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迅速診断キットでわかる感染症とは?―「その場でわかる検査」のメリットと限界
公開. 更新. 投稿者: 50 ビュー. カテゴリ:服薬指導/薬歴/検査.この記事は約6分48秒で読めます.
目次
病院に行けば原因はすぐわかる?

私たちは体調を崩すと、「病院に行けば原因がすぐにわかる」と考えがちです。しかし、実際の医療現場では、診断はそれほど単純なものではありません。
医師は、
・患者の訴え(症状)
・発症の経過
・既往歴
・身体診察
・血液検査
・画像検査(レントゲン・CT・MRIなど)
といった多くの情報を総合して診断を行っています。
それでも、医学は万能ではなく、誤診や診断の遅れが起こることもあります。
さらに、検査には大きく分けて2種類があります。
・その場ですぐ結果が出る検査
・検体を専門機関に送って後日結果が出る検査
感染症の場合、後者では「結果が出たころにはもう治っている」ということも少なくありません。
そこで重要になるのが、「迅速診断キット」です。
迅速診断キットとは何か?
迅速診断キットとは、
→短時間(数分~30分程度)で感染症の有無を調べられる検査キット
のことです。
多くは、抗原検査や抗体検査の原理を利用しており、診察室や処置室ですぐに使用できます。
最大の特徴は、
✔ 検体採取
✔ 数分待つ
✔ 結果判定
というシンプルな流れで診断の参考になる点です。
特に「早期治療が重要な感染症」では、大きな意味を持ちます。
なぜ迅速診断が重要なのか?
たとえば、インフルエンザを考えてみましょう。
インフルエンザは、発症後48時間以内に抗ウイルス薬を使うと効果が高いとされています。
もし、
「1週間後に検査結果が出ます」
と言われても、治療のタイミングはすでに過ぎています。
つまり、
→感染症では「早くわかる」こと自体が治療の一部
なのです。
このため、インフルエンザやRSウイルスなどでは迅速診断キットが広く普及しています。
現在、迅速診断が可能な主な感染症
日本の医療現場で比較的よく使われている迅速診断キットには、次のようなものがあります。
■ ウイルス感染症
インフルエンザA型・B型
(鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液など)
RSウイルス感染症
(鼻咽頭検体)
アデノウイルス感染症(プール熱など)
(咽頭・結膜ぬぐい液)
ノロウイルス感染症
(糞便)
ロタウイルス感染症
(糞便)
水痘・帯状疱疹ウイルス
(皮膚病変)
単純ヘルペスウイルス
(皮膚病変)
B型肝炎ウイルス
(血液)
■ 細菌感染症
A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)
(咽頭ぬぐい液)
レジオネラ症
(尿検体など)
ヘリコバクター・ピロリ
(胃生検、便抗原など)
これらは代表的な例であり、近年は新型コロナウイルスやマイコプラズマなど、対象はさらに拡大しています。
技術の進歩により、迅速診断の範囲は今後も広がるでしょう。
昔からある「迅速検査」―グラム染色
迅速診断というとキットばかり注目されますが、古くから使われている方法に「グラム染色」があります。
これは、
・細菌を染色
・顕微鏡で観察
・菌の種類を大まかに分類
する方法です。
グラム染色の目的は、
「病名を確定する」よりも
「どの抗菌薬を使うか判断する」
ことにあります。
現在でも救急医療や重症感染症では重要な検査です。
迅速診断キットがない感染症はどうするのか?
すべての感染症に迅速診断キットがあるわけではありません。
その場合、医師は、
・症状
・流行状況
・年齢
・重症度
などから総合的に判断します。
つまり、
「推測診断」
に近い形になります。
このため、診断があいまいになるケースも少なくありません。
なぜ「インフルエンザの診断名」が重要なのか?
インフルエンザの流行期になると、多くの医療機関で迅速検査が行われます。
これは医学的理由だけではありません。
■ 社会的な理由
現代社会では、
「風邪くらいで休むな」
「自己管理が悪い」
という風潮が根強くあります。
一方で、
「インフルエンザなら仕方ない」
「周囲にうつすと困る」
という認識もあります。
そのため、
「インフルエンザ」という診断名が、休むための“免罪符”になる
という側面があるのです。
保育園や学校で「検査してきてください」と言われるのも、この延長線上にあります。
迅速診断キットの的中率とは?
ここで重要なのが「検査の正確さ」です。
検査には、次の3つの指標があります。
① 感度(Sensitivity)
→本当に感染している人を、陽性と判定できる割合
② 特異度(Specificity)
→感染していない人を、陰性と判定できる割合
③ 的中率(陽性的中率・陰性的中率)
→実際に当たっている確率
■ なぜ「陰性でもインフルエンザ」が起こるのか?
多くの迅速検査は、
・感度:約90%前後
・特異度:約90%以上
とされています。
一見、非常に高性能に見えます。
しかし、問題は「有病率(流行状況)」です。
例:
1000人のうち100人が本当に感染している状況を考えます。
・感度90% → 90人が陽性、10人は見逃される
・特異度90% → 810人は陰性、90人は偽陽性
すると、
陰性の中には
→本当は感染している人が混ざります。
これが「偽陰性」です。
つまり、
✔ 陰性=安全
✔ 陰性=感染していない
とは言えないのです。
検査精度に影響する要因
迅速診断の精度は、一定ではありません。
■ 主な要因
① 発症からの時間
→ 12時間以内はウイルス量が少ない
② 検体の取り方
→ 下手だとウイルスが取れない
③ 個人差
→ 体内ウイルス量に差がある
④ キットの性能差
特に「検体採取の技術」は重要で、医師や看護師の熟練度によって結果が左右されることもあります。
陰性でも抗インフルエンザ薬を使う理由
過去に、新型インフルエンザで死亡した児童の例を受け、厚生労働省は、
→「疑わしい場合は、確定しなくても治療してよい」
という通知を出しました。
これは、
・偽陰性による治療遅れ
・重症化リスク
を防ぐためです。
医療現場では、
✔ 検査は陰性
✔ でも症状は典型的
という場合、治療を優先することがあります。
過剰処方は問題にならないのか?
一方で、こうした方針には問題もあります。
・不必要な投与
・薬剤耐性
・医療費増大
・薬の品薄
などのリスクが生じます。
「念のため出しておこう」
が積み重なると、医療全体に悪影響を及ぼします。
そのため、医師には慎重な判断が求められます。
備蓄薬の問題と医療行政
インフルエンザ治療薬には国家備蓄があります。
しかし、
・過剰使用
・不適切な処方
が続けば、本当に必要な人に届かなくなる恐れがあります。
「備蓄を消費するためではないか」
という疑念が出るのも、無理はありません。
医療行政には、透明性と説明責任が求められます。
迅速診断キットとの正しい付き合い方
迅速診断キットは非常に便利な道具です。
しかし、
→「絶対に正しい検査」ではありません。
重要なのは、
✔ 検査結果
✔ 症状
✔ 流行状況
✔ 患者背景
を総合的に考えることです。
検査は「診断の補助」であって、「診断そのもの」ではないのです。
おわりに:便利さの裏にある限界を知る
迅速診断キットは、現代医療に欠かせない存在です。
多くの患者を早期に救い、感染拡大を防いできました。
一方で、
・偽陰性
・過信
・社会的圧力
といった問題も抱えています。
患者側も、
「陰性だから安心」
「陽性だから絶対」
と単純に考えず、
→医師の説明を理解し、冷静に対応する姿勢
が求められます。
迅速診断キットは「魔法の道具」ではありません。
正しく使い、正しく理解してこそ、本当の価値が発揮されるのです。




