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ストロメクトールは空腹時服用?1週間に1回?
公開. 更新. 投稿者:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約5分17秒で読めます.
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ストロメクトールの用法と飲み方のポイント

ストロメクトール(有効成分:イベルメクチン)は、疥癬(かいせん)や腸管糞線虫症の治療に使われる薬です。しかし、飲み方について「空腹時が良いの?」「1週間に1回でいいの?」「3回目の服用はあるの?」といった疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。
ストロメクトールの用法・用量、服用タイミング、投与間隔、治療中に起こる症状について、さらに、同じ駆虫薬のメベンダゾールとの比較も交えながら、正しい飲み方を勉強していきます。
ストロメクトールの基本的な用法・用量
まず、添付文書に記載されているストロメクトールの標準的な用法・用量を確認しておきましょう。
【腸管糞線虫症】
通常:イベルメクチンとして体重1kgあたり約200μgを、2週間間隔で2回経口投与。
例:体重50kgの方の場合、1回の投与量は約10mgになります。
注意:本剤は水と一緒に服用します。
【疥癬】
通常:イベルメクチンとして体重1kgあたり約200μgを1回経口投与。
例:体重60kgの場合、約12mgを1回服用します。
注意:同じく水と一緒に服用します。
ストロメクトール錠は1錠あたり3㎎の規格のみなので、1回10㎎という飲み方は難しいです。
そのため、添付文書には「患者体重毎の1回当たりの投与量」が記載されています。
体重(kg) | 3mg錠数 |
15-24 | 1錠 |
25-35 | 2錠 |
36-50 | 3錠 |
51-65 | 4錠 |
66-79 | 5錠 |
≧80 | 約200μg/kg |
空腹時に飲むのが望ましい理由
添付文書だけを読むと「特に食事に関する記載はない」と誤解しやすいのですが、実は重要な注意書きが別の項目にあります。
添付文書の「用法及び用量に関連する使用上の注意」
本剤は水のみで服用すること。本剤は脂溶性物質であり、高脂肪食により血中薬物濃度が上昇するおそれがある。したがって、本剤は空腹時に投与することが望ましい。
つまり、食事、特に高脂肪食と一緒に服用すると薬が必要以上に吸収され、血中濃度が上がるリスクが指摘されています。
インタビューフォームのデータ
さらに詳細なデータとして、インタビューフォームには以下の記載があります。
海外において健常成人にイベルメクチン30mgを単回経口投与した場合、高脂肪食後に投与したときのAUC(血中濃度の指標)は、空腹時の約2.57倍に増加した。
AUCの2.57倍というのは、かなり大きな差です。
空腹時服用のポイント
「望ましい」という表現なので、絶対的な禁止事項ではありませんが、副作用のリスクを減らすためには基本的に空腹時に服用するのが推奨されます。
なお、空腹時の定義は「前後2時間ほど食事を取らない状態」とされることが多いです。服用タイミングが心配な場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
疥癬と腸管糞線虫症で異なる吸収の考え方
興味深いのは、疾患ごとに「吸収したほうがいい場合」と「吸収しないほうがいい場合」がある点です。
【腸管糞線虫症の場合】
腸管内の糞線虫を駆除するのが目的です。そのため、腸内にとどまって作用する方が都合が良く、吸収を抑えたほうが理にかなっています。したがって空腹時に服用するのが望ましいといえます。
【疥癬の場合】
疥癬は皮膚に寄生するヒゼンダニを駆除する治療です。薬が血中に移行し、皮膚に届く必要があるため、むしろ吸収が高いほうが治療効果に寄与する可能性があります。
実際に「疥癬では食後投与で血中濃度を高めたほうが効果が良い」とする報告もあります。ただし、高濃度は副作用リスクを伴うため、用量・用法は必ず医師の指示に従ってください。
服用後にかゆみが悪化することがある
ストロメクトールを服用した後、患者さんや家族が驚くのが「かゆみが強くなった」という反応です。
これはストロメクトールの副作用ではなく、ヒゼンダニの死骸や分解産物に対するアレルギー反応が原因です。治療初期に一時的に強いかゆみが生じたり、数週間続いたりする場合があります。
これを知らずに服用すると「全く効いていない」「むしろ悪化した」と誤解してしまいます。あらかじめ説明しておくことがとても重要です。
投与間隔と3回目の投与はあるのか?
疥癬に対するストロメクトールの用法は「通常1回経口投与」と書かれているだけで、とても不親切です。
しかし、添付文書の「使用上の注意」に重要な点があります。
重症型(角化型疥癬など)の場合、本剤の初回投与後、1〜2週間以内に効果を確認し、2回目の投与を考慮すること。
これに基づき、1週間後に再投与するケースが一般的です。
本来であれば、ストロメクトールを1回分処方し、1週間後に再受診し検査をしてから2回目の投与を検討するのが正しいといえますが、初回から2回分投与されることも珍しくありません。
さらに、疥癬虫のライフサイクル(卵がかえって成虫になるまでの期間)が10〜14日とされるため、2週目にまだヒゼンダニが検出された場合、3回目の投与を行う場合もあります。
マルホの疥癬対策マニュアルにも以下の記載があります。
イベルメクチン
約200μg/kgを空腹時に1回、水で服用する。投与に伴い、ヒゼンダニの死滅後のアレルギー反応として一過性のかゆみが生じることがある。2回目の投与は1週間後とする。3回目の投与は2週目にヒゼンダニが検出された場合に行う。
このように3回目の投与も臨床上珍しくありません。
メベンダゾールと食事の関係
ストロメクトールと同様に、駆虫薬であるメベンダゾールも食事によって吸収率が変わる薬です。
メベンダゾールは鞭虫症などに使われ、食事(特に脂肪食)と一緒に服用すると血中濃度が約8倍に上がることが報告されています。また、食事よりもオリーブ油と一緒に飲む方が吸収が増加するという研究もあります。
しかし、腸管内で作用する目的の場合はあえて吸収を高める必要がなく、むしろ全身への移行は副作用リスクを増やすため、空腹時投与が適当と考えられています。
一方、近年ではメベンダゾールの抗腫瘍効果に注目が集まり、癌治療の補助として使われるケースでは、あえて血中濃度を上げるために食後投与することが研究されています。
ストロメクトール服用時の注意点まとめ
ストロメクトールを安全かつ効果的に使うために、以下のポイントを押さえましょう。
●基本は空腹時に服用
・脂溶性のため、食事(特に脂肪食)で吸収が増えやすい。
・副作用リスクを避けるため空腹時が望ましい。
●疾患による吸収の考え方
・腸管糞線虫症:吸収少ない方がよい(腸内作用)。
・疥癬:吸収多い方が治療効果に寄与する可能性がある。
●1回服用で終わらない場合がある
・重症型や効果不十分時は、1週間後に2回目の投与。
・2週目に虫が残っていれば3回目も検討。
●服用後のかゆみ増悪は一時的なアレルギー反応
・効果がないわけではない。
・あらかじめ説明して安心してもらう。
まとめ
ストロメクトールの服用は、疾患の種類や患者さんの体調に応じて使い分けが必要な薬です。疥癬では血中濃度が高い方が良い場合がある一方、副作用を抑える観点から空腹時投与が推奨されるなど、一見矛盾するように見える点もあります。
「何時に飲めばいいの?」「何回飲めばいいの?」と悩む場合は、自己判断せず、必ず医師や薬剤師に確認することが大切です。
4 件のコメント
予防のために12mg空腹食前に飲みました、食事は直ぐ?1時間空いてからのが良いのでしょうか?
コメントありがとうございます。
食事と混ざると吸収が高くなるので、食事の前30分程度置いた方がよいでしょう。
初めまして。
私もイベルメクチンに関して興味があり、情報収集中なのですが、この薬は疥癬の治療で、2回程度飲んで終了した場合は安全であるということはわかるのですが、予防で飲むと言う事は継続的な服用となるので、そのような飲み方でも安全なのでしょうか?
よろしくご教授下さい。
上記の『予防で飲む』というのは『コロナ予防で飲む』という意味です。言葉足らずで申し訳ございません。