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薬を使ったら逆に悪化?薬剤逆説反応を起こす薬
公開. 更新. 投稿者: 144 ビュー. カテゴリ:副作用/薬害.この記事は約7分6秒で読めます.
目次
薬剤逆説反応

薬は病気や症状を改善するために使う。
しかし、ときどき薬を使ったことで、
「治療している病気が逆に悪化した」
「眠くなるはずなのに興奮した」
「その病気の治療薬なのに、その病気が発症した」
という、一見矛盾した現象が起こることがある。
このような現象を、逆説反応(paradoxical reaction)と呼ぶことがある。
添付文書を読んでいると、抗結核薬に次のような記載がある。
本剤を含む抗結核薬による治療で、薬剤逆説反応を認めることがある。治療開始後に、既存の結核の悪化又は結核症状の新規発現を認めた場合は、薬剤感受性試験等に基づき投与継続の可否を判断すること。
結核を治療する薬を飲んでいるのに結核が悪化する。
まさに「逆説」である。
しかし、調べてみると「逆説反応」と呼ばれる現象は抗結核薬だけではない。
薬剤逆説反応とは?
「薬剤逆説反応」という名前から、
薬が本来とは正反対の作用をする副作用
だと思っていた。
しかし、必ずしもそれだけではないようだ。
医薬品で「逆説的」と表現される現象には、大きく分けると次のようなものがある。
| タイプ | 代表例 | 何が逆説的なのか |
|---|---|---|
| 治療中の疾患が悪化する | 抗結核薬 | 結核を治療しているのに結核病変が悪化 |
| 本来の薬理作用と反対の症状が出る | ベンゾジアゼピン系 | 鎮静するはずなのに興奮 |
| その薬で治療できる疾患が逆に発症する | TNFα阻害薬 | 乾癬にも効く薬なのに乾癬が発症 |
これらは機序が同じわけではない。
したがって「薬剤逆説反応」という一つの副作用があるというより、薬の作用や治療目的から考えると一見矛盾して見える現象の総称として捉えたほうが理解しやすい。
抗結核薬による薬剤逆説反応
日本の添付文書で「薬剤逆説反応」という言葉を目にする代表が抗結核薬である。
抗結核治療を開始した後、
- 既存の結核病変が悪化する
- 一度改善した症状が再び悪化する
- 新たな結核病変が出現する
といったことがある。
「抗結核薬が効かなかった」と考えたくなるが、必ずしもそうではない。
PMDAはその機序について、強力な化学療法によって急激に死滅した大量の結核菌の菌体に対する局所のアレルギーによる、という考えが支持されていると説明している。
つまり、
抗結核薬が効く
↓
大量の結核菌が死滅する
↓
菌体成分に対する免疫反応が起こる
↓
炎症が強くなる
↓
結核が悪化したように見える
という現象である。
薬が効かなかったから悪くなったのではなく、薬が効いているのに悪化する可能性があるというのが「逆説」である。
薬剤逆説反応なら抗結核薬は中止する?
ここが重要である。
治療中に結核が悪化したら、
「薬が効いていない」
「薬を変更しなければ」
と思ってしまう。
しかし薬剤逆説反応であれば、抗結核治療そのものは有効な可能性がある。
PMDAも、結核菌が感受性菌で、患者が規則的に服薬している場合には、化学療法を中止・変更する必要はなく、通常は治療継続によって改善すると説明している。
だからこそ添付文書には、
「薬剤感受性試験等に基づき投与継続の可否を判断すること」
と書かれている。
逆にいえば、
「治療中に悪化した=薬剤逆説反応」
と決めつけるのも危険である。
薬剤耐性、服薬不良、吸収不良、相互作用などによる治療失敗との鑑別が必要になる。
ベンゾジアゼピン系による逆説反応
逆説反応としてもう一つよく知られているのがベンゾジアゼピン系薬による興奮や脱抑制である。
ベンゾジアゼピン系薬には、抗不安作用、鎮静・催眠作用などがある。
ところが一部の患者では、期待される鎮静とは反対に、
- 興奮
- 易刺激性
- 攻撃性
- 脱抑制
- 落ち着きのなさ
- 不眠
などが現れることがある。
「眠らせる薬を使ったら、逆に興奮した」というわけである。
これは抗結核薬の薬剤逆説反応とは機序が異なる。
抗結核薬では「治療に伴う免疫反応」が問題となるのに対して、ベンゾジアゼピン系では中枢神経系における脱抑制などが関係すると考えられている。
つまり、同じ「paradoxical reaction」と呼ばれていても中身はかなり違う。
なぜ鎮静薬で興奮する?
ベンゾジアゼピン系薬はGABAによる神経抑制を増強する。
それなら神経活動は抑えられるはずだが、脳の中には人間の行動や感情を「抑える」ために働いている神経回路も存在する。
そこが抑制されれば、
「抑制する働きを抑える」
→「ブレーキが外れる」
ということが起こり得る。
これを「脱抑制」と考えると理解しやすい。
ただし逆説反応の機序は完全には解明されておらず、単純に脱抑制だけで説明できるものではない。
抗ヒスタミン薬でも逆に興奮する?
似た現象は鎮静性の抗ヒスタミン薬でもみられる。
第一世代抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過しやすいため、眠気を生じやすい。
ところが、とくに小児では、興奮、落ち着きのなさ、不眠など、鎮静とは反対方向の中枢神経症状を示すことがある。
「眠くなる薬なのだから、子どもを寝かせるためにも使える」
とは限らない。
むしろ逆に興奮してしまう可能性がある。
これも広い意味では逆説的な反応と考えられる。
TNFα阻害薬で乾癬になる?
さらに違ったタイプの逆説反応もある。
TNFα阻害薬は関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬など、さまざまな炎症性疾患の治療に使われる。
ところがTNFα阻害薬を使用している患者で、
新たに乾癬が発症したり、もともとの乾癬が悪化したりする
ことがある。
これはparadoxical psoriasis(逆説性乾癬)と呼ばれている。
乾癬の治療にも使われる薬によって乾癬が発症する。
これも非常にわかりやすい「逆説」である。
生物学的製剤によるparadoxical adverse eventでは、乾癬のほか、クローン病、化膿性汗腺炎なども報告されており、特にTNFα阻害薬との関連がよく知られている。
逆説反応を起こす薬
代表的なものを整理すると、次のようになる。
| 薬剤・薬効群 | 逆説的に起こる現象 | 逆説のタイプ |
|---|---|---|
| 抗結核薬 | 結核病変の悪化、新規病変 | 治療中の疾患が一時的に悪化 |
| ベンゾジアゼピン系 | 興奮、攻撃性、脱抑制など | 薬理作用と反対方向 |
| 鎮静性抗ヒスタミン薬 | 興奮、不眠など | 薬理作用と反対方向 |
| TNFα阻害薬 | 乾癬・乾癬様皮疹 | 治療対象になり得る疾患を誘発 |
| 一部の生物学的製剤 | 乾癬などの炎症性疾患 | 免疫制御に伴う逆説的炎症 |
ただし、これらすべてが日本の添付文書上で「薬剤逆説反応」という同じ名称で記載されているわけではない。
ここは区別しておいたほうがよい。
日本の添付文書で「薬剤逆説反応」という用語が明確に使用されている代表例が抗結核薬であるのに対し、ベンゾジアゼピン系では「興奮」「刺激興奮」「錯乱」など個々の症状として記載されることがある。
またTNFα阻害薬による乾癬も、医学文献では「paradoxical psoriasis」などと呼ばれるが、必ずしも添付文書上の副作用名が「逆説反応」になっているわけではない。
したがって、
添付文書上の「薬剤逆説反応」
と
医学的に「paradoxical reaction/adverse event」と呼ばれている現象
は分けて考えたほうがよさそうだ。
ADHD治療薬で落ち着くのも逆説反応?
一見逆説的でも、「逆説反応」とはいえないものもある。
たとえばADHDに中枢刺激薬を使用すると、衝動性や多動性が改善して落ち着くことがある。
「刺激薬なのに落ち着くのだから逆説反応では?」
と思うかもしれない。
しかしこれは、ドパミンやノルアドレナリン神経伝達を調節することによる本来期待されている治療効果である。
単に一般人がイメージする薬の作用と反対に見えるからといって、すべてを逆説反応と呼ぶわけではない。
リバウンドとも違う
もう一つ区別したいのが反跳現象(リバウンド)である。
たとえば睡眠薬を中止した後、それまで以上に強い不眠が現れることがある。
これは薬を使用している最中に反対方向の作用が現れたわけではない。
薬の中止・減量によって、それまで抑えられていた症状が強く現れたものである。
そのため、
服用中に期待とは逆方向の反応が起こる
→ 逆説反応
中止・減量後に症状が強く現れる
→ 反跳現象
と考えるとわかりやすい。
「薬が効かない」とも違う
薬剤逆説反応で注意したいのは、薬が効いていないように見えることである。
抗結核薬を使っているのに結核病変が悪化した。
睡眠薬を飲んだのに興奮した。
TNFα阻害薬を使っているのに乾癬が出てきた。
いずれも、
「この薬は効いていない」
と思ってしまいそうな現象である。
しかし、逆説反応の場合には必ずしも薬効が不足しているわけではない。
そのため安易に増量したり、中止したりするのではなく、
「これは本当に治療失敗なのか、それとも治療に伴う逆説的な反応なのか」
という視点が必要になる。
薬剤師が知っておきたい「逆説」
薬剤逆説反応について調べてみると、「薬が反対に効く」という単純な話ではないことがわかる。
抗結核薬では、
薬が効いているのに病気が悪化する。
ベンゾジアゼピン系では、
鎮静するはずなのに興奮する。
TNFα阻害薬では、
その薬で治療できる疾患が、逆に発症する。
同じ「逆説」という言葉でも、その機序はそれぞれ異なる。
薬を使用した後に予想とは反対方向の変化が起きたとき、「薬が効かなかった」「病気が悪くなった」と考えるだけでなく、
「薬によって逆説的な反応が起きている可能性はないか?」
という視点を持っておくとよいだろう。



