記事
男性ホルモン作用は悪い作用?―アンドロゲンのメリット・デメリット
公開. 更新. 投稿者: 151 ビュー. カテゴリ:月経/子宮内膜症.この記事は約9分3秒で読めます.
目次
男性ホルモン作用は悪い作用?―アンドロゲンのメリット・デメリット

「男性ホルモン作用」と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。
ニキビ、多毛、脂性肌、薄毛……。
特に女性に使われるホルモン製剤について調べていると、
「アンドロゲン作用が弱い」
「抗アンドロゲン作用を持つ」
といった説明を目にします。
すると、
「女性にとって男性ホルモン作用はない方がいいのでは?」
と思えてきます。
しかし、これは少し単純化しすぎです。
そもそも男性ホルモンは男性だけが持っているホルモンではありません。女性の体内にもテストステロンなどのアンドロゲンが存在し、生理的な役割を担っています。
男性ホルモン作用は「悪い作用」なのでしょうか。
今回は、アンドロゲンのメリットとデメリットについて整理します。
男性ホルモン=アンドロゲン
男性ホルモンの総称を「アンドロゲン」といいます。
代表的なものには、
- テストステロン
- ジヒドロテストステロン(DHT)
- アンドロステンジオン
- DHEA
などがあります。
男性では主として精巣からテストステロンが分泌されますが、女性でも卵巣や副腎などからアンドロゲンが供給されています。
つまり、
男性=男性ホルモン
女性=女性ホルモン
と完全に分かれているわけではありません。
男性にもエストロゲンがありますし、女性にもアンドロゲンがあります。
男女でその量や生理的な位置づけが異なる、と考えた方が正確です。
女性にも男性ホルモンは必要
では、女性のアンドロゲンには何の意味があるのでしょうか。
アンドロゲンは女性でも、
- 性機能・性欲
- 骨代謝
- 筋肉
- 体毛
- エストロゲンの前駆体
などに関係しています。
したがって、
「女性に男性ホルモンは不要」
という認識は正しくありません。
むしろ、女性の正常な生理機能を構成しているホルモンの一つです。
男性ホルモン作用のメリット
「男性ホルモン作用のメリット」と表現すると少し違和感があります。
アンドロゲンは本来、生理的に必要なホルモンだからです。
「メリット」というより、
正常なアンドロゲン作用がどのような生理機能を担っているか
と考えた方がよいでしょう。
① 性欲・性機能に関係する
アンドロゲンは女性の性欲・性的興奮などに関係しています。
特に閉経後など、一部の女性の性欲低下に対するテストステロン療法については海外のガイドラインでも検討されています。
ただし、
テストステロンが高ければ高いほど性欲が高くなる
という単純な関係ではありません。
女性の性機能はエストロゲン、心理状態、人間関係、身体状態、薬剤など多くの要因の影響を受けます。
② 筋肉に関係する
アンドロゲンには蛋白同化作用があり、筋肉量・筋力などに関係します。
男性の方が平均的に筋肉量が多いことにもテストステロンが大きく関与しています。
女性でもアンドロゲンは筋・身体組成に関係しています。
ただし、女性において「アンドロゲンを増やせば筋肉や健康に有益」という意味ではありません。
③ 骨に関係する
アンドロゲンは骨代謝にも関係します。
さらに重要なのは、アンドロゲンとエストロゲンが完全に独立したホルモンではないことです。
アンドロゲンの一部はアロマターゼによってエストロゲンへ変換されます。
たとえば、
テストステロン → エストラジオール
という変換があります。
したがって、アンドロゲンはエストロゲンの「材料」という側面も持っています。
男性ホルモン作用のデメリット
一方、女性でアンドロゲン作用が過剰になると、さまざまな症状につながります。
典型的なのが、
ニキビ・多毛・脂性肌・男性型の脱毛
です。
① ニキビ・脂性肌
アンドロゲンは皮脂腺を刺激します。
そのため、
アンドロゲン作用↑
↓
皮脂分泌↑
↓
ニキビができやすくなる
という関係があります。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)など、アンドロゲン過剰を伴う疾患でニキビが問題になりやすいのもこのためです。
② 多毛
アンドロゲンは毛包にも作用します。
女性でアンドロゲン作用が過剰になると、
- 口周囲
- あご
- 胸部
- 腹部
などに男性型の硬い毛が増えることがあります。
これが多毛症(hirsutism)です。
③ 頭髪が薄くなることもある
「男性ホルモンは毛を増やすのだから、髪の毛も増えるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、毛包によってアンドロゲンに対する反応が異なります。
ひげなどではアンドロゲンが毛の成長を促しますが、遺伝的素因などのある頭皮ではDHTが毛包のミニチュア化に関係します。
そのため、
体毛は増えるのに頭髪は減る
という、一見矛盾した現象が起こります。
「男性ホルモン作用=悪」ではない
ここまでを整理すると、
適切なアンドロゲン作用
→ 正常な生理機能の一部
過剰なアンドロゲン作用
→ ニキビ、多毛、脂性肌、脱毛など
という関係になります。
したがって、
男性ホルモン作用そのものが副作用なのではありません。
問題になるのは、
「どの組織に、どの程度作用するか」
です。
これはエストロゲンなどほかのホルモンでも同じです。
プロゲスチンの「男性ホルモン作用」とは?
ここから薬剤師にとって重要な話になります。
LEPや経口避妊薬などに含まれる合成黄体ホルモンを「プロゲスチン」といいます。
プロゲスチンは基本的にプロゲステロン受容体に作用するよう設計された薬ですが、分子構造によっては他のステロイドホルモン受容体にも作用します。
その一つが、
アンドロゲン受容体(AR)
です。
そのため、プロゲスチンには、
- アンドロゲン作用を持つもの
- アンドロゲン作用が弱いもの
- 抗アンドロゲン作用を持つもの
があります。
代表的なものを大まかに整理すると、
| プロゲスチン | アンドロゲン作用の特徴 |
|---|---|
| レボノルゲストレル | アンドロゲン作用あり |
| ノルエチステロン | アンドロゲン作用あり |
| デソゲストレル | 比較的弱い |
| ジエノゲスト | 抗アンドロゲン作用 |
| ドロスピレノン | 抗アンドロゲン作用 |
ただし、これは薬理学的な性質を大まかに比較したものです。
実際の臨床効果を単純に「アンドロゲン作用の強さランキング」として扱うべきではありません。
なぜプロゲスチンに男性ホルモン作用があるのか?
プロゲスチンの歴史を見ると理解しやすくなります。
一部のプロゲスチンは19-ノルテストステロン系の化合物です。
つまり、構造的にテストステロンに近い化合物から開発されています。
そのためプロゲステロン受容体だけでなく、アンドロゲン受容体にもある程度作用するものがあります。
その後、よりプロゲステロン受容体への選択性を高めたり、アンドロゲン作用を弱くしたり、逆にアンドロゲン受容体を阻害する性質を持ったりするさまざまなプロゲスチンが開発されました。
したがって、
「黄体ホルモンには男性ホルモン作用がある」
というより、
「合成黄体ホルモンは種類によってアンドロゲン受容体への作用が異なる」
と表現する方が正確です。
では抗アンドロゲン作用がある薬の方が優秀?
ここで疑問が生じます。
アンドロゲン作用によってニキビや多毛が起こるのであれば、
「抗アンドロゲン作用のあるプロゲスチンの方が優秀なのでは?」
という疑問です。
しかし、そう単純ではありません。
薬の評価は、
ニキビが改善するかどうか
だけでは決められないからです。
たとえばLEPでは、
- 月経困難症への効果
- 出血パターン
- 不正出血
- 血栓症リスク
- エストロゲン量
- プロゲスチンの種類
- 服用方法
- 患者の年齢
- 喫煙
- 片頭痛
- その他の疾患・リスク
などを総合して薬を選択します。
したがって、
抗アンドロゲン作用が強い=優れたLEP
ではありません。
ピルは男性ホルモンを減らす?
ここも少しややこしいところです。
配合されているプロゲスチンのアンドロゲン作用とは別に、配合型経口避妊薬(COC)全体としては、一般にアンドロゲン活性を低下させる方向に働きます。
主な理由は、
① 卵巣からのアンドロゲン産生が抑制される
ことと、
② エストロゲンによってSHBG(性ホルモン結合グロブリン)が増加する
ことです。
SHBGが増えると、血中の遊離テストステロンが減少します。
つまり、
COC
→ テストステロン産生↓
+SHBG↑
→ 遊離テストステロン↓
となります。
実際、複数の研究をまとめたメタ解析でも、COC使用によって総テストステロンと遊離テストステロンが低下し、SHBGが上昇することが報告されています。
したがって、
「レボノルゲストレルにはアンドロゲン作用がある」
という話と、
「LEP・COC全体としてアンドロゲン活性を低下させる」
という話は両立します。
ここは混同しないようにしたいポイントです。
ピルでニキビが改善するのはなぜ?
この作用はニキビ治療を考えると理解しやすくなります。
アンドロゲンは皮脂分泌を促進します。
COCによって遊離テストステロンなどが低下すれば、
アンドロゲン作用↓
→ 皮脂分泌↓
→ ニキビ改善
という効果が期待できます。
さらに、ドロスピレノンなど抗アンドロゲン作用を持つプロゲスチンもあります。
そのため海外では一部のCOCが尋常性ざ瘡の治療にも使用されています。
ただし、日本で月経困難症に使用されるLEPについては、それぞれの承認された効能・効果を確認する必要があります。
「ニキビに効く特徴がある」ことと「ニキビ治療薬として承認されている」ことは別問題です。
男性ホルモンを減らすと抑うつになる?
ここは慎重に扱いたいところです。
アンドロゲンは女性でも性欲や性機能などに関係しているため、
アンドロゲン活性低下
→ 性欲・活力・気分に影響するのではないか
という考え方があります。
しかし、
「アンドロゲンを抑えると抑うつになる」
と単純に断定できるだけの話ではありません。
実際、COCは遊離テストステロンを低下させますが、COC使用女性の性欲を調べた研究では、低下する人だけでなく、変化しない人や増加する人もいます。
女性の気分や性機能には、
- エストロゲン
- プロゲステロン
- アンドロゲン
- 神経活性ステロイド
- 月経周期
- 疼痛
- 睡眠
- 心理・社会的要因
など多数の因子が関係しています。
したがって、
「男性ホルモン活性が低下する=抑うつ・意欲低下」
という因果関係として説明するのは避けた方がよいでしょう。
一方で、薬の使用後に気分や性欲の変化を訴える患者がいれば、薬剤との関連も含めて評価する必要があります。
男性ホルモン作用は「強い方がいい」「弱い方がいい」ではない
結局、アンドロゲンについて重要なのは、
多ければ良い
でも、
少なければ良い
でもありません。
女性にもアンドロゲンは存在し、生理的な役割を持っています。
一方で、作用が強すぎればニキビ、多毛、脂性肌などにつながります。
さらに薬の話になると、
体内のアンドロゲン濃度
と、
プロゲスチン自体のアンドロゲン受容体への作用
は別の問題です。
ここを分けて考える必要があります。
「男性ホルモン」という名前に惑わされない
「男性ホルモン」「女性ホルモン」という名前から、
男性ホルモン=男性に必要
女性ホルモン=女性に必要
と考えたくなります。
しかし実際の内分泌系はそれほど単純ではありません。
女性にもアンドロゲンがあり、男性にもエストロゲンがあります。
さらに、
アンドロゲン → エストロゲン
という代謝経路も存在します。
そのため、両者は敵対するホルモンではありません。
そして薬についても、
アンドロゲン作用=悪い副作用
抗アンドロゲン作用=良い作用
と決めつけることはできません。
大切なのは、
「どの受容体に、どの程度作用し、それがその患者にとってどのような意味を持つのか」
という視点です。
LEPやプロゲスチンを理解するときも、
「第○世代だから新しい」
「抗アンドロゲン作用があるから優れている」
という単純な評価ではなく、
それぞれの薬理学的特徴と患者背景を組み合わせて考える
ことが重要なのではないでしょうか。



