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「強力」と名の付く薬は本当に強いのか?
公開. 更新. 投稿者:製剤/ジェネリック.この記事は約4分48秒で読めます.
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「強力」と名の付く薬は本当に強いのか?―薬名の歴史と誤解されやすいネーミング

薬の名前には、その作用や成分をイメージさせる言葉が多く使われています。その中でも、とりわけインパクトのある言葉が「強力」という二文字です。
「強力ネオミノファーゲンシー」
「強力ポステリザン軟膏」
「強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏」
患者さんや医療従事者なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし実際のところ、この「強力」という名前は本当に薬効の強さを意味しているのでしょうか。薬名に使われる「強力」の由来や背景、そして患者さんや現場における誤解について掘り下げてみます。
「強力」のルーツ ― Forte(フォルテ)の意味
強力ポステリザン軟膏のインタビューフォームには以下の記載があります。
Posterisan はラテン語の posteriori(後方の)と sanare(治癒する)を組み合わせた造語であり、ヒドロコルチゾンを配合していることから forte(強力)の文字を付した。
つまり、「強力」という日本語はドイツ語やラテン語の forte(フォルテ)に由来しています。欧州では薬のバリエーション違いを示す際に「forte=強化版」という言葉をよく使います。
例:ビタミン剤の「Forte」版 → 成分量を増やした製剤
例:ポステリザンF坐薬 → ヒドロコルチゾンを加えた強化版
つまり「強力=薬効が極めて強い」という意味ではなく、「従来品に比べて成分を追加した改良版」程度のニュアンスだったのです。
「強力」と名の付く薬の実例
強力ネオミノファーゲンシー
・成分:グリチルリチン酸二カリウム、グリシン、システイン
・主な適応:肝疾患の治療など
・名前の由来:「改良されたネオミノファーゲンシー」 → forte のニュアンス。
強力ポステリザン軟膏
・成分:大腸菌死菌浮遊液+ヒドロコルチゾン
・用途:痔疾患の炎症やかゆみの改善
・forte(強力)は「ステロイドを配合したバージョン」という意味。
強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏
・成分:ヒドロコルチゾン酢酸エステル+ジフェンヒドラミン
・用途:湿疹・皮膚炎・かゆみの治療
・名前に「強力」とあるが、含まれるステロイドは「ウィーク」ランク。
ステロイド外用薬ランクとのギャップ
ステロイド外用薬は効果の強さによって以下のように分類されています。
・ウィーク(弱い):ヒドロコルチゾン
・ミディアム(中等度):プレドニゾロン酢酸エステルなど
・ストロング(強い):ベタメタゾン吉草酸エステルなど
・ベリーストロング(非常に強い):ジフルコルトロン吉草酸エステル(ネリゾナなど)
・ストロンゲスト(最強):クロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベートなど)
ここで問題になるのは、「強力ポステリザン軟膏」に含まれるヒドロコルチゾンは実際には「ウィーク」クラスだということです。つまり「名前は強力、でも実際は弱いステロイド」というギャップが生じています。
一方でデルモベートやジフラールのような最強ランクの薬は「超強力」と名乗ってもよさそうですが、そうはなっていません。この不一致が「名前にだまされるのでは?」という誤解を招く原因になっています。
誤解のリスク
患者さんにとって「強力」という言葉は単純に「強い薬」という印象につながります。そのため:
・本来は軽度の薬にもかかわらず「副作用が強そう」と怖がられる。
・逆に「効き目が強いから安心」と過大評価される。
・医師や薬剤師の説明が不十分だと誤解が広まる。
こうした誤解は服薬アドヒアランスや治療への安心感に影響するため、ネーミングが与えるインパクトは無視できません。
薬名の歴史と現代の傾向
戦後から高度成長期にかけて、日本では「強力」「万能」「特効」といったインパクト重視の薬名が少なくありませんでした。しかし近年は薬機法の規制もあり、薬名には作用や成分を正確に反映することが求められています。
・一般名処方の普及:商品名より「成分名」で処方する流れ。
・ジェネリック医薬品:企業名や成分名を組み合わせたシンプルな名称。
・海外基準との調和:forte は残っているが「強力」という直訳は減少。
つまり、「強力ポステリザン」などは歴史的に残った名称であり、新薬ではほとんど見られなくなっています。
ネーミングの見直し案
もし現代的な感覚で見直すなら、以下のようにした方が誤解は少ないでしょう。
・強力ポステリザン軟膏 → ポステリザンF軟膏
・強力ネオミノファーゲンシー → ネオミノファーゲンシーF
・強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏 → レスタミンコーチゾンコーワF軟膏
「強力=forte」をFで表すのは国際的にも馴染みやすく、患者さんへの誤解も防げます。実際にポステリザンF坐薬はその形をとっており、理解しやすい例といえます。
まとめ
・「強力」と名の付く薬は必ずしも薬効が強いわけではない。
・forte(フォルテ=強化版)というラテン語由来の表現が、日本語で「強力」と訳された。
・実際には弱いステロイドを含む薬でも「強力」と呼ばれるケースがある。
・ネーミングが患者に誤解を与えるリスクは小さくない。
・現代的には「F(forte)」など控えめで誤解の少ない名称が望ましい。