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キサラタンで目の色が変わる?虹彩色素沈着の副作用と中止の判断
公開. 更新. 投稿者:緑内障/白内障.この記事は約4分48秒で読めます.
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プロスタグランジン系点眼薬と虹彩色素沈着の副作用と中止判断

緑内障や高眼圧症は、視神経が障害されて進行すると失明に至る可能性のある疾患です。治療の第一選択薬として広く使用されているのが プロスタグランジン(PG)系点眼薬です。代表的な薬剤には キサラタン®(一般名:ラタノプロスト) があり、国内外で長年にわたって使用されています。
しかし、この薬剤群には独特な副作用として「虹彩色素沈着」が知られています。黒目の周囲の色が濃くなる現象であり、添付文書でも「重大な副作用」と明記されています。
プロスタグランジン系点眼薬の概要
プロスタグランジンF2α誘導体は、主に 房水流出の促進 により眼圧を下げる作用を持ちます。毛様体から分泌される房水はシュレム管などを介して排出されますが、PG点眼薬はブドウ膜強膜流出路を拡張させることで流出を増加させ、眼圧を低下させます。
現在、日本で承認されているPG関連薬は以下の通りです。
・ラタノプロスト(キサラタン®)
・タフルプロスト(タプロス®)
・トラボプロスト(トラバタンズ®)
・ビマトプロスト(ルミガン®)
いずれも有効性が高く、点眼回数も1日1回で済むため、緑内障治療の中心を担っています。その一方で、「虹彩色素沈着」や「睫毛の増加」など、特徴的な副作用を持ちます。
虹彩色素沈着とは?
虹彩は角膜の奥に位置するドーナツ状の組織で、瞳孔の大きさを調整する役割を担っています。虹彩の色はメラニン色素の量と分布によって決まります。
虹彩色素沈着とは、PG点眼薬の長期使用により虹彩のメラニンが増加し、色が濃くなる現象を指します。
・青い目は緑~茶色へ
・茶色の目はより濃い茶色へ
といった変化が報告されています。
この変化は非可逆的です。一度沈着した色素は点眼を中止しても消えず、元の目の色に戻ることはありません。ただし、点眼をやめればそれ以上進行はしないとされています。
発現頻度とリスク因子
臨床試験や市販後調査によれば、虹彩色素沈着の発現率は薬剤や人種によって異なります。
・欧米人(青・緑の虹彩):20~30%程度
・日本人(茶色の虹彩):数%~10%程度
日本人はもともと虹彩が暗色調であるため、見た目の変化が目立ちにくく、患者本人も気づかないケースがあります。
一方、片眼のみ治療している場合には左右差が顕著となり、審美的な問題が生じやすくなります。
添付文書における記載
キサラタンの添付文書には以下のように記載されています。
「虹彩色素沈着があらわれた場合には、臨床状態に応じて投与を中止すること」
つまり、発現したからといって必ず中止すべきとはされていません。眼圧コントロールが良好であり、審美的な問題が軽度であれば継続するケースも多いのが実際です。
中止を検討すべきケース
次のような場合には、医師と相談のうえ投与中止や他剤への切り替えを検討します。
片眼治療で左右差が目立つ場合
・外見上の不均衡に強い違和感を訴えるケース。
眼科診察に支障が出る場合
・虹彩が暗くなり眼底検査の視認性が低下するなど。
患者本人が審美的に強い不満を訴える場合
・美容上の理由で生活の質に影響する場合。
これらに該当しない場合は、多くの眼科医は治療継続を優先する傾向があります。失明リスクのある緑内障において、眼圧コントロールは極めて重要だからです。
他の関連する副作用
PG点眼薬には虹彩色素沈着以外にもいくつかの特徴的副作用があります。
眼瞼の色素沈着
・可逆的であり、中止後は徐々に改善。
睫毛の変化
・太く、長く、濃くなる。美容的には「まつ毛育毛剤」として応用された例もある。
眼窩脂肪萎縮(特にビマトプロスト)
・まぶたがくぼんで見える。こちらも可逆性はあるが改善には時間を要する。
虹彩認証への影響
近年、空港や銀行で導入が進む 虹彩認証システム は、虹彩の模様や色調を利用して本人確認を行います。PG点眼薬による虹彩色素沈着がこのシステムに影響を及ぼす可能性が理論上指摘されています。
現時点ではトラブル報告はありませんが、将来的には注意が必要な点です。特に片眼だけ色が変化する場合には、認証システムに誤差を生じるリスクも考えられます。
薬剤師・医師による患者説明のポイント
PG点眼薬を処方・調剤する際には、以下の点をあらかじめ説明しておくことが望ましいです。
・虹彩色素沈着は非可逆的であること。
・点眼をやめても色は戻らないが、進行は止まること。
・眼瞼色素沈着や睫毛変化は可逆的であること。
・外見上の左右差や審美的な影響が出る可能性。
・長期治療においては生活の質への影響も考慮する。
患者が納得したうえで治療を継続できるようにすることが、服薬アドヒアランスを高めるうえでも重要です。
まとめ
・キサラタンをはじめとするPG点眼薬は緑内障治療の第一選択薬であるが、虹彩色素沈着という非可逆的副作用がある。
・発現しても必ず中止する必要はなく、臨床的に問題がなければ継続することが多い。
・片眼治療による左右差や審美的要因、診察上の問題がある場合には中止・変更を検討。
・虹彩認証など社会的な影響も将来的に考慮する必要がある。
・患者への十分な説明と同意が不可欠。