2025年9月30日更新.2,637記事.

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ジクアスとレバミピドの違い

ジクアスとレバミピドの違い ― TFODとTFOTの観点から考えるドライアイ治療

ドライアイ治療は、かつては「人工涙液による水分補給」が中心でした。しかし近年では、涙液を単に補うのではなく、涙液を構成する各層(油層・水層・ムチン層)に注目した診断と治療が重要視されるようになっています。この考え方が TFOD(Tear Film Oriented Diagnosis:涙液層志向診断) および TFOT(Tear Film Oriented Therapy:涙液層志向治療) です。

このTFOD・TFOTの概念を踏まえながら、ドライアイ治療における二大処方薬 ジクアス点眼液(ジクアホソルナトリウム) と レバミピド点眼液 の違いについ勉強していきます。

ドライアイ治療におけるTFODとTFOTとは?

TFOD(涙液層志向診断)
ドライアイは一様な疾患ではなく、涙液のどの層に障害があるかによって病態が異なります。TFODは、涙液の破壊パターン(tear film break-up pattern, TFBUP) を観察し、以下のようにタイプ分類します。

・涙液減少型(Aqueous-deficient dry eye):涙の分泌そのものが少ない
・蒸発亢進型(Increased evaporation dry eye):油層の不安定さによる蒸発過多
・ぬれにくさ型(Decreased wettability dry eye):ムチン不足による角結膜上皮のぬれ性低下

この診断に基づき、より適切な治療選択が可能となります。

TFOT(涙液層志向治療)
TFODで明らかになった不足成分に応じて、治療を層ごとに補うのがTFOTの考え方です。

・水層不足 → 人工涙液、ヒアルロン酸Na、涙点プラグ
・油層異常 → マイボーム腺治療、温罨法
・ムチン層不足 → ジクアス、レバミピド

このように「何となくドライアイだから点眼する」から「どの層が悪いかを見極めてターゲット治療する」へとシフトしています。

ジクアス点眼液(ジクアホソルナトリウム)

基本情報
・一般名:ジクアホソルナトリウム
・販売名:ジクアス点眼液3%
・承認:2010年、日本で開発された世界初の「P2Y₂受容体作動薬」点眼液

作用機序
ジクアスは、結膜上皮細胞や杯細胞に存在する P2Y₂受容体を刺激 することで以下の効果を発揮します。
・水分分泌促進:結膜上皮から水分を分泌し、涙液量を増加
・ムチン分泌促進:杯細胞から分泌型ムチン(MUC5AC)を増加
・膜型ムチン発現促進:角膜上皮のMUC1, MUC16などを増やし、角膜表面のぬれ性改善
つまり、ジクアスは「水」と「ムチン」の両方に作用する点が特徴です。

臨床効果
・自覚症状(乾燥感、異物感)の改善
・BUT(tear film break-up time)の延長
・角結膜上皮障害の改善
・涙液量(シルマーテスト)の改善
特に「涙液不足型」「ぬれにくさ型」の双方にアプローチできる点で、幅広い患者に適応しやすい薬剤です。

レバミピド点眼液

基本情報
・一般名:レバミピド
・販売名:ムコスタ点眼液UD2%
・胃粘膜保護薬として知られていたレバミピドを点眼製剤化
・2012年に世界初の「ムチン増加作用を有するドライアイ治療薬」として登場

作用機序
レバミピドは、角結膜上皮に対して以下の作用を示します。
・分泌型ムチン増加(MUC5AC)
・膜型ムチン発現増強(MUC1, MUC4, MUC16)
・抗炎症作用:IL-6, TNF-αなど炎症性サイトカインの抑制
・抗酸化作用
つまり、レバミピドは「ムチン層」と「炎症制御」に強みを持つ薬剤です。

臨床効果
・BUT延長(ぬれ性改善)
・角結膜上皮障害の改善
・自覚症状(乾燥感、眼精疲労)の改善
・眼表面炎症の軽減
「ぬれにくさ型ドライアイ」「炎症を伴うドライアイ」に特に有効とされています。

ジクアスとレバミピドの比較

項目ジクアスレバミピド
作用標的P2Y₂受容体ムチン発現誘導、抗炎症
涙液層水層+ムチン層ムチン層中心
効果水分分泌、ムチン分泌、ぬれ性改善ムチン増加、抗炎症、抗酸化
臨床的特徴幅広いドライアイに使用可能炎症やぬれにくさ優位のドライアイに適応
投与形態マルチドーズ(防腐剤入り)UD(ユニットドーズ)防腐剤フリー
使用感ややしみると訴える患者あり白濁懸濁で違和感あり、沈殿注意

どちらを選ぶべきか?TFOD/TFOTの観点から

・涙液不足型 → ジクアス
 水分分泌を促すため有効。

・ぬれにくさ型 → レバミピド or ジクアス
 ムチン不足改善に両薬剤が有効。ただし炎症が強ければレバミピドを優先。

・炎症型(角結膜障害が強い) → レバミピド
 抗炎症・抗酸化作用が期待できる。

・重症例 → 両剤の併用
 実臨床では、ジクアス+レバミピド併用が行われることもあります。

調剤・服薬指導での注意点

ジクアス
・使用時にしみることがある → 服薬指導で説明
・防腐剤含有 → 長期使用で角結膜毒性に注意
・コンタクト装用者は外して点眼

レバミピド
・懸濁液 → 使用前によく振る
・白濁しているため「異常」と誤解されやすい → 患者説明が必須
・UD製剤で使い切り → コンタミ防止

まとめ

・TFOD(診断) に基づき、どの涙液層に問題があるかを把握することがドライアイ治療の出発点。
・TFOT(治療) の観点から、層ごとの不足を補う薬剤を選ぶことが重要。
・ジクアスは「水分+ムチン」を補う 幅広いアプローチ が可能。
・レバミピドは「ムチン増加+抗炎症作用」に強みを持つ。

病態によっては併用も行われ、より精密な治療が可能となっている。

「ジクアスとレバミピドの違い」をTFOD/TFOTの観点から整理しました。
ドライアイ治療は患者ごとに病態が異なるため、薬剤師としては「どの層を補うべきか」を常に意識した服薬指導が求められます。

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