバペネム系抗菌薬に耐性を持つ腸内細菌です。大腸菌やクレブシエラなどが該当します。
・耐性機序:カルバペネマーゼ(NDM、KPCなど)と呼ばれる酵素を産生し、カルバペネムを分解
・致死率:40%以上とも言われる
・特徴:プラスミドによる水平伝播で他菌種に広がるリスクがある
・感染部位:尿路、肺、血液、創傷など

多剤耐性アシネトバクター(MDRAB)

アシネトバクター・バウマニは、院内感染で問題となるグラム陰性桿菌で、環境中でも長期間生存できる強靭な菌です。

・耐性:カルバペネム、アミノグリコシド、フルオロキノロンなど多数の薬剤に耐性
・リスク:ICU、人工呼吸器使用患者、長期入院患者など
・致死率:感染部位や全身状態により高率

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)

腸球菌(Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium)は通常は消化管常在菌ですが、バンコマイシンに耐性を持つ株が出現。
・耐性機構:VanA遺伝子などによるペプチド側鎖の変化
・感染部位:尿路、創傷、血流感染など
・日本では少数だが、欧米では深刻な問題

多剤耐性緑膿菌(MDRP)

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はもともと耐性獲得能力が高く、複数の薬剤に対して耐性を示すMDRPは、国内でもたびたび報告されます。
・耐性薬剤:カルバペネム、セフェム、アミノグリコシド
・感染経路:気道、尿路、創部、血流
・特徴:生体材料や水回りから分離されることが多く、感染制御が困難

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)をさらに超える耐性を持つVRSAは、現時点で世界でも報告数は少ないものの、万が一流行すれば壊滅的な影響をもたらします。
・治療選択肢が極端に乏しい
・感染力の高さと毒性の強さが合わさると極めて危険

抗菌薬が効かないとき、どうなるか?

抗菌薬が無効となると、感染症の治療は基本的に「自分の免疫力」に頼るしかなくなります。つまり、免疫が十分に機能している若年健常者なら回復する可能性はありますが、

・高齢者
・小児
・がんや臓器移植、免疫抑制状態の患者

にとっては致命的となり得ます。敗血症や肺炎のような重篤感染であれば、数日で命を落とすこともあります。

耐性菌が生まれる背景

不適切な抗菌薬使用
・風邪などウイルス感染への抗菌薬投与
・適正量・適正期間を守らない
・農業・畜産分野での大量使用

医療環境の問題
・手洗い・衛生管理の不備
・感染対策の徹底不足
・高度医療の集中によりリスクの集中化

グローバル化による拡散
・耐性菌を持つ人の国際的移動
・観光・留学・医療ツーリズムによる拡散

今後の対策と希望

抗菌薬の適正使用(Antimicrobial Stewardship)
・不要な抗菌薬を使わない
・デエスカレーション(広域→狭域)
・感染症専門医・薬剤師の関与

新薬開発の推進

新規抗菌薬の開発は困難で、製薬会社にとって収益性が低いため撤退が相次いでいます。しかしながら、以下のような代替療法が注目されています:
・ファージ療法:細菌を殺すウイルスを使う
・抗体療法:菌や毒素を中和
・免疫賦活剤:免疫を高める
・CRISPRを用いた遺伝子編集

一般人ができること
・抗菌薬を自己判断で使わない
・医師・薬剤師の指示を守る
・ワクチン接種(肺炎球菌、インフルエンザなど)
・日常の感染対策(手洗い、換気、マスクなど)

まとめ

最悪の耐性菌とは、既存の抗菌薬が効かず、免疫力だけでの回復が難しい細菌たちです。医療の進歩にもかかわらず、抗菌薬の乱用によって「前の時代に戻るような恐怖」が現実のものとなりつつあります。薬剤師として、そして医療従事者として、抗菌薬の正しい使用と、感染対策の啓発は避けて通れない課題です。

抗菌薬が効かないという事実を直視し、社会全体で立ち向かう姿勢が求められています。

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