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ラジレスとARBは併用可能な併用禁忌?
公開. 更新. 投稿者:高血圧.この記事は約5分32秒で読めます.
1,262 ビュー. カテゴリ:高血圧治療薬の併用禁忌
分類 | 商品名 | 一般名 | 併用禁忌 | ||
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β遮断薬 | β1選択性(ISA-) | テノーミン | アテノロール | ー | |
メインテート | ビソプロロールフマル酸塩 | ー | |||
ビソノテープ | ビソプロロールフマル酸塩 | ー | |||
ケルロング | ベタキソロール塩酸塩 | ー | |||
ロプレソール/セロケン | メトプロロール酒石酸塩 | ー | |||
β1選択性(ISA+) | セレクトール | セリプロロール塩酸塩 | ー | ||
β1非選択性(ISA-) | ハイパジール | ニプラジロール | ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)、リオシグアト | ||
インデラル | プロプラノロール塩酸塩 | リザトリプタン安息香酸塩 | |||
ナディック | ナドロール | ー | |||
β1非選択性(ISA+) | ミケラン | カルテオロール塩酸塩 | ー | ||
カルビスケン | ピンドロール | チオリダジン(販売中止) | |||
αβ遮断薬(ISA-) | ローガン | アモスラロール塩酸塩 | ー | ||
アロチノロール塩酸塩 | アロチノロール塩酸塩 | ー | |||
アーチスト | カルベジロール | ー | |||
カルバン | ベバントロール塩酸塩 | ー | |||
αβ遮断薬(ISA+) | トランデート | ラベタロール塩酸塩 | ー | ||
α遮断薬 | エブランチル | ウラピジル | ー | ||
ハイトラシン/バソメット | テラゾシン塩酸塩水和物 | ー | |||
カルデナリン | ドキサゾシンメシル酸塩 | ー | |||
デタントール | ブナゾシン塩酸塩 | ー | |||
中枢性交感神経抑制薬 | カタプレス | クロニジン塩酸塩 | ー | ||
ワイテンス | グアナベンズ酢酸塩 | ー | |||
アルドメット | メチルドパ水和物 | ー | |||
末梢性交感神経抑制薬 | ベハイドRA | レセルピン+ベンチルヒドロクロロチアジド+カルバゾクロム | テルフェナジン(販売中止)、アステミゾール(販売中止)、デスモプレシン酢酸塩水和物(男性における夜間多尿による夜間頻尿) | ||
Ca拮抗薬 | ジヒドロピリジン系 | 第一世代 | アダラート/セパミット | ニフェジピン | ー |
ペルジピン | ニカルジピン塩酸塩 | ー | |||
第二世代 | ランデル | エホニジピン塩酸塩エタノール付加物 | ー | ||
アテレック | シルニジピン | ー | |||
バイロテンシン | ニトレンジピン | ー | |||
ニバジール | ニルバジピン | ー | |||
ヒポカ | バルニジピン塩酸塩 | ー | |||
スプレンジール | フェロジピン | ー | |||
コニール | ベニジピン塩酸塩 | ー | |||
カルスロット | マニジピン塩酸塩 | ー | |||
第三世代 | カルブロック | アゼルニジピン | アゾール系抗真菌剤(経口剤、注射剤)(イトラコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、ホスフルコナゾール、ボリコナゾール)、HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビル含有製剤、ネルフィナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、ダルナビル含有製剤)、コビシスタット含有製剤 | ||
ノルバスク/アムロジン | アムロジピンベシル酸塩 | ー | |||
Ca拮抗薬+スタチン系薬 | カデュエット | アムロジピンベシル酸塩+アトルバスタチンカルシウム水和物 | グレカプレビル・ピブレンタスビル | ||
ベンゾチアゼピン系 | ヘルベッサー | ジルチアゼム塩酸塩 | アスナプレビルを含有する製剤、イバブラジン塩酸塩、ロミタピドメシル酸塩 | ||
フェニルアルキルアミン系 | ワソラン | ベラパミル塩酸塩 | ー | ||
血管拡張薬 | アプレゾリン | ヒドララジン塩酸塩 | ー | ||
RA系阻害薬 | ACE阻害薬 | カプトリル | カプトプリル | アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く) | |
アデカット | デラプリル塩酸塩 | ||||
チバセン | ベナゼプリル塩酸塩 | ||||
レニベース | エナラプリルマレイン酸塩 | アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者 | |||
セタプリル | アラセプリル | ||||
ロンゲス/ゼストリル | リシノプリル水和物 | ||||
タナトリル | イミダプリル塩酸塩 | ||||
エースコール | テモカプリル塩酸塩 | ||||
オドリック/プレラン | トランドラプリル | ||||
コバシル | ペリンドプリルエルブミン | ||||
ARB | ニューロタン | ロサルタンカリウム | アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く) | ||
ブロプレス | カンデサルタンシレキセチル | ||||
ディオバン | バルサルタン | ||||
ミカルディス | テルミサルタン | ||||
オルメテック | オルメサルタンメドキソミル | ||||
イルベタン/アバプロ | イルベサルタン | ||||
アジルバ | アジルサルタン | ||||
ARNI | エンレスト | サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物 | アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者、アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く) | ||
ARB+利尿剤 | プレミネント | ロサルタンカリウム+ヒドロクロロチアジド | アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)、デスモプレシン酢酸塩水和物(男性における夜間多尿による夜間頻尿)を投与中の患者 | ||
コディオ | バルサルタン+ヒドロクロロチアジド | ||||
エカード | カンデサルタンシレキセチル+ヒドロクロロチアジド | ||||
ミコンビ | テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド | ||||
イルトラ | イルベサルタン+トリクロルメチアジド | ||||
ARB+Ca拮抗薬 | エックスフォージ | バルサルタン+アムロジピンベシル酸塩 | アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く) | ||
レザルタス | オルメサルタンメドキソミル+アゼルニジピン | アゾール系抗真菌剤(経口剤、注射剤)(イトラコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、ホスフルコナゾール、ボリコナゾール)、HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビル含有製剤、ネルフィナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、ダルナビル含有製剤)、コビシスタット含有製剤、アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く) | |||
ユニシア | カンデサルタンシレキセチル+アムロジピンベシル酸塩 | アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く) | |||
ミカムロ | テルミサルタン+アムロジピンベシル酸塩 | ||||
アイミクス | イルベサルタン+アムロジピンベシル酸塩 | ||||
アテディオ | バルサルタン+シルニジピン | ||||
ザクラス | アジルサルタン+アムロジピンベシル酸塩 | ||||
ARB+Ca拮抗薬+利尿剤 | ミカトリオ | テルミサルタン+アムロジピンベシル酸塩+ヒドロクロロチアジド | アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)、デスモプレシン酢酸塩水和物(男性における夜間多尿による夜間頻尿)を投与中の患者 | ||
レニン阻害薬 | ラジレス | アリスキレンフマル酸塩 | イトラコナゾール、シクロスポリン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤を投与中の糖尿病患者(ただし、アンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤投与を含む他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)、サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物 |
エンレストとACE阻害薬
エンレスト錠の成分は、サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物という「アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)」に分類される薬である。以下のようにサクビトリル(ネプリライシン阻害薬)とバルサルタン(ARB)がくっついた構造式である。
ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドを分解する酵素です。心不全の診断指標としてBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という検査値がありますが、ネプリライシン阻害薬の投与で上昇します。添付文書にも、臨床検査結果に及ぼす影響として「本剤の薬力学的作用により本剤投与後にネプリライシンの基質である BNPの上昇がみられることから、本剤投与後に BNP を測定する際は値の解釈に注意すること。」と記載されています。心不全の薬で心不全の検査値が悪化するということになります。BNP自体はその名の通り利尿作用があり、心不全の病態を改善する働きがあります。
エンレストは心不全治療薬のファンタスティック・フォー(β遮断薬、アルドステロンブロッカー、ARNI、SGLT2阻害薬)にも挙げられる心不全治療薬であるが、構造にバルサルタン(ARB)を含む高血圧治療薬でもある。
配合剤ではないが、サクビトリルとバルサルタンが体内で解離して働くので、ARBの配合剤と見なせる。エンレスト錠50㎎は「サクビトリル24.3mg及びバルサルタン25.7mgに相当」、100㎎は「サクビトリル48.6mg及びバルサルタン51.4mgに相当」、200㎎は「サクビトリル97.2mg及びバルサルタン102.8mgに相当」となっている。バルサルタン錠の規格が20㎎、40㎎、80㎎、160㎎とあり、通常用量が40~80mgなので、バルサルタン錠を投与するのと遜色のない用量である。
このエンレストの併用禁忌には、「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者」と「アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)」という記載がある。
ACE阻害薬とARBの併用療法は、まれに行われることがあり、併用禁忌ではなかった。しかし、エンレストとACE阻害薬の併用は禁忌となっている。ちなみに、エンレストとARBの併用は併用注意なのである。エンレストとバルサルタンの併用は禁忌ではない。しかし、そんな処方を見たら確実に疑義照会はするだろう。また、バルサルタンとACE阻害薬の併用も禁忌ではなく、併用注意である。
エンレストとACE阻害薬が併用禁忌である原因はバルサルタンではなく、サクビトリルにある。
ACE阻害薬と血管浮腫
しかし、降圧剤の併用についてはよく見られる処方であるし、ARBとACE阻害薬の併用についても各ARB、ACE阻害薬の増量以上のリスクを考えることはあまりなかった。なぜエンレストはACE阻害薬と併用禁忌という扱いなのか?
ARBとACE阻害薬は同じレニン-アンジオテンシン系に働くので相加的に副作用のリスクが上がる。
エンレストがACE阻害薬と併用禁忌の理由は、添付文書に「併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制し、血管浮腫のリスクを増加させる可能性がある。」と書かれている。エンレストは、重大な副作用である血管浮腫の割合が0.2%とやや多いようだ。血管浮腫の原因としてブラジキニンが挙げられている。ブラジキニンといえば、ACE阻害薬による空咳の原因としても有名である。
ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を促すだけでなく、ブラジキニンの分解も促す。そのため、ACE阻害薬によってブラジキニンの分解が阻害され、空咳や血管浮腫が生じる。
ARB(AⅡ受容体拮抗薬)は、作用機序的にはブラジキニンには影響しないので、「併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制」というのはサクビトリルが原因である。
エンレスト中のサクビトリルは、ネプリライシン阻害薬であり、ネプリライシンはペプチダーゼなのでタンパク質(酵素等)を分解する働きがある。そのため、サクビトリルがブラジキニンの分解を阻害して、血中濃度を上げてしまい、血管浮腫のリスクが増加する。
ラジレスとARB
ラジレスの併用禁忌に、「アンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤を投与中の糖尿病患者(ただし、アンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤投与を含む他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)、サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物を投与中の糖尿病患者」とある。
もともとラジレスとACE阻害薬やARBの併用は禁忌ではなかったが、ノバルティスが実施したALTITUDE試験の結果をもとに添付文書が改訂された。
ALTITUDE 試験は、心血管及び腎イベントの発症リスクの高い、腎障害又は腎機能低下を伴った 2 型糖尿病患者を対象とし、アリスキレンを ACE 阻害剤又は ARB を含む十分な標準治療へ上乗せ投与した際の心血管及び腎イベント発症のリスク低下を検討する、約 4 年間のランダム化、二重盲検、プラセボ対照、国際共同試験である。
そもそも、レニン阻害薬とACE阻害薬・ARBは同じカスケードの作用機序であるため、併用には注意が必要である。
しかし、ACE阻害薬とARBの併用が許容されているように、ラジレスとACE阻害薬・ARBの併用も可能である。
糖尿病であったとしても、「ただし、アンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤投与を含む他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く」という条件付き併用禁忌であり、最終的に医師の判断で併用されることもあり得る。
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