2025年8月24日更新.2,598記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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アキレス腱が厚いとコレステロールが高い?

アキレス腱とコレステロールの深い関係

健康診断などで「LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が高い」と指摘されたことがある方は多いと思います。しかし、コレステロール値が高いからといって、すぐに症状が出るわけではないため、つい軽視してしまう人も少なくありません。

ところが、コレステロールが体に沈着し、知らず知らずのうちに変化をきたす場所があります。それが「アキレス腱」です。アキレス腱は足首の後ろ側にある太い腱で、ふくらはぎと踵をつないでいますが、ここに余分なコレステロールがたまることで「腱黄色腫(けんおうしょく)」という状態が生じ、腱が太く硬くなるのです。

コレステロールが腱に沈着するメカニズム

コレステロールは本来、細胞膜やホルモンを作るために必要不可欠な物質です。しかし、血液中のLDLコレステロールが慢性的に高い状態が続くと、動脈の壁や腱の組織に沈着するようになります。

とくに問題となるのが家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)という遺伝性の疾患です。FHでは、LDLコレステロールを体内で適切に処理する仕組みがうまく働かず、若い頃から非常に高い値が続きます。この異常な高値が、腱や血管にコレステロールを沈着させます。

腱は血管と比べると血液の流れが乏しいため、一度コレステロールが沈着すると代謝されにくく、長期間にわたって蓄積していきます。その結果、腱の線維の隙間に脂質のかたまりが増え、次第に腱が太くなっていきます。

アキレス腱黄色腫の特徴

腱にコレステロールが沈着してできる腫瘤を「腱黄色腫(けんおうしょく)」と呼びます。アキレス腱に起こった場合、「アキレス腱黄色腫」と表現されます。

見た目・触診の特徴は以下の通りです。

・アキレス腱が左右ともに太くなる(ただし片側優位な場合もある)
・表面は平滑だが、硬いしこりのように触れる
・皮膚の色は変わらない
・初期は無症状のことが多い
・ときに圧迫感や痛みが生じる
・長期間放置すると可動域が制限されることがある

アキレス腱はふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)から踵骨(かかと)へつながるため、歩行やつま先立ちなど日常の動作で頻繁に使われます。腱黄色腫が大きくなると運動時に不快感が出る場合もあります。

腱黄色腫はアキレス腱以外に、手の甲(伸筋腱)、肘、膝などにも生じることがありますが、アキレス腱が最も頻度が高いとされています。

診断のポイント:見た目だけではわからない

アキレス腱黄色腫は、進行すると視診・触診で気づくことも可能ですが、初期はあまり目立たないため見逃されやすいです。診断を正確に行うためには、以下の方法が用いられます。

●レントゲン撮影
アキレス腱の厚みを計測します。9mm以上が家族性高コレステロール血症の診断基準の一つとされています。

●超音波検査
超音波で腱の内部構造を確認し、腱内の脂質沈着を可視化します。放射線被曝がなく、簡便に計測できます。

●MRI
腱の性状を詳しく調べる場合に使いますが、一般的な診療では超音波やX線で十分なことが多いです。

重要なポイント:
「触った感じで太い気がする」「なんとなく硬い気がする」というだけでは診断できないため、コレステロール値が高い方は必ず医療機関で画像検査を受けることが重要です。

家族性高コレステロール血症(FH)とは

FHは500人に1人程度の頻度で見られる遺伝性疾患です。遺伝子変異により、LDLコレステロールが肝臓で処理されずに血液中に高いまま残るため、動脈硬化が急速に進行します。

主な特徴は以下の通りです。

・小児期から高LDLコレステロール(しばしば180 mg/dL以上)
・アキレス腱肥厚(腱黄色腫)
・若年発症の冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)
・家族内発症(親・兄弟姉妹が高コレステロール血症や早期心血管疾患)

動脈硬化による心筋梗塞は30代や40代といった若年層でも起こり、命に関わるリスクが極めて高いことから、早期発見・早期治療が不可欠です。

動脈硬化との関連

アキレス腱の肥厚は「動脈硬化が進んでいるサイン」と捉えられています。腱と動脈は組織は違いますが、いずれもLDLコレステロールの沈着が関与します。アキレス腱にコレステロールが沈着するほど血中LDLが高く、動脈壁への沈着も進んでいると考えられています。

つまり、
・アキレス腱肥厚 ≒ 動脈硬化リスクが非常に高い
という警告でもあります。

治療と経過

治療の柱はLDLコレステロールを目標値まで下げることです。

主な治療
・食事療法
・飽和脂肪酸の摂取制限
・野菜・魚中心の食生活

薬物療法
・スタチン(最も基本的な薬)
・エゼチミブ(腸管からの吸収抑制)
・PCSK9阻害薬(強力なLDL低下作用)

家族へのスクリーニング
・親・子ども・兄弟の血中脂質を調べる

治療を継続すると、数年かけてアキレス腱の肥厚が少しずつ縮小していくことが知られています。残念ながら短期間で完全に消失するわけではありませんが、進行を止める意味でも治療は非常に重要です。

アキレス腱肥厚に気づくきっかけ

アキレス腱肥厚は以下のようなシーンで偶然見つかることがあります。

・健康診断や人間ドックでLDLが非常に高値
・皮膚科や整形外科を受診したときに指摘される
・家族にFHと診断された人がいて自分も調べた
・自分でふくらはぎを触って気づいた

「アキレス腱が太い気がするだけで受診していいのかな?」と迷う方もいますが、疑わしい場合は遠慮なく専門医に相談してください。

まとめ:見逃さないために

・アキレス腱が太くなる原因の一つがコレステロールの沈着(腱黄色腫)
・特に家族性高コレステロール血症では頻度が高い
・触診・画像検査で早期発見が可能
・動脈硬化リスクが高いため早めの治療が必要
・家族も一緒に検査を受けることが大事

アキレス腱は体の一部でありながら、全身の健康状態を映し出す「鏡」のような存在です。もし気になる症状がある場合やLDLコレステロールが高いと言われている場合は、ぜひ一度医療機関で相談しましょう。

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