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乾いた咳と湿った咳の違いとは?
公開. 更新. 投稿者: 93 ビュー. カテゴリ:漢方薬/生薬.この記事は約3分59秒で読めます.
目次
乾いた咳と湿った咳の違いとは?

咳(せき)は、気道に異物や炎症があるときに体が自然に起こす防御反応です。薬局でも「咳止めください」「痰が切れないんです」といった相談は非常に多くあります。
咳と一口に言っても、実は大きく分けて 「乾いた咳(乾性咳嗽)」 と 「湿った咳(湿性咳嗽)」 の2種類があります。両者は原因や対処法が異なり、薬の選び方にも影響するため、正しく見極めることが大切です。
乾いた咳(乾性咳嗽)とは?
特徴
・痰を伴わない、カラカラとした咳。
・のどや気管支に刺激感や乾燥感がある。
・咳き込むと止まらないことが多い。
・夜間や就寝時に強くなることがある。
患者さんの訴えとしては、
「痰が絡まずに咳だけ出る」「喉がイガイガする」「咳が空打ちのよう」
と表現されます。
主な原因
乾いた咳は、炎症の初期やアレルギーなどで見られます。
・風邪やインフルエンザの初期~回復期
・咽頭炎、気管支炎の初期
・アレルギー(ハウスダスト、花粉など)
・百日咳(特徴的に強い乾いた咳)
・ACE阻害薬(高血圧治療薬)による薬の副作用
湿った咳(湿性咳嗽)とは?
特徴
・痰を伴う、ゴロゴロ・ゼイゼイした咳。
・胸の奥が重く、痰を出そうとして咳が誘発される。
・咳のあとに痰が出て少し楽になることがある。
患者さんの訴えとしては、
「痰が多くて切れにくい」「ゴロゴロ音がする」「咳で痰を出す感じ」
と表現されます。
主な原因
湿った咳は、痰の分泌が増えている状態に多く見られます。
・風邪や気管支炎の急性期
・慢性気管支炎、気管支拡張症
・肺炎
・気管支喘息(痰が絡んでゼーゼー)
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
乾いた咳と湿った咳の違いを比較
文章だけではイメージしづらいので、表にまとめてみます。
| 特徴 | 乾いた咳(乾性咳嗽) | 湿った咳(湿性咳嗽) |
|---|---|---|
| 痰の有無 | なし | あり |
| 咳の音 | カラカラ、コンコン | ゴロゴロ、ゼロゼロ |
| 主な症状 | のどの乾燥感、刺激感 | 痰の切れにくさ、胸苦しさ |
| よく見られる病気 | 風邪の初期、百日咳、アレルギー、薬の副作用 | 気管支炎、肺炎、喘息、COPD |
| 患者の訴え | 「空咳が止まらない」 | 「痰が多くて苦しい」 |
治療薬の違い(西洋薬)
咳のタイプにより、薬の選択肢は大きく異なります。
乾いた咳に用いられる薬
・中枢性鎮咳薬:咳中枢を抑える
例:デキストロメトルファン、リン酸コデイン(医療用)
・末梢性鎮咳薬:気道粘膜の刺激を抑える
例:チペピジン、ベンゾナテート
痰がないのに去痰薬を使っても効果が乏しいため、咳そのものを抑える薬が中心となります。
湿った咳に用いられる薬
・去痰薬:痰を出しやすくする
例:カルボシステイン、アンブロキソール、ブロムヘキシン
・気管支拡張薬:気道を広げて痰を出しやすくする
例:β2刺激薬、テオフィリン製剤
・抗菌薬:感染が原因の場合(肺炎など)
痰を伴う咳に「鎮咳薬」を安易に使うと痰が排出できず、かえって症状を悪化させることがあります。
漢方薬による対応
西洋薬と同じく、漢方でも「乾いた咳」と「湿った咳」で使う薬が異なります。添付文書の効能効果に基づいて整理すると次のようになります。
乾いた咳に使う漢方薬
・滋陰降火湯:のどに潤いがなく、痰が出なくて咳き込むタイプ
・麦門冬湯:痰の切れにくい咳、気道の乾燥による咳
湿った咳に使う漢方薬
・清肺湯:痰の多く出る咳
・小青竜湯:水様の痰・鼻水を伴う咳
・麻杏甘石湯:熱感を伴い、呼吸が苦しい咳
・五虎湯・神秘湯:喘息傾向や痰が多い咳に
漢方薬は「体力」「冷え・熱」「痰の性質」などを総合的に判断して選ばれますが、乾湿の見極めが基本です。
咳を見極めるときの注意点
咳の乾湿だけでなく、次の点にも注意が必要です。
・発熱や全身倦怠感を伴う → 肺炎の可能性
・長引く咳(3週間以上) → 百日咳、肺結核、喘息、COPDなどを疑う
・血痰がある → がんや重篤な疾患の可能性
薬局で相談を受ける場合も、単なる咳止めで対応して良いのか、医療機関への受診を勧めるべきかを見極めることが重要です。
まとめ
・乾いた咳は痰を伴わず、刺激感や乾燥感が主体。鎮咳薬や滋陰降火湯・麦門冬湯が用いられる。
・湿った咳は痰を伴い、胸苦しさやゴロゴロ音が主体。去痰薬や清肺湯・小青竜湯などが使われる。
・咳は単なる風邪症状にとどまらず、肺炎や喘息などの重大な病気のサインであることもある。
咳の性状を正しく見極めることが、適切な治療や薬選びの第一歩となります。



