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高山病に効く薬:アセタゾラミドの正しい使い方
公開. 更新. 投稿者:心不全/肺高血圧症.この記事は約3分23秒で読めます.
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高山病とアセタゾラミド(ダイアモックス) ― 仕組みと予防・治療の実際

登山や高地旅行の経験がある人なら、一度は「高山病(山酔い)」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
高山病は海抜2,500m以上の高地で起こりやすく、典型的には頭痛・吐き気・倦怠感・呼吸困難などの症状を呈します。軽症例では自然軽快することもありますが、重症化すると高所性肺水腫や高所性脳浮腫といった命にかかわる病態につながります。
その予防や治療に有効とされている薬のひとつが、アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス®)です。本記事では、高山病の病態とアセタゾラミドの作用機序、使用法、副作用、さらには「食べる酸素」など巷の誤解まで含めて、勉強していきます。
高山病とは?
発症の仕組み
高山病は、低酸素環境に体が順応できないことで起こります。
・高地に到達すると、酸素分圧(PaO₂)が低下
・代償として呼吸が増え(過換気)、二酸化炭素(PaCO₂)が減少
・この結果、呼吸性アルカローシスとなり、血中H⁺濃度が低下
・低酸素と酸塩基平衡の変化により、肺血管収縮・肺高血圧が生じる
・肺血流量が増加し、肺水腫が発生
・脳血管拡張により、脳浮腫が発生
このような一連の変化が、高山病の症状(頭痛、吐き気、呼吸困難)を引き起こします。
好発条件
・標高2,500m以上で発生しやすい
・若年者から高齢者まで幅広く起こりうる
・特に心肺機能に障害がある人や高齢者は低い高度でも発症しやすい
・高所に短時間で一気に上がるほどリスクが高い
高山病の症状
・頭痛
・吐き気、食欲不振
・めまい、倦怠感
・呼吸困難、睡眠障害
・夜間の無呼吸、夜尿
重症化すると、
・高所性肺水腫(HAPE):呼吸困難の悪化、咳、血痰
・高所性脳浮腫(HACE):意識障害、協調運動障害、錯乱
といった危険な状態へ移行します。
高山病の治療と予防
基本は以下の通りです。
・安静:体力を消耗しない
・酸素吸入:低酸素を補正
・下山:もっとも確実な治療
・薬物療法:アセタゾラミド、ニフェジピン、デキサメタゾンなど
アセタゾラミド(ダイアモックス)の作用機序
アセタゾラミドは炭酸脱水酵素阻害薬で、腎臓や中枢に作用します。
主な作用
・腎尿細管でHCO₃⁻の再吸収を抑制
→ 尿中にHCO₃⁻を排泄し、代謝性アシドーシスを誘導。
・代謝性アシドーシスにより呼吸中枢を刺激
→ 呼吸が促進され、酸素摂取が改善。
・脳脊髄液産生を抑制
→ 頭痛や脳圧亢進を軽減。
・浮腫改善作用
→ 利尿作用により肺水腫のリスクを軽減。
結果
・呼吸応答性の改善
・睡眠時の低酸素血症を予防
・脳血流増加により酸素供給改善
アセタゾラミドの使い方
用量の目安
・予防目的:250mgを1日2回(登山の12〜24時間前から開始)
・治療目的:500〜750mg/日を分割投与
※国際的なガイドラインに基づくもので、日本では適応外使用となります。
使用のポイント
・高地に行く前から服用開始することで効果的
・滞在中も継続して服用することで症状を抑制
・利尿作用による脱水に注意
アセタゾラミド以外の薬
・ニフェジピン(アダラート®):肺血管収縮を抑え、高所性肺水腫の予防・治療に有効とされる
・デキサメタゾン(レナデックス®):脳血管透過性亢進を抑え、高所性脳浮腫に有効とされる
ただし、これらはまだ国際的に統一された見解はなく、補助的に使われるにとどまります。
副作用と注意点
・頻尿・多尿(利尿作用による)
・手足や口唇のしびれ感(パレストジア)
・味覚異常(炭酸飲料がまずく感じる)
・代謝性アシドーシス
・腎結石リスク
禁忌:
・スルホンアミド系薬剤アレルギーのある人
・重度の腎障害・肝障害のある人
「食べる酸素」の正体
最近では「食べる酸素」「飲む酸素」「酸素水」などの製品が高山病予防に効果があるかのように宣伝されることがあります。しかし実際には、
・一製品に含まれる酸素量はせいぜい1回の呼吸分
・消化管から酸素を全身に取り込むことはできない
・バナジウムやゲルマニウムを含むサプリはむしろ健康リスク
科学的には全く根拠がなく、高山病対策には効果がないと考えてよいでしょう。
まとめ
・高山病は、低酸素環境に体が順応できないことで起こる障害。
・主な症状は頭痛・吐き気・呼吸困難で、重症化すると肺水腫や脳浮腫に至る。
・治療の基本は安静・酸素・下山。
・アセタゾラミド(ダイアモックス)は、呼吸応答性を改善し、高山病の予防・軽症治療に有効。
・副作用や禁忌もあるため、医師の指導のもとでの使用が望ましい。
・「食べる酸素」や「酸素水」は根拠がなく、誤った安心感を与えるだけなので注意が必要。