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肝炎にユベラが効く?ビタミンEと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の関係
公開. 更新. 投稿者: 9,931 ビュー. カテゴリ:肝炎/膵炎/胆道疾患.この記事は約5分44秒で読めます.
目次
「ユベラ」は肝臓の薬?それともビタミン剤?

調剤室で処方箋を見ていると、ウルソ(ウルソデオキシコール酸)とユベラN(トコフェロールニコチン酸エステル)が併用されている患者さんをしばしば見かけます。
「肝機能が悪いからユベラを出しているの?」という疑問を持つ薬剤師も少なくないでしょう。
結論から言えば、ユベラ(ビタミンE製剤)は非アルコール性脂肪肝炎(NASH:non-alcoholic steatohepatitis)に対して抗酸化作用を期待して使用されるケースがあります。
ただし、すべての脂肪肝や肝炎に対して効果があるわけではなく、NASHの病態と酸化ストレスが関係することを理解しておく必要があります。
NASHとは何か ――単なる「脂肪肝」とは違う
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)は、
アルコールをほとんど摂取しない人に発症する脂肪肝の総称で、
大きく次の2つに分類されます。
・NAFL(非アルコール性脂肪肝) 肝臓に脂肪がたまるが炎症や線維化が軽い 低い
・NASH(非アルコール性脂肪肝炎) 脂肪蓄積に加えて炎症・壊死・線維化が起こる 高い(肝硬変・肝がんへ進行)
NASHは単なる脂肪肝(NAFL)とは異なり、慢性肝炎として進行する可能性がある疾患です。
肥満、糖尿病、高脂血症、インスリン抵抗性などの生活習慣病と深く関係しています。
なぜビタミンEが注目されるのか ――酸化ストレスの関与
NASHの発症メカニズムには、いわゆる「二段階仮説(two-hit theory)」が提唱されています。
第一段階(first hit):肝臓に脂肪がたまる(脂肪肝)
第二段階(second hit):酸化ストレスや炎症によって肝細胞が傷つく
この「第二段階」の主要因が酸化ストレスです。
脂肪の過酸化や活性酸素によって細胞膜が損傷し、炎症や線維化を引き起こします。
ビタミンE(トコフェロール)は、脂溶性の強力な抗酸化ビタミンであり、
細胞膜の脂質を酸化から守る働きを持ちます。
そのため、NASHにおいては「肝臓の酸化ストレスを抑制する」という理論的な根拠があり、
研究的にも一定の有効性が報告されています。
日本での位置づけ ――「適応外使用」にあたる
ユベラ製剤(ビタミンE製剤)には複数の剤形があります。
・ユベラNカプセル(トコフェロールニコチン酸エステル):高血圧症、高脂質血症、閉塞性動脈硬化症
・ユベラ錠(トコフェロール酢酸エステル):ビタミンE欠乏症、末梢循環障害、過酸化脂質の増加防止
どちらの添付文書にも「脂肪肝」や「肝炎」という適応は記載されていません。
したがって、NASHに対するユベラの使用は保険上は“適応外使用”となります。
ただし、臨床現場では「肝庇護剤としての位置づけ」や「ビタミンE欠乏補正」の目的で、
ウルソデオキシコール酸(ウルソ)と併用されるケースが見られます。
この組み合わせは、NASH患者における酸化ストレスと胆汁うっ滞の双方にアプローチできる理論的な利点があります。
どんな患者に使われやすいか
ユベラが処方されるのは、次のようなケースが多いです。
・肥満・高脂血症・糖尿病などを伴う脂肪肝患者
・肝機能(AST/ALT)が軽度上昇しているが、明確な肝疾患の診断がつかない場合
・ウルソ単剤での効果が限定的なNASH傾向の患者
・高脂血症などの併存症を理由にユベラNカプセルを併用している場合
特にユベラNは「高脂質血症」に保険適応があるため、
脂肪肝に高脂血症を合併している場合には名目上の適応内使用として扱われることがあります。
ビタミンEの限界と注意点
● ① すべての脂肪肝に効くわけではない
NASHは酸化ストレスを伴いますが、単純脂肪肝(NAFL)では炎症が少なく、
ビタミンE投与による明確なメリットは得られません。
「脂肪肝だからユベラを」という安易な処方は避けるべきです。
● ② 長期使用の安全性
高用量ビタミンEの長期投与では、以下のようなリスクが報告されています。
・出血傾向(抗凝固薬との併用で注意)
・前立腺がんリスク上昇の報告(SELECT試験など)
・臨床的には安全性は高い薬剤ですが、高用量・長期投与には慎重さが必要です。
● ③ 保険適用の制約
ユベラはあくまで「ビタミンE欠乏」や「血流改善」目的の薬であり、
肝機能改善薬ではないことに注意が必要です。
NASHへの投与は適応外であり、医師の判断・同意説明が前提となります。
そのため、軽度例では「サプリメントで代用する」判断も現実的です。
サプリメントとの違い
ビタミンEは一般的なサプリメントでも容易に摂取できます。
しかし、医薬品とサプリメントでは以下の違いがあります。
| 比較項目 | 医薬品(ユベラ) | サプリメント |
|---|---|---|
| 成分純度 | 高い(合成ビタミンE、規格化) | 製品によりばらつき |
| 吸収性 | 製剤設計が安定 | 添加物により差がある |
| 用量 | 医師の指示で300mg/日以上可 | 一般的に100mg前後 |
| 保険適用 | 条件付き | 自費(健康補助目的) |
軽度脂肪肝などの場合、医師が「サプリメントでもよい」と判断することもありますが、
NASHなど明確な疾患がある場合は医薬品レベルの量(300mg~800mg/日)が必要とされることがあります。
現在のNASH治療とユベラの位置づけ
NASH治療の基本は、あくまで生活習慣の改善です。
・体重の5~10%減量
・食事の脂質・糖質制限
・有酸素運動の継続
薬物療法は、生活習慣改善でも改善が乏しい場合に検討されます。
現時点で日本で承認されているNASH特効薬はありませんが、以下の薬剤が臨床的に用いられます。
・肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸):胆汁流改善、肝酵素低下
・抗酸化薬(ユベラ(ビタミンE)):酸化ストレス抑制
・インスリン抵抗性改善薬(ピオグリタゾン):糖代謝改善、炎症抑制
・高脂血症治療薬(スタチン):動脈硬化予防、肝脂肪減少効果も一部あり
この中でユベラは、補助的な抗酸化治療薬という位置づけです。
主役ではありませんが、生活習慣改善と併用して肝障害の進行を防ぐ目的で使われます。
まとめ ――ユベラは「肝臓の味方」ではあるが“万能”ではない
・ユベラ(ビタミンE)はNASHに対して抗酸化作用による改善効果が報告されている。
・ただし、日本では適応外使用であり、すべての脂肪肝に効果があるわけではない。
・長期投与では出血傾向などのリスクにも注意が必要。
・NASH治療の中心は、食事・運動・減量である。
・ウルソとの併用は理論的に合理的だが、効果判定には慎重さが求められる。
つまり、「ユベラは肝臓の薬ではないが、酸化ストレスという側面から肝臓を守る“助っ人”」という立ち位置です。
ビタミンEという身近な成分であっても、科学的根拠を踏まえて適切に使うことが重要です。




