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減塩でどのくらい血圧を下げられるか?
公開. 更新. 投稿者:高血圧.この記事は約7分2秒で読めます.
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減塩で血圧は下がるか?
夏になると汗をかくので、血圧が下がるという人もいる。
健康な人の食塩摂取の目標値は10g/日未満で、高血圧患者では6g/日未満と厳しい食塩摂取制限が設けられていますが、減塩でどの程度血圧は下がるものなのか。
ちなみに10gは小さじ山盛り1杯程度。
高血圧の治療を目的とした生活習慣の改善の点からは、ナトリウムの摂取量に対して注意が必要となります。
ガイドラインでは食塩制限の量として6g/日未満が推奨されており、これ以上の摂取となっている場合には、高血圧の治療の中での生活習慣の改善、減塩の必要性を説明し、実行するように働きかける必要があります。
食塩による血圧上昇の程度(食塩感受性)には個人差がありますが、「健康日本21」では、ナトリウム100mmol(約2.3g)の摂取低下で最大血圧3mmHgの低下が期待できるとするインターソルト研究のデータも紹介されている。
ナトリウム100mmolってのは食塩相当量にして5.8gらしい。それで3mmHgしか低下しないってのは、うーむ、と思ってしまうのですが。
減塩で血圧が低下する食塩感受性高血圧は、日本人の高血圧の3~4割らしいので、減塩があまり効果的でない人もいます。
しかし食塩感受性を調べる簡単な検査はないので、高血圧の人にはみな減塩をすすめる現状です。
ナトリウムから食塩の換算方法は?
食品のパッケージをみると、ナトリウム○○mg、としか表示がなく、食塩相当量の記載のないものも多い。
細かい計算式を示せば、原子量がNa=23、Cl=35.5なので食塩の分子量NaCl=58.5となり、ナトリウム量×(58.5/23)という計算式で食塩相当量が求められる。
しかしイチイチそんな計算もしてられないので、だいたい2.5倍すれば食塩相当量になるよ、と伝えます。
血圧
血圧は、心拍出量や末梢血管抵抗によって規定されており、心拍出量および末梢血管抵抗の変動には、Naの摂取・排泄量や自律神経系(交感神経系、副交感神経系)、レニンーアンジオテンシン系(RA系)など多くの要因が関係しています。
〇血圧上昇に関与する主な因子
●体液量
体液量の調節には、腎における水・Naの排泄が大きな役割を担っています。
腎障害など、Naを十分に排泄できない病態においては、食塩の過剰摂取が体液増加を招き、心拍出量の増加による血液の上昇につながります。
●心収縮力
交感神経系(主にβ1作用)やRA系の活性化は、心収縮力の増大や心拍数の増加を招き、心拍出量の増加による血液の上昇につながります。
●血管緊張
交感神経系(主にα1作用)やRA系の活性化は、血管の収縮を招き、末梢血管抵抗の増大による血圧の上昇につながります。
このほかに、血管作動物質(エンドセリン、プロスタグランジン、心房性Na利尿ペプチド、一酸化窒素など)の増減も血管収縮に関与します。
また、高血圧の持続により生じる血管リモデリング(血管の肥厚など)は、末梢血管抵抗の持続的な上昇につながります。
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | ||
---|---|---|---|
正常血圧 | < 120 | かつ | < 80 |
正常高値血圧 | 120-129 | かつ | < 80 |
高値血圧 | 130-139 | または | 80-89 |
I 度高血圧 | 140-159 | または | 90-99 |
II 度高血圧 | 160-179 | または | 100-109 |
III 度高血圧 | ≧180 | または | ≧ 110 |
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧140 | かつ | < 90 |
血圧は、140/90mmHgを基準として正常域血圧と高血圧に分類されます。
さらに、正常域血圧は至適血圧・正常血圧・正常高値血圧に、高血圧はⅠ~Ⅲ度高血圧、(孤立性)収縮期高血圧(高齢者に多くみられる病態で、高齢者における心血管病の危険因子として重要視される)に亜分類されます。
血圧の日内変動
一般に、血圧は睡眠中に最も低く、起床前から日中にかけて上昇し、夕方から夜にかけて低下するサーカディアンリズムを示します。
通常、夜間血圧は昼間の血圧に対して10~20%程度低下します(dipper)。
一方、血圧日内変動に異常が生じ、夜間の血圧低下が少ない場合(non-dipper)や夜間血圧が上昇する場合(riser)、夜間血圧が過度に低下する場合(extreme-dipper)があります。
血圧の日内変動異常は、心血管病などの発症リスクに関与すると考えられています。
降圧目標値
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
---|---|---|
若年、中年、前期高齢者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
後期高齢者 | 150/90mmHg未満(忍容性があれば140/90mmHg未満) | 145/85mmHg未満(忍容性があれば135/85mmHg未満) |
糖尿病患者 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
CKD患者(蛋白尿陽性) | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
脳血管障害患者、冠動脈疾患患者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
白衣高血圧
診察室血圧は高血圧を示しても、診察室外血圧が正常域血圧を示す場合は白衣高血圧に分類されます。
白衣高血圧は、持続性高血圧と比較すると臓器障害が軽度であり心血管予後も良好のため、積極的な降圧薬治療の対象とはなりません。
しかし、将来的に持続性高血圧に移行し、心血管イベントのリスクを高めることがあるため、定期的な経過観察が必要とされています。
塩分摂取を減らす12カ条
1 薄味に慣れる
2 漬け物や汁物の量に気をつける
3 表面にさっとふりかけるなど塩味は効果的に
4 「かける」より「つけて」食べる
5 レモンやかぼすの酸味を上手に使う
6 香辛料をうまく使って味に変化
7 シソやハーブなどの香りを利用する
8 炒ったゴマなどの香ばしさを利用する
9 適度な油の味を利用する
10 酒の肴やつまみ類は注意
11 練り製品、加工食品には気をつける
12 薄味でも食べ過ぎない
塩分を摂ると血圧が上がる?
血中Na濃度が上昇することによる浸透圧変化を抑えるために、循環血液量が増加します。
その結果、血液が血管を押す力(=血圧)が上昇します。
塩分が胃や腸などの消化管で吸収されると、血中のNa+濃度が上昇します。
そのような状態では、血中(=血漿)の浸透圧が上昇するため、水分が細胞内から血管内へ移行します。
そのため循環血液量が増加して血圧が上昇することになります。
このとき細胞内の水分量が減少すると、口渇が生じます。
水分や塩分が減少すると、血圧低下や脱水などを生じ生命の危機に陥ることもあるため、余分な水分や電解質を排出するというよりは、必要な分を保持する機能が備わっている、といったほうが正しいかもしれません。
Na+は、水分の保持と交感神経系の刺激という役割を担っています。
水分と電解質は、下垂体ホルモンの影響により、腎臓の尿細管で排泄・吸収が行われ調節されています(一部は不感蒸泄により消失する)ので、一時的な塩分(Na+)濃度の上昇は、腎臓からの排出により解消されていきます。
しかし、常時塩分の高い食事を摂取していると、体内に常にNaが高い濃度で存在していることになり、体液(血液)増加による高血圧が慢性化していきます。
血圧を下げるとどうなる
たとえば脳卒中では、収縮期血圧が2mmHg下がると
・死亡者数が9127人減少します。
・罹患者数が19757人減少します。
・日常生活動作(ADL)低下者が3488人減少します。
高血圧治療では1mmHgでも多く血圧を下げることが重要となります。
ナトリウムと血圧
塩っ辛いもの、味付けが濃いものが好きだから高血圧になった、と思う人は多いでしょう。
塩分=ナトリウムがなぜ血圧に影響するのでしょう?
細胞の中にはカリウムが多く含まれています。細胞の外(血管)にはナトリウムが多く含まれています。
血液にナトリウムが多くなると、それを薄めようとして水分量(血液量)が多くなるので血圧が上がります。
水圧でパンパンになったホースのようです。
昔の人はよく汗をかいたので、汗による塩分調節ができたのだそうです。
確かに体の中に入ってしまった塩分を排出するには汗か尿しかないでしょう。
塩分の摂りすぎも高血圧の一因ですが、塩分制限をしたとしても血圧が下がらない場合もあります。
食塩感受性高血圧とは?
食塩の過剰摂取は高血圧の原因の一つであり、疫学統計上、食塩摂取量と血圧の間には正の相関がみられる。
しかし、一人ひとりをみると食塩負荷に対する血圧の反応性には個人差が大きい。
食塩負荷で容易に血圧が上昇するタイプ(食塩感受性高血圧)と血圧があまり上昇しないタイプ(食塩非感受性高血圧)がある。
食塩感受性は腎臓のナトリウム排泄機能と関連し、食塩感受性高血圧の患者はナトリウムが貯留しやすく、循環血漿量が増加して血圧が上昇すると考えられている。
腎機能が低下している高齢の高血圧患者の多くが食塩感受性高血圧だとの指摘もある。
食塩感受性は食塩負荷量を変化させたときの血圧変化の度合いで判定する。
塩分を体の外に出す薬
食塩感受性高血圧の治療薬では、腎臓のナトリウム再吸収を抑制する利尿剤が特に有効とされている。
抗アルドステロン薬のセララ(エプレレノン)も食塩感受性高血圧に有効。
セララは、血圧調節ホルモンの一つであるアルドステロンの作用を受容体レベルで阻害する。
アルドステロンには腎臓のナトリウム再吸収を促進する働きがあり、セララはこれを阻害することでナトリウムの貯留を抑制する。
また、アルドステロンの臓器障害作用は過剰な食塩の存在下で増強するといわれ、セララには臓器保護効果も期待されている。
減塩しなくても血圧は下げられる
アメリカで行われたDASHという臨床試験がある。
この試験では減塩を行わず、野菜、果物、低脂肪乳製品に富みコレステロールや脂肪を抑えた食事を8週間続けたところ、高血圧患者の収縮期血圧が11.4mmHg、拡張期血圧が5.8mmHg低下したという。
この食事内容はDASH食と呼ばれ、カルシウム、マグネシウム、食物繊維が豊富で、総脂肪が少ない。
DASH食にはナトリウム排泄作用があると推察されている。
海水を飲めないのはなぜ?
海水の塩分濃度は約3%、体液の塩分濃度は約1%です。
水は溶けている物質の濃度の低いほうから高いほうへ移動する性質があります。
そのため海水は体内に吸収されず、逆に体液が海水のほうへ奪われてしまいます。
そして海水を飲んでも下痢して、死へと近づいていくわけです。
海から陸へ
昔、海の中で生活していた生物が陸に上がり、進化して「ヒト」が誕生しました。
その進化の過程で、陸では摂取しづらい塩分を体内に貯留する機能を獲得しました。
過剰に摂取した塩分は、腎臓から体外に排出するため、血圧を上昇させます。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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