2025年6月26日更新.2,507記事.

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疥癬患者は隔離すべきか?

疥癬患者は隔離すべきか?

疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)が人の皮膚に寄生して起こる感染症です。強いかゆみと特有の発疹が主症状であり、直接的な皮膚接触を介して感染が広がることが知られています。近年、高齢者施設や医療機関における集団感染が問題となっており、特に隔離の必要性について関心が高まっています。疥癬患者の隔離の必要性について、科学的根拠や現場の実情をもとに勉強します。

疥癬とは?

疥癬は、ヒゼンダニが皮膚の角質層内にトンネル(疥癬トンネル)を作って寄生し、体内で卵を産むことで皮膚炎症や強烈なかゆみを引き起こします。発症初期には虫刺されのような発疹が出現し、やがて指の間、手首、外陰部、腋窩(わきの下)、腹部などに赤色~褐色の丘疹、小水疱、膿疱、かさぶた状の皮疹が現れるようになります。

とくに夜間のかゆみが強く、患者のQOL(生活の質)に大きく影響を与えます。乳児や高齢者では水疱や痂皮を伴うことが多く、症状が一般的なアレルギーや湿疹と似ているため、診断が遅れるケースもあります。

感染経路と感染力

疥癬は基本的に皮膚と皮膚の長時間接触によって感染します。過去には性感染症として広がることが多かったのですが、近年は高齢者介護、看護行為、身体的接触の多い施設内などでの感染が中心になっています。

ヒゼンダニは皮膚から離れると数時間以内に感染力を失うため、環境表面からの感染リスクは高くありません。ただし、寝具やタオルなど肌に直接接触する物品については、注意が必要です。

普通の疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の違い

疥癬には大きく分けて2つの型があります:

通常型疥癬
・ダニの数は少なく(10匹以下)、
・感染力は比較的弱い
・接触者に感染しても発症までに時間がかかる(潜伏期間は約2〜6週間)

●角化型疥癬(ノルウェー疥癬)
・ダニが数百万匹単位で繁殖
・皮膚が厚く角化し、フケのような落屑に大量の虫体が含まれる
・感染力が極めて強く、短時間の接触や衣類・寝具からも感染しやすい

この角化型疥癬は、免疫力が著しく低下した高齢者や基礎疾患を持つ患者で発症しやすく、介護施設や病院での爆発的な感染拡大の原因になります。

疥癬患者は隔離すべき?

疥癬患者の隔離については意見が分かれますが、以下のような方針が推奨されています:

通常型疥癬の場合
・隔離の必要性は低い
・発症者に接触した職員や同居家族には予防的対応(治療や経過観察)を検討
・直接の肌接触を避ける工夫(手袋着用や入浴・着替えのサポートを別室で)

角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の場合
・原則として個室隔離が推奨される
・ガウン・手袋・マスクの着用(標準予防策+接触予防策)
・患者が接触したリネンや衣類は、洗濯・乾燥を徹底

なお、隔離期間は治療開始後約1週間〜2週間で十分とされ、治療によりヒゼンダニは速やかに死滅します。

施設での対応の難しさ

介護施設や病院では、全室個室ではないことも多く、隔離が難しい現実があります。また、隔離は患者の心理的負担や介護スタッフの負担増にもつながるため、無条件に隔離を行うのではなく、感染拡大リスクと患者の状態を踏まえて判断する必要があります。

患者や家族への十分な説明、スタッフへの教育、感染管理委員会との連携が重要です。

ナポレオンも疥癬だった?

一部の歴史研究では、フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトが若い頃に前線で疥癬に感染していたという記録があります。肖像画でナポレオンが胸元に手を入れている構図は、実は疥癬によるかゆみを和らげるためだったという俗説も存在します。

「ノルウェー疥癬」という名前の由来

ノルウェー疥癬という名称は、1848年にノルウェーの医師が初めて報告したことに由来します。ただし、ノルウェーに特有の疾患というわけではなく、近年では「過角化型疥癬」あるいは「角化型疥癬」と呼ばれることが推奨されています。

感染対策まとめ

疥癬は早期発見と治療により感染拡大を防ぐことができます。以下のポイントが重要です:

・患者の皮膚症状に注意し、かゆみが夜間に悪化する特徴を把握する
・感染拡大を防ぐには、症状がなくても濃厚接触者には予防的な治療を考慮
・角化型疥癬の場合は、速やかな隔離・防護策が必要
・洗濯と乾燥により環境中の虫体は不活化されるため、過剰な消毒は不要

まとめ

疥癬患者すべてに隔離が必要というわけではありません。通常型の疥癬であれば、適切な感染対策を講じれば集団感染のリスクは比較的低いです。一方で、角化型疥癬は感染力が非常に強く、隔離対応が必須です。現場では、患者の症状や感染拡大のリスク、施設の体制などを総合的に判断して対応することが求められます。

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