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てんかんは泡を吹いて倒れる病気?
公開. 更新. 投稿者:てんかん.この記事は約4分5秒で読めます.
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てんかんは泡を吹いて倒れる病気?─昔のイメージと現代の理解

「てんかん」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか?
中には「突然倒れて口から泡を吹く」という、ややショッキングな描写を思い浮かべる方もいるでしょう。これはいわゆる“てんかんの大発作”を想像したもので、昔のドラマや漫画、学校の保健教材などで描かれていた光景に由来するかもしれません。
しかし、実際にはてんかんには多様な発作型があり、「倒れる」「泡を吹く」といった典型的な症状が出ない場合も多いのです。本記事では、てんかんにまつわる誤解や現代医療の理解について解説していきます。
昔ながらのイメージ:「突然倒れて、泡を吹く」
かつて「てんかん」といえば、意識を失って突然倒れ、けいれんしながら口から泡を吹く――という強烈な印象が定着していました。
この現象は医学的には「強直間代発作」または「全般発作・大発作」と呼ばれ、確かにてんかんの一種です。
● 強直間代発作の流れ:
・全身が硬直(強直相)→ 眼球上転、歯の食いしばり
・次に間代けいれん(全身がガクガクと痙攣)
・その際、口内の唾液や分泌物が泡状になって噴出することがある
・発作後はしばらく昏睡状態となる(1〜2時間程度)
この「泡を吹く」現象は、けいれん中の呼吸停止や口腔内の分泌物が混ざり合うことで見られるもので、すべての発作に共通するわけではありません。
現代の理解:てんかんには多様な症状がある
てんかんには複数の発作型が存在し、外見上まったく気づかれないほど軽度なものから、激しいけいれんを伴うものまでさまざまです。
● 欠伸発作(けっしんほっさ)
・子どもに多く見られる
・数秒間、ボーッと意識が飛ぶような状態
・倒れることはない
・本人は自覚しないことも多い
● ミオクロニー発作
・突然体がピクンと動く
・全身または一部の筋肉が瞬間的に収縮
・意識は保たれている
● 強直発作
・突然体が硬直する
・呼吸が一時的に止まることもある
・睡眠中や朝方に多い
● 焦点性発作(部分発作)
・意識がある状態で、手足の一部が勝手に動くなどの症状が出る
・発作後、発話障害や記憶の混乱が残ることもある
このように、てんかん発作と一口に言っても、症状の現れ方は多様です。周囲が気づかず見逃してしまうこともあります。
側頭葉てんかん:精神的・感覚的な体験を伴う発作
てんかんの中でも特に「神秘体験」に近い症状を呈するのが「側頭葉てんかん」です。側頭葉は記憶・感情・感覚を司る領域であり、この部位で発作が起こると、次のような体験が報告されます。
● 側頭葉てんかんの主な症状:
・幻臭(実際にはない匂いを感じる)
・幻聴(音楽や声が聞こえる)
・幻視(人影や光、映像のようなものが見える)
・恍惚感(理由のない幸福感・高揚感)
・デジャヴ・ジャメヴ体験(既視感・未視感)
・離人体験(自分を外側から見ている感覚)
こうした「エクスタシー」的体験は一部の芸術家や作家に影響を与えたとされ、作家ドストエフスキーも側頭葉てんかんの持病があったことで知られています。
「てんかん児=ヘッドギア」という誤解
特別支援学校や施設で見られることのある「ヘッドギア」を着けた子どもたち。これを見て「てんかん=危ない病気」と誤解する人もいます。
● なぜヘッドギアを?
・転倒時に頭を守るための予防措置
・症状が重く、転倒リスクの高い場合に装着
・本人の安全確保が目的
すべてのてんかん患者がヘッドギアを必要とするわけではありませんし、外見上は普通に見える軽症の人も多くいます。むしろ「てんかんを持っていても見た目にはわからない」ケースの方が圧倒的に多いのです。
てんかんの診断が難しい理由
てんかんの診断が難しい最大の理由は、「発作が起きていないときには何も異常がない」からです。
● 診察時に発作が起きていることは稀
・医師が直接発作を目撃できるケースはほとんどない
・家族や第三者の「目撃証言」が非常に重要
・スマートフォンなどで動画を撮っておくと診断の助けになる
● 脳波検査がカギ
・発作時や安静時に脳の電気的な異常を捉える
・一度の検査では異常が出ないこともある
・必要に応じて睡眠中や発作誘発時の脳波検査が行われる
1回の発作ではてんかんと断定できないことが多く、「繰り返し起こること」が診断の条件になります。ただし、脳波所見が典型的な場合には1回でも診断されることがあります。
社会に残る偏見とこれからの課題
てんかんに関する誤解は今なお根強く、学校・職場・医療現場においても偏見が残っていることがあります。
● 誤解されがちなイメージ
・「危険な発作を起こす病気」
・「突然倒れるから怖い」
・「精神病と同じようなもの」
これらは、正しい知識の不足から生まれる偏見です。
● 正しい理解のために
・発作の多様性を知ること
・てんかんはコントロール可能な病気であること
・周囲の支援がQOLを大きく左右すること
てんかん患者の多くは、適切な治療により普通の生活を送ることができます。学校や職場においても、適切な配慮さえあれば、多くのことが可能なのです。
まとめ
「てんかん=泡を吹いて倒れる病気」というイメージは、かつての強直間代発作の印象からくるもので、実際にはごく一部の発作型にすぎません。
てんかんは極めて多様な症状を持つ疾患であり、診断や対応には正しい知識と柔軟な理解が求められます。見た目にはわからない発作も多く、偏見による誤解が患者の生活に悪影響を及ぼすこともあるのです。
もし身近にてんかんのある方がいた場合には、恐れるのではなく「理解しよう」とする姿勢を持つことが、共生社会の第一歩になるのではないでしょうか。