2025年6月20日更新.2,503記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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小児が薬を誤飲したらどうする?

小児の薬の誤飲事故

子どもは思いがけない行動をとるものです。目を離したすきに、机の上の薬を飲み込んでしまった、兄弟の薬を間違って飲ませてしまった──そんな時、親御さんはパニックになってしまうかもしれません。

誤飲事故というと、何を思い浮かべますか?

日本中毒情報センターや日本小児科学会の報告では、小児の誤飲で最も多いのは「タバコ」、次いで「医薬品」、その次が「玩具」です。薬局には「兄の風邪薬を間違って弟に飲ませてしまった」といった相談が持ち込まれることもあります。

では、子どもが薬を誤飲したとき、どのように対応すれば良いのでしょうか?

まず確認するべきは「何を、どれだけ、いつ飲んだか」
小児の誤飲に気づいたとき、まず冷静に以下を確認してください。

・何を飲んだか(商品名・成分)
・どれくらいの量を飲んだか
・飲んだ時間はいつか
・現在の症状はあるか

これらを把握したうえで、小児科や中毒110番、もしくは薬剤師に相談してください。市販薬であっても、小児の体格に対しては過剰量になる可能性があります。

危険な薬と比較的安全な薬

薬の中には、たとえ少量であっても危険な成分を含むものがあります。

薬の種類誤飲時のリスク対処の要否
鉄剤、降圧薬、糖尿病薬重篤な中毒リスク即受診
抗ヒスタミン薬けいれん・昏睡の恐れ要受診
解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)量によるが大量なら肝障害要相談
ビタミン剤通常は無害(量による)経過観察で可

薬の包装が残っていれば、医療機関での判断材料になりますので、必ず持参してください。

子どもが薬を飲んですぐに吐いたら?

薬を飲ませたあと、すぐに嘔吐する子は多くいます。これは、薬そのものの味や形状、あるいは服薬直後に満腹になって胃が刺激されたことなどが原因です。

胃の内容物の排出速度(胃排出時間)に関するデータによると、服薬から30分以内であれば、薬の多くはまだ腸に届いていないと考えられています。したがって、服薬30分以内の嘔吐であれば再投与して問題ないとされています。

ただし、以下のような注意が必要です。
・吐き気のあるときは無理に再投与しない
・食直後の服薬は避け、空腹時または食前30分が望ましい

誤飲でも特に注意が必要な「タバコ」

冒頭でも触れたように、小児の誤飲で最も多いのはタバコです。

紙巻きタバコ1本には約10〜15mgのニコチンが含まれていますが、幼児の致死量は10〜20mgとされ、1本未満でも危険な場合があります。

ただし、最近の研究では、ニコチンは酸性の胃液中では吸収が遅く、ニコチンの催吐作用により自発的に吐き出すため、重篤な症状に至ることは少ないとされます。

よくある誤解として「牛乳を飲ませればよい?」というものがありますが、これは 逆効果 です。
牛乳や水を飲ませると、タバコ中のニコチンが溶け出し、胃からの吸収が早まるため、かえって中毒症状を悪化させる恐れがあります。

現在推奨される対応
・2cm未満の誤飲で、無症状であれば指で吐かせて様子を見る
・4時間以上経過しても症状がなければ問題ない
・水や牛乳は与えない

誤飲ではないが「誤気道」も注意:ピーナツの窒息事故

薬や異物の「誤飲」と似た事故として、ナッツ類による「窒息」があります。

特にピーナツは、表面が滑らかで気管に入りやすく、油分が多く炎症を起こしやすいという特徴があり、3歳未満の子どもには与えるべきではありません。

誤って吸い込んでしまうと、肺炎や気胸(肺に穴があく)を起こすこともあり、摘出には全身麻酔下での手術が必要になることも。

食べさせる際は、年齢に応じた形状(細かく砕くなど)で与えるようにしましょう。

ボタン電池や磁石など、薬以外の誤飲も要注意

薬やタバコ以外でも、誤飲で特に危険なのが以下のようなものです。

誤飲物危険性特徴・対応
ボタン型電池胃の中でアルカリを発生、潰瘍形成早期摘出が必要(緊急受診)
磁石複数個の誤飲で腸を挟み壊死の恐れ手術が必要になることも
パチンコ玉などの小物通常は自然排出経過観察(受診は推奨)
玩具(食べ物そっくり)誤飲のリスクが高まっている食品との見分け困難

とくに近年は、リアルすぎる食品型のおもちゃが誤飲事故の原因になることもあり、注意が必要です。

誤飲時に病院で行う「胃洗浄」とは?

誤飲の初期対応として「胃洗浄」が思い浮かぶ方もいるかもしれません。

しかし近年では、胃洗浄は
・苦痛が大きい割に効果が不明確な場合が多い
・吸収が進んでいる場合は意味がない
として、慎重に行うべきだという見解が主流です。

日本小児科学会でも、タバコ誤飲のほとんどに胃洗浄は不要としています。必要かどうかは医師の判断に委ねましょう。

迷ったらすぐ相談、そして予防が何より大切

子どもの誤飲事故は、いつでも誰にでも起こり得ます。大切なのは、
・慌てずに状況を把握すること
・専門機関に早めに相談すること
・そして何より予防すること

家庭内での薬やタバコの管理、おもちゃの選び方、年齢に応じた食材の工夫が事故を防ぎます。

誤飲事故が起きたとき、正しい知識と対応があれば、重症化を防ぐことができます。この記事が、万一のときに役立つ知識として、そして事故予防の意識づけとして役立てば幸いです。

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