2025年7月22日更新.2,537記事.

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ヨードチンキとポビドンヨードの違いは?

ヨードチンキとポビドンヨードの違い

消毒薬にはさまざまな種類がありますが、その中でも「ヨードチンキ」と「ポビドンヨード(イソジンなど)」は、一般家庭から医療現場まで幅広く使用されてきた代表的なヨウ素系の消毒薬です。

一見するとどちらも茶褐色の液体で、「ヨウ素で消毒する薬」という共通点があるため混同されやすいですが、実際には組成や特性、使える部位、効果、取り扱いの注意点などに大きな違いがあります。それぞれの特徴、どのように使い分けるべきかを勉強します。また、意外と間違えやすい「ポビドンヨード」と「ポピドンヨード」という呼び方の混同にも触れていきます。

ヨードチンキとは?

まず、ヨードチンキについてです。
ヨードチンキは古くから使われてきた歴史ある消毒薬で、化学的には「ヨウ素(I2)」と「ヨウ化カリウム(KI)」をエタノール(アルコール)に溶かして作られています。

この赤褐色の液体は、強い酸化作用により広範囲の細菌、ウイルス、真菌などに対する殺菌力を持っています。そのため、古くから外傷の消毒薬として利用されてきました。

しかし、アルコール基剤を使っているため、皮膚刺激が非常に強いのが欠点です。とくに、以下のような場合には使用を避ける必要があります。

・皮膚がただれている・化膿している部位
・粘膜(口の中、口唇、陰部など)
・目の周囲

刺激が強いとヒリヒリと痛み、組織障害を起こすこともあるため、患部の状態に応じて適切に選ぶ必要があります。

ヨードチンキは創傷の周囲皮膚の消毒や、手術部位の皮膚消毒などに使われることが多い薬剤です。

ポビドンヨードとは?

一方、ポビドンヨードは、ヨードチンキのデメリットである皮膚刺激性を改善するために開発された消毒薬です。

ポビドンヨードは、ヨウ素とポリビニルピロリドン(PVP)という水溶性高分子を複合体にしたものです。この複合体は「ヨウ素を徐々に放出する性質」を持ち、穏やかな作用で持続的に殺菌力を発揮します。

市販薬では「イソジンうがい薬」などの名前で有名で、うがい、創傷消毒、口腔内・咽頭消毒など幅広い用途で使われています。

ポビドンヨードの主な特徴は以下のとおりです。

・刺激性が少ない
・水に溶けやすい
・粘膜や化膿創にも使用可能(ただし適応に注意)
・長時間持続的に殺菌効果を発揮
・独特の茶色は水洗いで落ちやすい

このため、病院だけでなく家庭用のうがい薬やスプレーとして普及しています。

呼び方の混同「ポビドンヨード」と「ポピドンヨード」

意外に多い間違いが、「ポビドンヨード」の呼び方です。

正しくはポビドンヨード(Povidone-Iodine)ですが、口頭では「ポピドンヨード」と呼ぶ人が少なくありません。薬局や医療現場でも「ポピドンヨード」と言われることが時々ありますが、正式名称ではないため注意が必要です。

そもそも、英語表記の「Povidone(ポビドン)」をそのままカタカナにしたのが正式な日本語表記です。
もし商品名で伝えたい場合は「イソジン®」と言えば間違われにくいでしょう。

組成と作用機序の違い

ヨードチンキとポビドンヨードは、どちらも殺菌成分として「遊離ヨウ素」を利用している点は同じです。

しかし、遊離ヨウ素をどのように放出するか、どの基剤に溶かしているかが大きく異なります。

特徴ヨードチンキポビドンヨード
基剤エタノール水溶性高分子(PVP)
刺激性強い弱い
粘膜使用不可可能(適応範囲あり)
殺菌の速さ即効性やや緩徐
色素の落ちやすさ落ちにくい水洗いで落

ヨードチンキはアルコール基剤のため、塗った瞬間から強い刺激と速やかな殺菌効果を発揮しますが、そのぶん使える範囲が限られます。
ポビドンヨードはポリマーがヨウ素を包み込んで徐々に放出するため、刺激が緩和され、作用が持続します。

臨床現場での使い分け

実際にどのように使い分けるのか、主な例を紹介します。

ヨードチンキを使う場面
・小範囲の切り傷や擦過傷の周囲皮膚消毒
・手術時の皮膚の術野消毒
・絆創膏の前処理(ただし乾かしてから貼付する)

ポビドンヨードを使う場面
・喉や口腔のうがい消毒
・軽度の創傷・火傷の洗浄・消毒
・粘膜面の消毒
・カテーテル挿入部の皮膚清拭
・新生児臍処置(※病院の手順に従う)

なお、いずれもアレルギー(ヨウ素過敏症)がある人は禁忌です。

ヨウ素アレルギーに注意

ヨードチンキもポビドンヨードも「ヨウ素アレルギー」がある方には使用できません。
ただし、よく混同されるのが「造影剤アレルギー」や「貝アレルギー」=ヨウ素アレルギーという誤解です。

造影剤によるアナフィラキシーは、実際には造影剤の分子構造そのものによる反応で、ヨウ素自体のアレルギーとは異なります。ただし、造影剤アレルギー歴がある場合は念のため慎重投与する施設も多いです。

着色と洗い落とし

ヨードチンキはエタノール基剤のため、衣類や皮膚に付着すると落としにくい茶色い色素が残ります。
一方、ポビドンヨードは水溶性なので、水や石鹸で比較的容易に落とすことができます。

それでも着色が取れない場合、ハイポアルコール(チオ硫酸ナトリウム)を使うと脱色できます。

ポビドンヨードの注意点

ポビドンヨードは安全性の高い消毒薬ですが、長期間や広範囲に繰り返し使用すると、甲状腺機能障害(特に小児・高齢者・妊婦)を引き起こす可能性があります。

とくにうがい薬として日常的に多量を使用する場合、体内に吸収されたヨウ素が甲状腺ホルモンの合成に影響するリスクが指摘されています。
使用量や頻度については医師・薬剤師の指示を守ることが大切です。

まとめ:正しい理解と正しい使い方

ヨードチンキとポビドンヨードは、同じ「ヨウ素系消毒薬」ですが、

・組成
・使える部位
・刺激性
・洗い落としやすさ

に大きな違いがあります。

間違えて使うと痛みや刺激、組織障害の原因となることもありますので、使用前に「どちらを使うべきか」「使用方法」をきちんと確認しましょう。

また、呼び方も「ポビドンヨード」が正しい表記ですので、覚えておくと安心です。

1 件のコメント

  • 井上峰春 のコメント
         

    ポピドンヨードの遊離ヨウ素とヨウ化カリウムの遊離ヨウ素の違いがあるのですか、消毒殺菌、に対してもよろしくおねがいします。

コメント


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