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妊婦にSSRIは危険?
公開. 更新. 投稿者:うつ病.この記事は約8分18秒で読めます.
2,613 ビュー. カテゴリ:妊婦のうつ病
妊娠初期のSSRIの使用は、先天異常の発生頻度を増加させるとの報告があるが、リスクはあるとしてもそれほど大きくないと考えられる。
うつ病を治療せずにいると、早産や子宮内胎児発育遅延などのリスクが増加する可能性があり、薬剤使用のリスクだけでなく、ベネフィットも考慮することが大切である。
分娩に近い時期のSSRIの使用によって、新生児不適応症候群を発症する可能性があるが、一過性であるため必要以上に心配する必要はない。
検出バイアス
検出バイアスとは、ある集団を特定する際に,何らかの条件が必要な場合に生じやすいバイアスです。
つまりSSRIを使っている妊婦である、ということが胎児に与えるリスクの評価は複雑である。
パロキセチンはかつて、先天性心疾患との関連が報告されたことから、妊娠中の使用については、医療関係者をはじめ、妊婦自身も心配が強いものと考えられる。したがって、この心配が、研究結果に影響している可能性がある。
パロキセチンを妊娠中に使用した母親の児は、妊娠中に母親が抗うつ薬を使用していない児と比べると、生後1年間に心臓超音波検査を受ける率は2倍であった。つまり、子宮内でパロキセチンに曝露した児では、より多くの検査を受けているため、異常が検出される例も多くなっている可能性があるということである。
母親がパロキセチンを服用した例においては、通常見つけられないような軽度な心疾患までも検出されている可能性があるということである。
SSRIと妊婦
SSRIの妊娠初期の使用は、奇形全体の発生率を有意に増加させることはないと報告されていますが、パキシルに関しては、心奇形の発生率を1.5~2.2倍に増加させるとの報告があります。
また、SSRIを妊娠後期に使用すると新生児遷延性肺高血圧症の発症率の増加や離脱症状、新生児適応障害の報告があり、出生後新生児を注意深く観察する必要があります。
ただし、妊娠中のうつ病は母子双方に不利となり、産褥うつ病の要因ともなりますので、リスク・ベネフィットを考慮し、薬剤の服用を検討する必要があります。
添付文書には以下のように記載されており、各薬剤で違いがみられます。
ルボックス
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、投与しないことが望ましい。また、投与中に妊娠が判明した場合は投与を中止することが望ましい。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。
(1)
妊娠末期に本剤を投与された妊婦から出生した新生児において、呼吸困難、振戦、筋緊張異常、痙攣、易刺激性、傾眠傾向、意識障害、嘔吐、哺乳困難、持続的な泣き等の症状が発現したとの報告がある。なお、これらの症状は、薬物離脱症状として報告される場合もある。
(2)
海外の疫学調査において、妊娠中に他のSSRIを投与された妊婦から出生した新生児において、新生児遷延性肺高血圧症のリスクが増加したとの報告がある。このうち1つの調査では、妊娠34週以降に生まれた新生児における新生児遷延性肺高血圧症発生のリスク比は、妊娠早期の投与では2.4(95%信頼区間1.2-4.3)、妊娠早期及び後期の投与では3.6(95%信頼区間1.2-8.3)であった。]
パキシル
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤の投与を開始すること。また、本剤投与中に妊娠が判明した場合には、投与継続が治療上妥当と判断される場合以外は、投与を中止するか、代替治療を実施すること。
[1)海外の疫学調査において、妊娠第1三半期に本剤を投与された婦人が出産した新生児では先天異常、特に心血管系異常(心室又は心房中隔欠損等)のリスクが増加した。このうち1つの調査では、一般集団における新生児の心血管系異常の発生率は約1%であるのに対し、パロキセチン曝露時の発生率は約2%と報告されている。
2)妊娠末期に本剤を投与された婦人が出産した新生児において、呼吸抑制、無呼吸、チアノーゼ、多呼吸、てんかん様発作、振戦、筋緊張低下又は亢進、反射亢進、ぴくつき、易刺激性、持続的な泣き、嗜眠、傾眠、発熱、低体温、哺乳障害、嘔吐、低血糖等の症状があらわれたとの報告があり、これらの多くは出産直後又は出産後24時間までに発現していた。なお、これらの症状は、新生児仮死あるいは薬物離脱症状として報告された場合もある。
3)海外の疫学調査において、妊娠中に本剤を含む選択的セロトニン再取り込み阻害剤を投与された婦人が出産した新生児において新生児遷延性肺高血圧症のリスクが増加したとの報告がある1),2)。このうち1つの調査では、妊娠34週以降に生まれた新生児における新生児遷延性肺高血圧症発生のリスク比は、妊娠早期の投与では2.4(95%信頼区間1.2-4.3)、妊娠早期及び後期の投与では3.6(95%信頼区間1.2-8.3)であった2)。]
ジェイゾロフト
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。
(1)
妊娠末期に本剤あるいは他のSSRI、SNRIが投与された婦人が出産した新生児において、入院期間の延長、呼吸補助、経管栄養を必要とする、離脱症状と同様の症状が出産直後にあらわれたとの報告がある。臨床所見としては、呼吸窮迫、チアノーゼ、無呼吸、発作、体温調節障害、哺乳障害、嘔吐、低血糖症、筋緊張低下、筋緊張亢進、反射亢進、振戦、ぴくつき、易刺激性、持続性の泣きが報告されている。
(2)
*海外の疫学調査において、妊娠中に本剤を含むSSRIを投与された婦人が出産した新生児において、新生児遷延性肺高血圧症のリスクが増加したとの報告がある7,8)。このうち1つの調査では、妊娠34週以降に生まれた新生児における新生児遷延性肺高血圧症発生のリスク比は、妊娠早期の投与では2.4(95%信頼区間1.2-4.3)、妊娠早期及び後期の投与では3.6(95%信頼区間1.2-8.3)であった8)。]
妊娠初期のSSRI使用に関する最近の報告によると、フルボキサミン(ルボックス)については、催奇形性は認められていませんが、疫学研究が行われていないため安全であるとの結論が出ていません。
パロキセチン(パキシル)については、奇形全体の発生率が有意に増加することはないと考えられていますが、心奇形については増加する可能性があります。
セルトラリン(ジェイゾロフト)については、欧米においてかなりの症例で用いられており、これまでの報告からは奇形発生率の増加はないと考えられています。
どのSSRIがいいか
妊娠中に薬剤を継続服用するのは不安なことである。
日本の添付文書ではフルボキサミンは他のSSRIよりも危険度が増した表現になっているが、海外のリスク情報ではパロキセチン塩酸塩水和物(パキシル)は他のSSRIよりもリスクが高いと報告している。
妊娠中にどのSSRIを処方するのかは専門家を通じて適切に対処したい。
パキシルと心臓の異常
パロキセチンについては2005年、妊娠初期の使用により心臓の異常を持つ児が生まれる頻度が上昇すると、米国食品医薬品局(FDA)が警告した。そのため、その後、大規模な研究が多数行われた。
これまでのところ、同薬の妊娠初期の使用については、先天異常を持つ児が生まれる頻度が上昇するとの報告と、上昇しないとの報告があり、結論が出ていない。
2016年に発表された、妊娠中のパロキセチン曝露と先天異常との関連を検討したシステマティックレビューでは、先天異常を持つ児が生まれる頻度は、パロキセチンを使用すると上昇するとの結論だったが、その頻度は1.2倍に上昇するとの結果だった。これは、薬剤の使用や合併症などがない妊婦において先天異常を持った児が生まれる頻度、すなわちベースラインリスクを3.0%とすると、パロキセチンを使用した場合は3.6%になるということである。このことから、リスクがあるとしてもそれほど大きくないと分かる。
心臓の以上に限ってみても、心臓に異常を持つ児が生まれる頻度が上昇するとの報告と、上昇しないとの報告があり、研究によって結果は異なっており、結論は出ていない。前述した2016年に発表されたシステマティックレビューでは、パロキセチン使用により、心臓に異常を持つ児が生まれる頻度が上昇するとの結果であったが、その頻度は1.3倍に満たなかった。
心臓に異常を持つ児は、薬剤の使用や合併症などがない妊婦の場合であっても、100人に1人の頻度で見られるといわれる。つまり、パロキセチンを使用した場合は、100人に1人現れる異常が、100人に1.3人に出現する可能性があるということである。このことからも分かるように、リスクは増えるとしても、絶対リスクはそれほど大きくないと考えられる。
新生児不適応症候群
分娩に近い時期までSSRIを使用していた場合、新生児に振戦、神経過敏、けいれんなどが見られたと報告されている。胎盤を介して児へ供給された薬物の影響によって表れる直接症状と、出生により胎盤を介して母体から児へ移行していた薬物が供給されなくなることで生じる離脱症状とがあり、両者を合わせて新生児不適応症候群と呼ぶ。発現の頻度は約30%との報告もある。
一般的に、症状は産後24~48時間以内に起こることから、出生後数日間は注意深く児を観察する必要がある。ただし、多くの症例では症状は軽度で、1週間以内に自然回復することがほとんどであるため、過度に心配する必要はない。
妊娠末期のパキシル
妊娠末期にパキシルを投与された方が出産した子供において離脱症状があらわれたり、場合によっては、新生児仮死状態となることもこれまでに報告されています。
妊婦がパロキセチンを服用している場合、パロキセチンは胎盤を通過することから、胎児へ移行することが知られています。
したがって、妊婦が出産した場合、新生児は、突然、パキシルを中止したときと同じ現象となります。
そのため、出産後に離脱症状となってあらわれる可能性があります。
新生児遷延性肺高血圧症
妊娠後期に女性がSSRIを服用すると、生まれた子どもが新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を発症するリスクが6.1倍と高くなるとのこと。
PPHNは、胎児期の胎盤呼吸から肺呼吸への切り替えが正常に起こらないために、肺血管の血圧が下がらず、肺への血流が滞り、顕著な低酸素症が生じる病気です。
通常は1000人に1~2人の発症率です。
妊娠中のSSRI曝露により、PPHNのリスクが増加したとの報告と、リスクは増加しなかったとの報告がある。PPHNの一般の発生率は1.9/1000と低いので、SSRI曝露によるリスク増加があるとしても、絶対的な発生率は低い。
妊婦と抗精神病薬
フェノチアジン系抗精神病薬では動物実験で種々の奇形が報告されていますが、ヒトでは多数例の検討でクロルプロマジン、チオリダジンのいずれも安全であったと報告されており、フェノチアジン系抗精神病薬の催奇形性を否定する見解も出されていますが、フェノチアジン系抗精神病薬についてのprospective studyにおいては見解がわかれています。
また、ブチロフェノン系抗精神病薬に関してもさまざまな見解が示されており、フルフェナジンデカノエイト使用例に多発奇形がみられたとの報告もありますが、一定の結論は得られていません。
これらのことから、抗精神病薬は通常の投与量では催奇形性に対する安全性は高いと考えられており、妊娠第1三半期における多剤投与や大量投与、注射薬の使用で危険性が高くなると考えられます。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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