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師と士の違いは?
公開. 更新. 投稿者:薬局業務/薬事関連法規.この記事は約3分23秒で読めます.
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薬剤“士”?それとも“師”?

「薬剤師」を「薬剤士」と書いてしまう人、案外多いですよね。
字面としては似ているし、「看護師」と「看護士」「看護婦」も混ざっていたり、「技師」「技士」なんてものもあったりして、どう違うの?と思ったことがある方も多いはず。
「師」と「士」─そもそも意味は何が違うのか?
● 「師」:導く者、教える者、専門家の“先生”
「師」という漢字は、本来は軍隊の部隊を意味する言葉です。「軍師」や「兵法の師」といったように、「人を率いて導く存在」としての意味が含まれています。
そこから転じて、「教える人」や「一芸に秀でて他人を指導する人」=師匠という意味が定着しました。
つまり、「師」とは「その道を極めた上で、他人を導く専門家」というニュアンスが強いのです。
→ 例:医師、教師、歯科医師、薬剤師、看護師、技師、詐欺師…!
● 「士」:専門技能を有し、社会に仕える者
一方、「士」という漢字は、元々は「成人男性」を指す言葉で、儀礼を受けた男=貴族階級や武士階級の人々を指しました。
つまり、社会の中で一定の地位や技能を有し、役割を担う存在という意味が含まれます。
→ 例:弁護士、税理士、司法書士、社会保険労務士、保育士、自衛官(士)、武士、学士、修士、博士(はかせ)など
国家資格で見てみる「師」と「士」の使い分け
国家資格で見ると、医療系の職業には「師」が多く、法律・会計・技術系は「士」が多いことがわかります。
分野 | 「師」系資格 | 「士」系資格 |
---|---|---|
医療・福祉 | 医師、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師、理学療法士、作業療法士 | 介護福祉士、社会福祉士、公認心理師、保育士 |
法律・事務 | ー | 弁護士、司法書士、行政書士、税理士、弁理士 |
建築・技術 | 臨床工学技士、放射線技師 | 技術士、建築士、測量士、電気工事士 |
これはあくまで一例ですが、医療分野のうち、「対人援助において直接“命をあずかる”ような職種」に「師」が使われる傾向があると考えられています。
薬剤師が“師”なのに、看護師が“婦”だった理由
「薬剤師」はずっと“師”なのに、かつて「看護師」は「看護婦(ふ)」と呼ばれていました。これは性別による呼称区分であり、当時の社会通念に基づいたものでした。
・男性の看護職 → 看護士
・女性の看護職 → 看護婦
しかし、2002年に法律が改正され、男女問わず「看護師」という表記に統一されました。医療職における性別による役割の固定化を避けることが目的でした。
“師”は偉い?“士”は下?……という誤解
「師」の方が偉そうに見えて、「士」は下っ端っぽい?そんな印象を持つ人もいますが、実際にはどちらが上という意味ではありません。
たとえば、「弁護士」は国民の権利を守る重要な法的専門職ですし、「技術士」は技術者資格の最高峰とされています。
一方、「詐欺師」「ぺてん師」など、“師”を使った悪い意味もあります。これは「ある技に長けている人」という意味からきているため、皮肉な表現ともいえます。
言葉遊び的に面白い“師”と“士”の例
詐欺師:詐欺に“秀でた人”。ある意味で「その道のプロ」?
武士:士の代表格。自らの技で生き、忠義を尽くす者
棋士:将棋や囲碁のプロも“士”なんですね
カウンセラー:日本では「公認心理師」として“師”が使われるのに対し、民間資格は「○○カウンセラー」など“士”も“師”も使われないことが多いです
「技士」と「技師」は何が違う?
臨床工学技士/放射線技師
航空機整備士/建築設備士/電気工事士
ここもよく混同される分野です。
技士:技術職の国家資格者で、実技や設計に特化した人
技師:病院などで働く医療技術者(英語の“technologist”)
つまり、「技士」は制度に基づく職能資格名、「技師」は職種名に近い使われ方をしています。
師と士の違いを一言で言うと?
● 「師」= “教える者・極めた者”
→ 高度な専門知識をもち、指導的な立場にある
● 「士」= “仕える者・守る者”
→ 社会的に認められた資格や任務を持ち、公共に貢献する
ただし、これは明確な法則ではなく、慣習や歴史的背景による違いにすぎません。職業名に「師」がつくか「士」がつくかは、その時代の文化や制度の名残が強く影響しています。
「薬剤師」であって「薬剤士」ではない理由
医師とともに「処方と調剤」に関わり、薬の専門家として医療チームの一角を担う薬剤師は、単なる知識の保持者ではなく、その知識を使って患者を導く存在であるべき――だから「師」と呼ばれるのです。
一方、弁護士、行政書士などの“士”は、資格者としての専門知識を社会的な役務に生かす存在。その違いは「導く人」か「仕える人」かというニュアンスに集約されます。
とはいえ、現代の日本社会ではその区別は曖昧になりつつあり、「どっちが偉い」といった優劣ではなく、職種の歴史や背景を知る“言葉の面白さ”として楽しむのが正解かもしれません。