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アッパー系とダウナー系の違いとは?
公開. 更新. 投稿者:癌性疼痛/麻薬/薬物依存.この記事は約3分13秒で読めます.
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若者の薬物オーバードーズに潜む危険性

SNSや動画サイトで時折見かける「OD(オーバードーズ)」「アッパー系」「ダウナー系」といった言葉。
若い世代の間で、処方薬や市販薬を使った“合法ドラッグ的”な乱用が問題となっています。
とくに最近では、眠れない、気分が落ち込む、イライラする、といった心の不調に対して、安易に薬へ頼る傾向が強まりつつあります。
しかし、その一歩の先には、依存・過量摂取・命に関わる危険性があることも忘れてはいけません。
アッパー系とは?
アッパー系とは、気分や覚醒レベルを「上げる」作用を持つ薬や物質のことです。
本来は医療現場で、眠気を取りたいときや注意力を高める目的などで使われます。
代表的なアッパー系の例
・ADHD治療薬(メチルフェニデートなど)
・カフェイン(大量摂取時)
・一部の漢方やエフェドリン系の成分
・麻薬系:覚醒剤、コカインなど(違法)
アッパー系の薬を大量に摂ると、一時的にハイテンションになったり、眠気が飛んで集中力が上がったように感じることがあります。
しかし、その後には強い疲労感や不安感、幻覚、精神症状が現れることも。
ダウナー系とは?
ダウナー系はその逆で、気分や神経活動を「下げる」「鎮める」方向に働く薬や物質です。
心がざわざわして落ち着かないとき、不安で眠れないときなどに処方されることがあります。
代表的なダウナー系の例
睡眠薬(ベンゾジアゼピン系など)
抗不安薬(デパス、リーゼなど)
咳止めシロップの成分(コデインなど)
アルコール(少量でも)
ダウナー系を大量に摂取すると、強い眠気やふらつき、呼吸抑制、昏睡状態に至ることもあり、命の危険もあります。
「組み合わせ」はさらに危険
アッパー系とダウナー系を意図的に同時使用する行為も、SNSなどで拡散されています。
たとえば、「アッパーで無理に覚醒してから、ダウナーで気分を落ち着ける」といった使い方。
これは身体に大きな負担をかけ、自律神経が混乱し、最悪の場合は心停止や呼吸不全につながります。
デキストロメトルファンはアッパー?ダウナー?
「ゲートキーパーとしての薬剤師等の対応マニュアル」でも警戒対象として挙げられているのが、咳止め成分「デキストロメトルファン」の乱用です。
市販の総合風邪薬や鎮咳薬に広く含まれるこの成分が、過量摂取により“トリップ”状態を引き起こすとして、一部若者の間で乱用されています。
デキストロメトルファンは、少量では中枢に対する抑制(ダウナー系)として働きますが、大量摂取では幻覚や多幸感などアッパー的な作用も併せ持つという、分類が難しい薬物です。
デキストロメトルファンの特徴
・NMDA受容体拮抗作用(ケタミン類似)
・セロトニン症候群のリスクあり
・呼吸抑制・錯乱・幻覚などを引き起こす可能性
・OD時は「飛んでる感」「夢の中みたい」と表現されることも
つまり、ダウナー系として販売されているが、アッパー的に使われるケースが増えているという「グレーゾーン」なのです。
薬剤師がゲートキーパーに
2025年2月、厚生労働省より「ゲートキーパーとしての薬剤師等の対応マニュアル」が公表されました。
これは、若年層を中心に深刻化する薬物のオーバードーズ(OD)や自殺企図のリスクに対して、薬剤師や登録販売者、ドラッグストア従業員が「気づき、声をかけ、支援につなぐ」ための指針をまとめたものです。
「ゲートキーパー」とは、自殺や自傷行為を未然に防ぐためにサインに気づいて対応する支援者のことです。
保健師や教員などが主な対象でしたが、近年では薬剤師や販売員にもその役割が期待されるようになってきました。
なぜなら、薬局やドラッグストアは
比較的気軽に立ち寄れる場所であり
医療・薬物に関する知識を持つ専門職がいる
からです。
特に、「同じ薬を何箱も買いたがる」「効能効果を気にせず薬を選ぶ」「目がうつろで反応が鈍い」など、異変の兆候にいち早く気づける立場でもあります。
薬を「売る」ではなく「守る」ために
市販薬や処方薬は、本来は人を助けるためのものであり、命を守る道具です。
しかし、使い方を間違えれば依存や死に至る危険性を持つ刃にもなりえます。
アッパー系・ダウナー系の分類を知ることは、薬の本来の作用や乱用の危険性を理解するうえでとても有効です。
そして私たち薬剤師は、日々の販売行為や服薬指導の中で、誰かの“異変”にいち早く気づける存在でもあります。