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糖尿病と歯周病は相互に悪化する?
公開. 更新. 投稿者:糖尿病.この記事は約4分57秒で読めます.
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糖尿病と歯周病は“相互に悪化する関係”?

◆いま見直される「口腔ケアと血糖コントロール」の重要性:
糖尿病といえば、網膜症や腎症、神経障害といった「三大合併症」が有名ですが、近年注目されている合併症のひとつに「歯周病」があります。
しかもこの歯周病、ただの“結果”ではなく、糖尿病を悪化させる“原因”にもなりうるのです。
糖尿病になると、なぜ歯周病になりやすいのか?
糖尿病の人は、健康な人と比べて約2.3倍、歯周病にかかりやすいという米国の統計があります。その理由は、単純に「甘いものを食べるから」ではありません。
◆高血糖による血流障害と免疫力低下:
糖尿病では、血糖値が高い状態が続くと微小血管の障害が起こり、血液の巡りが悪くなります。これにより、歯肉や歯周組織への酸素や栄養の供給が不十分になり、細菌への抵抗力が低下します。
また、白血球の機能も落ちるため、歯周病原細菌に対して十分に防御できなくなります。こうして、歯肉の炎症が起こりやすくなり、進行しやすくなるのです。
◆唾液の分泌量が減る:
糖尿病の症状としてよく知られているのが、「口が渇く」「喉が渇く」といった乾燥症状です。これは、高血糖による脱水や、自律神経障害による唾液腺の機能低下が関与しています。
唾液には、本来、抗菌作用や歯の自浄作用があります。これが減ることで、細菌が繁殖しやすくなる=歯周病の温床になるわけです。
◆歯周組織の修復力も低下する:
高血糖の状態が続くと、組織の修復に関わるコラーゲン線維や血管基底膜の代謝が低下します。つまり、炎症が起きても治りにくい状態になるのです。
さらに、高血糖で過剰な糖がタンパク質と結びついてできる「AGE(糖化最終産物)」は、コラーゲンやラミニンといった重要な構造タンパク質の働きを阻害し、歯周組織の脆弱化に拍車をかけます。
逆に、歯周病が糖尿病を悪化させるって本当?
かつては「糖尿病→歯周病」という一方向の関係が中心に語られていましたが、近年は“歯周病→糖尿病”の逆方向の影響にも注目が集まっています。
歯周病は「慢性炎症性疾患」であり、歯肉の中で慢性的な炎症が続いている状態です。この炎症が、全身に悪影響を及ぼすというのです。
◆炎症性サイトカインによるインスリン抵抗性の増強:
歯周病があると、血中に「炎症性メディエーター(サイトカイン)」が多く分泌されます。具体的には、
・CRP(C反応性タンパク)
・IL-6(インターロイキン-6)
・TNF-α(腫瘍壊死因子α)
などが代表的で、これらは肝臓の糖代謝に悪影響を与え、インスリンの効きを悪くする=インスリン抵抗性の悪化を招くとされています。
つまり、歯周病によって血糖コントロールが難しくなる可能性があるのです。
実際、歯周治療でHbA1cが下がる?
この双方向の関係を裏づけるデータとして、近年では「歯周治療によってHbA1cが改善した」という報告がいくつも存在します。
たとえば、2型糖尿病患者を対象にした研究で、歯周治療(スケーリング・ルートプレーニング)を受けた群では、HbA1cが平均で0.4~0.6%改善したという結果が報告されています。
これは、DPP-4阻害薬1剤追加と同程度の血糖改善効果とみなされることもあり、糖尿病の治療戦略において「歯周治療」がいかに重要であるかを示しています。
歯周病を早期に見つけるサインは?
以下のような症状があれば、歯周病の可能性があります:
・歯ぐきが腫れる・赤くなる:炎症のサイン
・歯を磨くと血が出る:歯肉の出血傾向
・口臭が気になる:細菌の繁殖や膿による臭い
・歯がグラグラする:歯槽骨が破壊されている可能性
こうした症状がある場合は、糖尿病であれば特に早めの歯科受診が望まれます。
糖尿病と診断されたら「眼科と歯科」もセットで考える
糖尿病と診断されると、「眼科に行きましょう」と言われることが多いですが、歯科もそれと同じくらい重要です。
ただし、患者側からすると「また通院が増えるのか…」と億劫に感じる人も少なくありません。医療者側も、一気にいろいろ勧めすぎると逆効果になることがあります。
そこで大切なのが、「歯周病は血糖値を悪くする」という事実を簡潔かつ具体的に説明することです。
「歯医者に行くことでHbA1cが下がることもありますよ」という情報は、患者のモチベーションを高める有効なきっかけになりえます。
◆歯科と内科が連携すべき時代に:
現在では、歯科医院の中にも糖尿病に関する知識を持つ歯科医師が増えつつあります。反対に、糖尿病内科の医師が歯科の重要性を理解して、患者に受診を促す例も増えています。
医科と歯科の「縦割り」を越えて、多職種連携で糖尿病と歯周病にアプローチすることが、患者の長期的な健康維持に大きく貢献します。
まとめ:糖尿病と歯周病は“お互いを悪化させる”関係
・糖尿病になると歯周病になりやすくなる
・唾液の減少・免疫力の低下・組織修復力の低下などが原因
・歯周病があると、糖尿病の血糖コントロールも悪化
・炎症性サイトカインの上昇によりインスリン抵抗性が悪化
・歯周治療によってHbA1cが改善されるケースもある
・糖尿病と診断されたら、眼科だけでなく歯科も定期受診を
歯ぐきの腫れや出血、口臭などのサインは、「ただの歯の病気」では済まされません。口の中の炎症は、血糖コントロールと密接に関わっていることを、私たち医療従事者も、患者さん自身も、もっと意識する必要があります。