2026年1月8日更新.2,713記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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急激に血糖値を下げると神経障害?

血糖値は下げれば下げるほど良い?― 急激な血糖改善と神経障害リスク ―

糖尿病治療において、血糖コントロールは極めて重要です。
高血糖状態が長く続けば、網膜症・腎症・神経障害といった慢性合併症のリスクが高まることは、医療者であれば誰もが知っています。

その一方で、臨床現場では次のような声を耳にすることがあります。

「治療を始めてから、足の痛みがひどくなった」
「血糖値が下がったのに、しびれが強くなった」
「前より調子が悪い気がする」

このような訴えを聞くと、
「薬が合っていないのでは?」
「副作用ではないか?」
と考えてしまいがちです。

しかし実は、血糖値を“急激に”下げたこと自体が、神経障害を引き起こす、あるいは顕在化させることがあることが知られています。

治療誘発性糖尿病性神経障害(TIND)とは

この現象は、
Treatment-Induced Neuropathy of Diabetes(TIND)
日本語では
治療誘発性糖尿病性神経障害
と呼ばれています。

TINDの特徴

・長期間、高血糖が続いていた患者
・治療開始後、短期間で血糖が大きく改善
・数週間〜数か月以内に
  ・強い神経痛
  ・しびれ
  ・自律神経症状
  が出現または悪化

重要なのは、
「血糖を下げたから悪い」のではなく、「下げるスピードが速すぎた」こと
が問題になる点です。

どのくらい急だとリスクが高いのか

臨床研究では、TINDのリスクが高まる目安として、次の指標がよく挙げられます。

HbA1cの低下速度
・3か月でHbA1cが2%以上低下

たとえば、
・HbA1c 11% → 8%
・HbA1c 10% → 7%

といった改善は、一見「理想的」に見えますが、
神経にとっては急激すぎる変化になることがあります。

どのような症状が起こるのか

① 感覚神経障害(痛み・しびれ)
・焼けるような痛み
・電気が走るような疼痛
・ピリピリ、ジンジンするしびれ
・夜間に悪化しやすい

特徴的なのは、
従来の糖尿病性神経障害よりも「痛みが強い」ケースが多いことです。

② 自律神経障害
・起立性低血圧
・動悸
・発汗異常
・胃もたれ、下痢、便秘

患者さん自身が
「血糖とは関係ない症状」
と認識していることも多く、聞き取りが重要になります。

なぜ血糖を急に下げると神経が障害されるのか

ここは、患者説明でも医療者理解でも非常に重要なポイントです。

ポイントは「血糖値」そのものではない
TINDの本質は、
血糖値の低下そのものではなく、「環境の急変」です。

仮説①:慢性高血糖への“適応”
長期間高血糖状態が続くと、
・神経細胞
・神経を栄養する微小血管

は、高血糖環境に“順応”した状態になります。

仮説②:急激な正常化による相対的虚血
そこから急激に血糖が下がると、
・微小血管の血流調整が追いつかない
・神経への血流が一時的に低下

結果として、
相対的な虚血状態が生じ、
神経痛やしびれが出現すると考えられています。

「血糖を下げると神経障害になる」は誤解

ここで強調しておきたいのは、

血糖コントロールそのものが悪いわけではない

という点です。

高血糖を放置すれば、
→ 長期的には確実に合併症が進行

問題なのは
→ 短期間での急激な改善

つまり、
「下げるか・下げないか」ではなく、「どう下げるか」
が重要なのです。

どの治療で起こりやすいのか

TINDは、特定の薬剤に限って起こるわけではありません。
・インスリン導入
・SU薬
・GLP-1受容体作動薬
・SGLT2阻害薬

いずれでも報告があります。

薬の種類より、血糖改善のスピードが本質的な要因です。

予後はどうなるのか

多くは一過性
・数か月〜1年程度で軽快するケースが多い
・血糖コントロールを中断する必要は通常ない

ただし、
・痛みが強い場合
・QOLが著しく低下している場合

には、疼痛コントロールや治療計画の再調整が必要になることもあります。

薬剤師が果たすべき役割

① 「治療が失敗した」と思わせない
患者さんは、

「治療を始めたら悪くなった」
と感じがちです。

ここで、
・不安を否定せず
・現象の背景を説明する

ことが、継続治療の鍵になります。

② 服薬指導で使える説明例
「長く高かった血糖が急に下がると、
神経が一時的にびっくりして、
痛みやしびれが強く出ることがあります。
多くは時間とともに落ち着いてきます。」

③ 高HbA1c患者では「スピード」を意識
・HbA1c 10%以上
・長期間未治療

こうした患者では、
“ゆっくり下げる”という価値を
医師・患者と共有することが重要です。

血糖コントロールの本当の目標とは

血糖値は、
・数字そのものがゴールではありません
・合併症を防ぎ
・患者の生活の質を守るための指標
です。

急激な改善で神経障害が出れば、
治療への不信感やアドヒアランス低下につながりかねません。

まとめ

・急激な血糖改善により、神経障害が出現・悪化することがある
・原因は血糖値そのものではなく、改善スピード
・多くは一過性で、血糖コントロール自体は必要
・薬剤師の説明は、治療継続と安心感に直結する

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生息地:雪国
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