記事
糖質制限だけでは危険?低インスリンダイエット・低GIダイエット・低炭水化物ダイエット
公開. 更新. 投稿者: 45 ビュー. カテゴリ:栄養/口腔ケア.この記事は約5分10秒で読めます.
目次
「糖質制限」は本当に健康的なのか

「ご飯を抜けば痩せる」
「パンや麺を減らしたら体重が落ちた」
こうした声をよく聞くようになりました。
近年、「糖質制限ダイエット」や「低インスリンダイエット」「低GIダイエット」といった言葉がテレビや雑誌を賑わせています。
しかし、これらのダイエット法は似ているようで微妙に異なり、またその「正しい使い方」を理解していないと、かえって健康を損なう危険があります。
それぞれの理論と効果、そして注意点を整理し、どのように取り入れれば安全で現実的なのかを考えます。
炭水化物=糖質+食物繊維
まず前提として、「炭水化物」は糖質と食物繊維を合わせた栄養素の総称です。
エネルギー源として最も利用されやすく、脳や赤血球などは糖質(ブドウ糖)しか利用できません。
したがって、炭水化物を極端に減らすと、身体は糖が不足し、脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作り出そうとします。
これが「ケトーシス」と呼ばれる状態です。
短期間なら体脂肪が減少しやすいという利点もありますが、長期的には筋肉量の低下や脱水、腎臓への負担、脂質異常などが問題になります。
低炭水化物ダイエット ― 速効性とリスク
● 概要
「低炭水化物ダイエット(Low-Carb Diet)」は、1日の糖質摂取量を大幅に減らし、代わりにタンパク質と脂質を中心にカロリーを摂取する方法です。
一般的には、1日あたり炭水化物量を50g以下に抑えるなど、かなり厳しい制限を行います。
糖質をほとんど摂らないことで、体は脂肪を分解してケトン体をエネルギー源とする「ケトジェニック状態」に入ります。
● メリット
・短期間で体重減少が得られやすい
・空腹感が少なく、継続しやすい場合もある
・インスリン分泌が抑えられ、脂肪合成が減る
● リスク・懸念点
・長期安全性が確認されていない
・果物や根菜類を避けることで食物繊維・ビタミン・ミネラルが不足
・飽和脂肪酸やコレステロールの摂取増加
・腎機能への負担、ケトン体による代謝異常のリスク
実際、2013年のメタ解析では、低炭水化物食群は総死亡率が有意に高いという結果も報告されています。
日本糖尿病学会も「炭水化物のみを極端に制限した食事療法は現時点では薦められない」と明言しています。
低GIダイエット ― 血糖の“スピード”をコントロール
「低GIダイエット」は、血糖値をゆるやかに上げる食品を選んで食べるという考え方です。
● GI値とは?
GI(Glycemic Index)=グリセミック・インデックス
→ 食後血糖値の上昇速度をブドウ糖(GI=100)と比較した値です。
GI値
70以上(高GI):白米・パン・じゃがいも
56〜69(中GI):うどん・パスタ
55以下(低GI):玄米・そば・ヨーグルト・リンゴ
血糖値が急上昇すると、膵臓から大量のインスリンが分泌されます。
インスリンは糖をエネルギーに変える一方で、余分な糖を脂肪として蓄える作用があります。
低GI食品を選ぶことで、この脂肪合成を抑えやすくなります。
● メリット
・血糖コントロールが改善し、糖尿病予防につながる
・脂肪蓄積を防ぎ、体脂肪の減少をサポート
・食後の眠気や倦怠感が減る
● 注意点
・GI値は調理法や組み合わせで変化する(例:マッシュポテトは高GI)
・食品単体のGIだけを意識すると、栄養が偏る
・GIが低くても、食べ過ぎれば血糖値は上昇する
つまり、低GI食はあくまで「血糖上昇を緩やかにする工夫」であり、万能な減量法ではありません。
低インスリンダイエット ― “ホルモンの働き”に注目
「低インスリンダイエット」は、GI理論をさらに発展させた考え方で、
インスリンの分泌そのものを抑えることで脂肪を蓄積しにくくするというものです。
● インスリンとは?
膵臓から分泌されるホルモンで、血中の糖を細胞に取り込み、血糖値を下げます。
ただし、余剰エネルギーを脂肪に変える作用もあるため、「肥満ホルモン」と呼ばれることもあります。
糖質を多く摂る → 血糖上昇 → インスリン分泌増加 → 脂肪蓄積
という流れが繰り返されると、肥満や糖尿病につながります。
● ダイエットとしての理論
血糖値を上げにくい食事(低GI食)+総摂取エネルギーの適正化
= インスリン分泌を抑制 → 脂肪合成抑制・脂肪分解促進
このアプローチは、「低糖質ダイエットの極端さ」と「低GI食のゆるやかさ」の中間に位置する方法といえます。
● 適している人
特にインスリン抵抗性が高い肥満傾向の人には効果が出やすいことが知られています。
(血中インスリン濃度が高い人ほど、糖質制限による体重減少が顕著になるという報告もあります。)
学会・研究機関の見解 ―「極端」は危険
各国の糖尿病学会の方針を見ると、共通しているのは
「総エネルギー摂取量の適正化を優先すべき」
という立場です。
日本糖尿病学会(2012・2019提言)
・極端な糖質制限(炭水化物を総摂取カロリーの40%未満)は推奨せず
・短期間では減量効果があるが、長期的な安全性のエビデンスが不足
・脂質・タンパク質の過剰摂取により腎症や動脈硬化の危険が増す可能性
米国・英国のガイドライン
・低炭水化物食は短期的な肥満治療には有効かもしれない
・ただし、病態によって最適な栄養バランスは異なる
・長期的には、総カロリーと栄養バランスを重視すべき
つまり、「糖質を制限すること自体」よりも、どのような食材を、どのようなバランスで食べるかが重要なのです。
炭水化物=悪ではない
糖質は、エネルギー代謝における最も基本的な燃料です。
特に脳はブドウ糖しか利用できないため、糖質不足になると集中力が低下し、頭痛や倦怠感を招きます。
また、炭水化物を極端に減らすと、筋肉を分解して糖を作り出す「糖新生」が起こり、筋肉量が減少します。
筋肉が減ると基礎代謝が落ち、結果的に太りやすい体質になるのです。
実践するなら「バランス重視」で
● 現実的なアプローチ例
・主食を少し減らして野菜とタンパク質を増やす
・精製炭水化物(白米・白パン・砂糖)を控え、玄米・全粒粉を選ぶ
・よく噛んでゆっくり食べる(血糖上昇が緩やかになる)
・間食にナッツ・ヨーグルトなど低GI食品を活用
このような「ゆるやかな糖質コントロール」が、長期的には最も安全で持続しやすい方法です。
カロリーの基本も忘れずに
体重を1kg減らすためには、約7,000kcalのマイナスが必要です。
これは、食事だけで減らすなら1日500〜700kcalの減量ペースが現実的。
運動だけで補うなら、フルマラソン2回分に相当します。
つまり、どんなダイエットでもエネルギー収支がマイナスにならなければ体重は減らないという大前提は変わりません。
まとめ ― “糖質制限”ではなく“糖質管理”へ
・炭水化物は「悪者」ではなく、「過剰摂取」が問題
・低炭水化物ダイエットは短期的な効果はあるが、長期リスクに注意
・低GI・低インスリンダイエットはより安全で現実的
・目標は「糖質制限」ではなく「糖質の質と量を管理すること」
ダイエットの本質は、単に体重を減らすことではなく、
代謝バランスを整え、健康的な体を維持することにあります。




