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ソルビトールとラクツロースの違いは?― 医薬品として使われる糖類下剤
公開. 更新. 投稿者: 8,388 ビュー. カテゴリ:便秘/痔.この記事は約5分8秒で読めます.
目次
ソルビトールとラクツロースの違いは?

便秘治療に使われる薬の中でも、「糖類下剤(糖類系浸透圧性下剤)」は非常に使用頻度の高いグループです。
代表格は ソルビトール(Sorbitol) と ラクツロース(Lactulose:商品名モニラック等)。
どちらも同じ「糖」ですが、性質も作用も微妙に異なり、患者の背景によって使い分けが必要です。
特に、透析患者の便秘治療では下剤の選択肢が限られるため、この2剤の特徴を理解しておくことは非常に重要です。
・作用機序の違い
・効果の差
・腸内細菌との関係
・透析患者での位置付け
・マルチトール・乳糖との比較
・実際の使い分け
などを勉強していきます。
糖類下剤とは何か?
糖類下剤は、「腸管内に水を引き込むことで便を柔らかくし、排便を促す」浸透圧性下剤です。
代表的なものは次の通り:
・ソルビトール(単糖類)
・ラクツロース(二糖類)
・マルチトール(二糖アルコール)
・乳糖(ラクトース)
・麦芽糖(マルツエキス:小児便秘で使用)
食品として馴染み深い成分も多く、体に優しい点が特徴です。
ソルビトールとラクツロースの違い:まずは化学構造から
| 特徴 | ソルビトール | ラクツロース |
|---|---|---|
| 分類 | 単糖類(糖アルコール) | 二糖類(ラクトースの異性体) |
| 消化・吸収 | ほぼ吸収されず大腸へ | 人の酵素で消化できず大腸へ |
| 腸内細菌との関わり | 一部が発酵 → ガス少なめ | しっかり発酵 → ガス多い |
| 便を柔らかくする力 | 中等度 | やや強い |
| 腹部膨満 | 少ない | 多い(特徴的) |
| 用途 | 便秘 | 便秘+肝性脳症 |
ラクツロースは腸内細菌に“とてもよく利用される”ため、
乳酸・酢酸が一気にでき、腸管が酸性に傾く→蠕動が強くなる
という流れが強力に働きます。
そのため、
・効き目がしっかりしている
・ガス・膨満感が多い
・という特徴があります。
ソルビトールは比較的マイルドで、
小児・高齢者に使いやすい“穏やかな下剤”という印象です。
作用機序の違い:浸透圧か、発酵か?
両者とも浸透圧作用を持ちますが、ラクツロースには強力な“発酵作用”が加わります。
■ ソルビトールの作用
・小腸でほとんど吸収されない
・そのまま大腸へ
・浸透圧により大腸内に水分を引き込む
・便を柔らかくして排便を促す
・非常にシンプルです。
■ ラクツロースの作用
・小腸で吸収されない
・大腸で乳酸菌・ビフィズス菌に発酵される
・乳酸・酢酸などが生成され腸内が酸性に傾く
・短鎖脂肪酸が腸粘膜から吸収されエネルギー源にもなる
・酸性化により腸の蠕動が増す
・浸透圧作用で水が集まり便が柔らかくなる
つまりラクツロースは、
「浸透圧 + 発酵による腸運動亢進 + 腸内細菌改善」
という多面的な作用を持っています。
腸内細菌への影響:どちらも“善玉菌のエサ”になる
ソルビトールもラクツロースも腸内で発酵されやすく、
腸内pHを酸性に傾け、ビフィズス菌や乳酸菌を増やす効果があります。
これにより、
・腸内環境改善
・排便リズムの安定化
・便の水分保持改善
といったメリットが得られます。
ラクツロースはより強く乳酸菌を増やす
ラクツロースは人の消化酵素ではまったく分解されないため、
大腸まで丸ごと届き、腸内細菌の「格好のエサ」となります。
その結果、
・ガスが出る
・腹が張る
という副作用が生じやすい一方で、腸内環境改善作用は強いです。
透析患者で糖類下剤が好まれる理由
透析患者は便秘になりやすく、
・リン吸着薬(炭酸ランタン、ポリスチレンスルホン酸Na等)
・カリウム吸着薬
・鉄剤
といった硬い便を作りやすい薬剤を服用するため、
なおさら排便が難しくなります。
■ 酸化マグネシウム問題
・腎機能が低下した患者では、Mg排泄能の低下から
・高マグネシウム血症のリスク
・意識障害や不整脈の危険性
があり、長期使用が難しいケースもあります。
■ 代わりに注目されるのが糖類下剤
・腎機能に影響しない
・習慣性がない
・長期使用しやすい
・浸透圧作用で硬い便を柔らかくできる
そのため透析患者の便秘には、
・ラクツロース
・ソルビトール
が非常に理にかなった選択肢です。
マルチトールや乳糖との違い:食品に近い作用を解説
糖類下剤の理解を深めるために、食品系の甘味料にも触れておきます。
■ マルチトール(Maltitol)
・二糖アルコール
・小腸で20%程度が分解・吸収
・分解されてできたソルビトールはゆっくり吸収されフラクトースに代謝
・血糖値への影響が小さい
・小腸で消化されなかった分は大腸で発酵し、短鎖脂肪酸を生成
つまりマルチトールは、
「ソルビトールの親戚のような存在」で、
整腸作用や軽い下剤作用があります。
■ 乳糖(ラクトース)
・牛乳の糖
・乳酸菌のエサになり腸内細菌を増やす
小児や高齢者で軽症便秘に使われることがある
乳糖不耐のある人では、むしろ下痢の原因になりますが、
これも一種の浸透圧効果+発酵作用です。
■ マルツエキス(麦芽糖)
・小児の便秘に用いられる
・浸透圧作用は弱い
・整腸効果、腸内細菌改善効果が中心
甘いもので下痢になる理由と同じ原理です。
“甘いものを食べ過ぎると下痢”の理由と下剤との共通点
甘いものを食べると下痢をする人がいます。
これは、
・糖質 → 浸透圧を高める
・腸管内の水分移動が増える
・発酵でガスが発生
という下剤とほぼ同じ作用だからです。
つまり、
糖は摂り方次第で、便秘にも下痢にも傾く「腸の水分と細菌を動かす力」そのもの
と言えます。
この性質を“薬として利用したもの”が糖類下剤なのです。
ソルビトールとラクツロースの使い分け
以下は、薬局での実感も含めた使い分けです。
■ ソルビトールが向いている患者
・小児
・高齢者
・ガス・膨満が苦手な人
・透析患者で長期的に使いたい場合
・他の下剤で腹痛が出やすい人
・まずは“穏やかに”効かせたい人
■ ラクツロースが向いている患者
・便が非常に硬い
・腸内細菌改善を狙いたい
・小児の頑固な便秘
・肝性脳症の治療
ラクツロースは有機酸の産生による腸運動亢進が強いため、
効き目がしっかりしているが、副作用としてガスが多いという特徴があります。
患者への説明例(薬剤師向け)
「ソルビトールは腸に水を集めて便を柔らかくする薬です。ラクツロースは腸の細菌に分解されることで腸の動きを良くする作用も加わります。そのぶんガスが出やすいですが、よく効きます。」
また透析患者には、
「マグネシウムより安全に使え、便を柔らかくしやすい薬です。」
と説明すると理解されやすくなります。
まとめ:両者は似ているようで、腸内での“働き方”が違う
✔ ソルビトール
→ シンプルな浸透圧作用で穏やか
→ ガスが少なく使いやすい
→ 透析患者、小児、高齢者に向く
✔ ラクツロース
→ 発酵+浸透圧のW作用で効き目が強い
→ ガス・膨満が多い
→ 小児の頑固な便秘、肝性脳症に必須
どちらも腸内環境を酸性に保ち、善玉菌を増やす効果がありますが、
その作用の強さに違いがあるため、患者の症状や背景に合わせて使い分けることが重要です。




