記事
睡眠薬の屯服はダメ?
公開. 更新. 投稿者:睡眠障害.この記事は約3分18秒で読めます.
5,076 ビュー. カテゴリ:目次
睡眠薬の不眠時処方

「眠れないときだけ飲んでください」。
睡眠薬の処方で、こういった医師の指示を受けたことのある方は少なくないと思います。とくにハルシオン(トリアゾラム)のような短時間作用型の睡眠薬では、「頓服(とんぷく)」、つまり「必要時のみの服用」として出されることがよくあります。
この「頓服指示」、一見すると安全そうで自然な指示に思えますが、実は不眠症の治療という視点では注意が必要です。
頓服処方がよくある背景
睡眠薬を毎日飲むことに不安を抱く患者さんは少なくありません。
「依存性があるのでは?」「薬に頼るのは怖い」といった声はよく聞かれます。
そこで医師側も、「じゃあ、眠れないときだけ飲みましょう」というかたちで頓服処方をすることがあります。これは患者の不安を軽減し、治療へのハードルを下げるという意味では一つの配慮でもあります。
とくにハルシオンのような作用時間が短く、比較的安全とされる薬は、頓服処方の代表格とされています。
「頓服睡眠薬」は不眠を意識させる?
一方で、「頓服での処方は、逆に不眠を強く意識させてしまう」という意見もあります。
たとえば…
・寝る前に「今日は飲むべきかどうか」と悩む
・「薬を飲まないと眠れないかも」と不安になる
・薬を飲まないと「眠れない」という思い込みが強くなる
このように、「眠れないときに薬を飲む」というスタンスが、かえって“眠れない自分”を強調し、慢性的な不眠の原因になってしまうケースもあるのです。
睡眠薬は「習慣化」して使うべきなのか?
では、逆に「毎日きっちり飲んだ方がよい」のでしょうか?
この点については、医師の中でも意見が分かれます。
【賛成意見】
・一定のリズムで毎日飲むことで、入眠の習慣がつきやすい
・頓服で「飲む/飲まない」を悩まなくて済む
・不眠に対する緊張感が和らぐ
【反対意見】
・睡眠薬への依存につながるリスクがある
・「薬がないと眠れない」という思い込みを強める
・習慣化すると、減薬・中止が難しくなる
このように、「頓服がダメ」と一概には言えませんが、漫然と頓服にするのもリスクがあるということです。
睡眠薬を飲んでも眠れない?
患者さんからよく聞くのが「薬を飲んだけど眠れなかった」という声です。
これは「睡眠薬=麻酔薬のように強制的に眠らせるもの」という誤解に基づいています。
バルビツール酸系とBZ系・非BZ系の違い:
かつて使用されていたバルビツール酸系睡眠薬(例:ベゲタミン)は、半ば強制的に眠らせるような作用がありました。しかし依存や呼吸抑制などのリスクも高く、現在ではほとんど使われていません。
代わって使われているのが…
・BZ系(ベンゾジアゼピン系):ハルシオン、レンドルミン、ロヒプノールなど
・非BZ系(Z薬):マイスリー、アモバン、ルネスタなど
これらは“自然な眠気をサポートする”タイプの薬です。
「眠る準備が整っている状態で服用する」ことで、その効果を最大限に発揮します。
睡眠薬を効果的に使うには?
〇寝る準備を整えてから飲む
・照明を落とす
・スマホやテレビを切る
・30分以内に布団に入る
眠る環境とリズムを整えておくことが、薬の効果を引き出します。
〇日中の生活を見直す
・日中に運動や外出をする
・カフェインを夕方以降に控える
・昼寝を30分以内にする
これらはすべて、薬に頼らない眠りの基盤づくりにつながります。
睡眠薬との上手なつきあい方
不眠に対するアプローチは、「薬を飲む/飲まない」だけでなく、生活習慣や心理的アプローチも大切です。
・睡眠薬に対する“適度な距離感”がカギ
・頓服で使うにしても「依存しすぎない」
・定期服用する場合も「徐々に手放す工夫」を
・「眠れないときがあっても自然なこと」と受け入れる姿勢も大切
薬剤師としては、患者さんの不安や習慣に寄り添いながら、最適な使い方を一緒に模索するサポート役として機能することが求められます。
まとめ
睡眠薬の頓服処方は一概に「ダメ」とは言えませんが、その人の不眠のタイプや心理的な背景、生活スタイルに合わせた使い方が重要です。
・頓服は便利でも、不眠を意識しすぎる原因になることもある
・睡眠薬は“眠気を助ける薬”であり、強制的に眠らせるものではない
・環境・生活習慣の改善が何より重要
・薬との上手な付き合い方を、医療者と一緒に考えることが大切
「睡眠薬=頓服で短期間使うもの」と決めつけず、「自分にとっての最適な使い方とは何か?」を考えることが、不眠治療の第一歩になるのではないでしょうか。