2025年11月21日更新.2,666記事.

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ニトロダームTTSは一日中貼っていてはいけない?― 硝酸薬の耐性と休薬時間の考え方

ニトロダームTTSは一日中貼っていてはいけない?― 硝酸薬の耐性と“休薬時間”の考え方

狭心症治療に用いられる硝酸薬(ニトログリセリン、イソソルビド系)は、即効性・高い血管拡張作用を持つ重要な薬剤である。一方で、硝酸薬の長期連用に伴う“耐性(tolerance)”は古くから知られ、治療効果の減弱だけでなく、血管内皮機能の悪化につながる可能性も報告されている。

とくに貼付剤である ニトロダームTTS や フランドルテープ の使用にあたっては、
「寝ている間も貼りっぱなしでよいのか」
「1日中貼ると効かなくなるのでは?」
といった疑問が多い。

硝酸薬の耐性のメカニズム、休薬時間の根拠、貼付剤の使い方、患者指導のポイント、“なぜ一日中貼っていてはいけないと言われるのか” を勉強していく。

硝酸薬の耐性とは何か?

硝酸薬を連日継続投与すると、数日以内に薬効が低下することが知られている。これを 硝酸薬耐性(nitrate tolerance) と呼ぶ。

■ 耐性がもたらす問題は2つ
1.薬効の減弱(血管拡張作用の減少)
2.血管内皮機能の障害による予後悪化の可能性

特に2つ目は近年注目され、耐性の発生した状態では
・NO(血管拡張性ガス状メディエーター)の産生低下
・酸化ストレス増加
・内皮機能障害
が生じ、狭心症・心筋梗塞の患者にとって好ましくない影響を与えうると指摘されている。

「効き目が弱くなる」だけではすまないのが硝酸薬耐性の重要なポイントだ。

耐性はなぜ生じる? ― 2つのメカニズム

硝酸薬耐性は完全には解明されていないが、現在は以下の二つに分類される。

(1)偽耐性(pseudo-tolerance)
硝酸薬が作用することで、
・交感神経系
・レニン・アンジオテンシン系(RAS)
・バソプレシン

などの神経体液性因子が過剰に活性化され、血管収縮や体液貯留が起こる。
その結果、薬効が相殺される形で“耐性のように”見える状態である。

代表的な例は、硝酸薬使用による一過性の血圧低下を補正しようとする生体反応だ。

(2)血管耐性(vascular tolerance)
▼ 細胞内の“NO-cGMP系”の障害
硝酸薬は血管平滑筋で cGMP増加 → Ca²⁺低下 → 血管拡張 という流れで作用する。

しかし持続的に硝酸薬を投与し続けると、
・ミトコンドリアALDH2の活性低下
・酸化ストレスの増加
・cGMPの不足
・反応性の低下

などの変化が起こり、薬効そのものが減弱する。

この血管耐性こそが「本物の耐性(true tolerance)」であり、貼付剤・徐放錠など持続的に血中濃度が高い薬で起こりやすい。

なぜ“休薬時間”が耐性予防になるのか?

耐性は 「血中濃度がずっと高い状態が続く」 ことで生じやすい。

そのため世界的には、
1日の中で8〜12時間の休薬期間(nitrate-free interval)を設ける ことが耐性予防に有効とされている。

■ 血中濃度が0に近づく時間帯を作ると、
・ミトコンドリアALDH2が回復し
・NO-cGMP系がリセットされ
・酸化ストレス反応が低下
・これにより、翌日の硝酸薬の効果が再び得られやすくなる。

多くの研究で、
「24時間連続投与では耐性が必ず生じる」
ことが示されており、貼付剤の貼りっぱなしは推奨されない。

ニトロダームTTSはなぜ“半日貼って半日剥がす”?

ニトロダームTTSはニトログリセリンの貼付剤で、血中濃度が12時間程度持続する設計になっている。

そのため、添付文書に明確な“休薬時間”の記載はないものの、臨床現場では

ニトロダームTTS 25mg
1日1回 朝8時貼付 → 夕方8時に剥離

といった 12時間投与・12時間休薬 の運用が一般的である。

これは、
・夜間の安静時に労作性狭心症の発作が起きにくい人
・日中に労作で胸痛が起こりやすい人
に対して 発作が起こりやすい時間帯だけ血中濃度を高くし、それ以外は休薬する という考え方に基づく。

■ インタビューフォームにも“間欠投与の報告”が明記されている
ニトロダームTTSのインタビューフォームには以下の記載がある:

「間欠投与法(一定時間剥離して休薬時間を設ける方法)の有用性が報告されている。しかし有効性・安全性は十分に確認されていない。」

つまり公式に「確実に推奨」とまでは言えないものの、
耐性予防には血中濃度の谷間を作るという考え方が有力視されている。

フランドルテープは昼貼って夜剥がすべき?

患者さんに最も多い誤解がこれである。

結論から言うと、

“昼貼って夜剥がす”のが全ての患者に正しいわけではない。
病態に合わせて貼付時間帯は変えるべきである。

■ 1)労作性狭心症
・日中に胸痛が起こる
・夜間は比較的安定
→ 日中だけ貼る(昼貼って夜剥がす)が理にかなう

■ 2)冠攣縮性狭心症(日本人に非常に多い)
夜間〜早朝に発作が多い
→ 夜貼って朝剥がすべき ケースもある

むしろ日本では冠攣縮性狭心症が多いため、
「夜に貼らないと危険」
という患者も一定数いる。

■ 3)不安定狭心症
発作が予測できない
→ 硝酸薬以外の薬剤(カルシウム拮抗薬やβ遮断薬)を優先することが多い
→ 貼付スケジュールは個別判断

MRI検査時はどうする?

■ ニトロダームTTS
金属が含まれるため MRI前に剥がす必要がある。
剥がしている間に発作が起きないか不安に感じる患者も多い。

しかしその際、
「ずっと貼りっぱなしのほうがむしろ耐性が起きやすい」
という説明は患者の不安を軽減する。

■ フランドルテープ
MRI対応であり 剥がさず検査できる。
患者説明で混乱しやすいポイントなので区別して伝えるべきである。

硝酸薬を漫然と長期連用すべきでない理由

持続性硝酸薬(貼付剤・徐放錠)の連用は以下のデメリットがある:
・耐性による薬効減弱
・血管内皮障害の懸念
・“連続投与ほど効かない”という逆説的現象
・不要な副作用(頭痛、皮膚炎)

さらに、狭心症治療は硝酸薬のみで完結しない。

■ 労作性狭心症
→ β遮断薬・カルシウム拮抗薬との併用が基本

■ 冠攣縮性狭心症
→ カルシウム拮抗薬(ジヒドロピリジンor非DHP)が第一選択
→ 硝酸薬はあくまで発作予防・補助的役割

■ 不安定狭心症
→ そもそも硝酸薬単剤では管理が難しい

つまり硝酸薬は「貼れば安心」の薬ではなく、
病態に応じて“使う時間帯と量を工夫する薬” である。

耐性予防の薬物併用(ACE阻害薬・ARB)について

ACE阻害薬やARBは、
・RASの過剰活性化を抑える
・反射性交感神経亢進を軽減する
ことから“偽耐性”の予防に一定の効果があるとされる。

しかし、
・長期的に耐性を完全に防げるわけではない
・血管耐性を抑制できるかは不明
・併用により硝酸薬の効果が劇的に持続するというエビデンスは弱い

そのため臨床では
休薬時間(間欠投与)が最も確実な耐性予防策
と考えられている。

まとめ:ニトロダームTTSは“一日中貼ってはいけないのか?”

結論を整理する。

■ 【結論】貼りっぱなしは推奨されない
・24時間連続投与では耐性が必ず起きる
・効果が弱くなるだけでなく血管内皮に悪影響を及ぼす可能性もある
・1日の中で 8〜12時間の休薬時間 を設けるのが基本

■ 【ただし重要】“休薬すべき時間帯”は患者の病態で異なる
・労作性狭心症:日中に貼る
・冠攣縮性狭心症:夜間〜早朝に貼る
・不安定狭心症:貼付剤より他薬剤を優先

■ 【患者指導の要点】
「必ず医師の指示通りの時間帯で貼る」
「自己判断で貼付スケジュールを変えない」
「MRI時に剥がす必要があるタイプとないタイプがある」
「耐性を防ぐために貼りっぱなしは逆効果である」

終わりに ― 硝酸薬は“時間帯をデザインして使う薬”

硝酸薬貼付剤は非常に効果的な薬であり、発作予防のために必要不可欠である一方、
“使い方を誤ると効かなくなる薬” でもある。

耐性の理解と休薬時間の概念は、
ニトロダームTTSやフランドルテープを扱う薬剤師にとって必須の知識だ。

患者の生活パターン・冠攣縮の有無・発作の時間帯・併用薬などを踏まえ、
個々の患者に最適な“貼付時間戦略”を提案できる薬剤師でありたい。

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