記事
胃が無くても消化できる?
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤.この記事は約4分36秒で読めます.
2,022 ビュー. カテゴリ:目次
胃を全摘しても大丈夫? ― 消化の仕組みと胃全摘後の生活

胃は「食べ物を消化する臓器」として、多くの人がその重要性を強く意識しています。では、胃癌などで胃を全摘した人は、消化や栄養吸収ができなくなるのではないか? と疑問に思う方もいるでしょう。
結論から言えば、胃がなくても人は生きていけます。ただし、胃が担っていた役割を他の臓器が完全に代償できるわけではないため、食べ方や栄養管理に工夫が必要です。
胃の役割を整理しながら、「胃全摘後の消化はどうなるのか」「どのような生活の工夫が必要か」について勉強します。
胃の役割
胃は単なる「食べ物をためる袋」ではなく、次のような重要な機能を果たしています。
貯留機能
・食べたものを一時的に溜め、少しずつ小腸に送る。
・次に食べ物が得られるまで備える「胃適応性弛緩」という仕組みがある。
機械的な消化
・胃のぜん動で食べ物を細かく砕き、液状化する。
化学的な消化
・胃酸による殺菌。
・酵素ペプシンによるタンパク質分解。
内因子の分泌
・ビタミンB12吸収に不可欠な「内因子」を分泌。
これらがあるため、胃は「消化の前処理工場」とも呼べる臓器です。
消化酵素は胃だけではない
胃が担っているのはあくまで「消化の第一段階」。本格的な消化吸収は小腸と膵臓の働きに依存しています。
炭水化物
・唾液:アミラーゼ(ジアスターゼ)
・膵液:アミラーゼ
・腸液:サッカラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ
タンパク質
・胃液:ペプシン、レンネット
・膵液:トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼA/B
・腸液:アミノペプチダーゼN
脂肪
・胃液:リパーゼ(限定的)
・膵液:リパーゼ(主役)
・腸液:補助的なリパーゼ
つまり、胃だけで消化している栄養素は無いのです。胃を失っても、小腸と膵液・胆汁の働きで栄養は消化吸収されます。
胃全摘後に起こる変化
胃を全摘すると、食道と小腸が直接つながります。その結果、次のような問題が生じます。
食べ物をためられない
・一度に食べられる量が少なくなる。
・対策:少量を回数多く食べる「少量頻回食」。
消化の攪拌がない
・食物が大きな塊で小腸に流れ込む。
・対策:よく噛む(咀嚼を増やす)ことが重要。
胃酸による殺菌作用がない
・食中毒リスクがやや高まる。
・対策:生ものの取り扱いに注意。
ビタミンB12の吸収障害
・内因子が分泌されないため、悪性貧血のリスク。
・対策:ビタミンB12の注射またはサプリメント補充が必須。
ダンピング症候群
・急速に小腸へ食べ物が流入し、動悸・冷汗・下痢などが起こる。
・対策:ゆっくり食べる、糖分を控える。
胃がなくても消化できる理由
胃は「前処理」として重要な役割を持っていますが、消化の主役は膵臓と小腸です。
・膵液には強力なアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼが含まれる。
・腸液にも炭水化物・タンパク質を分解する酵素が存在。
そのため、胃がなくても理論的には消化は可能です。ただし効率は落ちるため、食事の工夫が必要になります。
大根と消化酵素
古くから「餅を食べるときは大根おろしを添えると胃もたれしない」と言われます。
これは大根に含まれる消化酵素のおかげです。
・アミラーゼ(ジアスターゼ)
・プロテアーゼ
・リパーゼ
これらは炭水化物・タンパク質・脂肪の分解を助ける酵素であり、消化を助ける自然の補助因子となります。
薬剤としても「ジアスターゼ」は利用され、第一三共のS・M配合散にはタカジアスターゼ(麹菌から抽出)が配合されています。
現代人に胃は不要?
「胃を切っても生きていける」という事実は、現代人にとって胃は必須ではないのか? という疑問にもつながります。
確かに、胃の主な役割は「食べ物を一時的にためる」こと。狩猟採集時代の人類は、いつ食べ物を得られるかわからない環境にあり、大量に食べて蓄える仕組みが必要でした。
これが「胃適応性弛緩」と呼ばれる仕組みです。
しかし現代社会では定期的に食事が可能であり、胃を失っても工夫すれば生活を維持できます。
胃全摘後の生活の工夫
・少量頻回食(1日5〜6回に分ける)
・よく噛む(咀嚼を増やして機械的消化を補う)
・高タンパク・高カロリーを意識(体重減少予防)
・ビタミン・ミネラル補充(特にB12・鉄・カルシウム)
・食後の体調管理(ダンピング症候群に注意)
栄養士による指導も重要で、補助食品や医薬品を組み合わせながら、栄養不良や貧血を防ぐ必要があります。
まとめ
・胃は「食べ物をためる」「攪拌する」「胃酸で分解する」「内因子を分泌する」などの役割を持つ。
・胃を全摘しても、膵臓や小腸が消化の大部分を担うため、理論的には消化吸収は可能。
・ただし効率は落ちるため、食事の工夫と栄養補充(特にビタミンB12)が必要。
・現代社会では定期的に食事ができるため、胃がなくても生活は可能。
・栄養士や医師と連携し、生活習慣の改善と栄養管理を徹底することが大切。