2026年1月24日更新.2,729記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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男も更年期障害になる?

男性更年期障害とは何か― テストステロン低下と「疲労」の正体、そしてOTC男性ホルモン剤の落とし穴 ―

「更年期障害」と聞くと、多くの人は女性を思い浮かべるでしょう。
しかし近年、男性にも“更年期障害”と呼ばれる状態があることが知られるようになってきました。

一方で、

・男性更年期障害は本当に病気なのか
・単なる加齢や疲労との違いは何か
・男性ホルモンを補充すれば解決するのか

といった点については、議論や誤解が多い領域でもあります。

男性更年期障害の医学的背景を整理しつつ、
OTC医薬品として販売されている男性ホルモン含有製剤について、
薬剤師の立場から冷静に考えてみたいと思います。

男性更年期障害とは?

男性更年期障害は、一般に

加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下により、
身体的・精神的な不調が出現する状態

と説明されます。

医学的には
LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism)
という名称が用いられることもあります。

主な症状
男性更年期障害の症状は多彩ですが、特徴的なのは
「疲労感」を前面に訴えるケースが多いことです。

身体症状
・慢性的な疲労感
・倦怠感
・頭痛
・筋肉痛・関節痛
・筋力低下
・発汗異常
・性欲低下、勃起障害

精神症状
・不安感
・イライラ
・集中力低下
・不眠
・抑うつ気分

これらの症状は、
うつ病・自律神経失調症・過労などとも重なりやすく、
診断が難しい理由にもなっています。

「男性更年期障害」は本当に病気なのか?

ここで一度、立ち止まって考える必要があります。

テストステロンは誰でも減る

50歳を過ぎると、
男性の約半数で血中テストステロン値が低下しているとされます。

しかし、
テストステロンが低下している=必ず症状が出る
というわけではありません。

つまり、
アンドロゲンが低下すること=病気
と単純に結びつけるのは危険です。

「中年の危機(mid-age crisis)」としての側面

男性更年期障害は、
生物学的変化+社会的・心理的要因が重なった
「中年期特有の現象」と捉える見方もあります。

・仕事の責任増大
・昇進・降格
・親の介護
・子どもの独立
・自身の老化の自覚

こうした要因が重なる時期に、

・疲れが取れない
・気力が出ない
・若い頃のように無理がきかない

と感じることは、むしろ自然な反応とも言えます。

男性更年期=老化防止、は危険なミスリード

近年、

・男性更年期を防げば若返る
・テストステロンを補えば老化しない

といった 過剰な期待を煽る表現 が目立ちます。

しかし、

老化とは、ホルモン1つで止められる現象ではありません。

男性更年期障害を
「老化防止の入り口」
として拡大解釈することは、
医学的にも倫理的にも問題があると感じます。

OTC男性ホルモン剤という存在

キンジャセイという薬
薬局で第一類医薬品として販売されている
「キンジャセイ」 という製剤があります。

その特徴は、
・男性ホルモン(メチルテストステロン)を含有
・多数の動植物生薬
・ビタミン類・アミノ酸を配合

という、いわば
「強壮薬+ホルモン剤」 のような位置づけです。

添付文書上の特徴
・更年期以降に不足する男性ホルモンを補充
・メチルテストステロンは服用後1時間以内に血中濃度ピーク
・生薬成分は徐放的に吸収

理屈としては、
即効性のホルモン+持続的な滋養強壮
という設計です。

正直な薬剤師の本音

正直に言えば、

「疲れたから栄養ドリンク感覚で飲む薬ではない」

というのが率直な印象です。

なぜなら、
・メチルテストステロンはれっきとしたホルモン剤
・内分泌系に直接介入する薬
・副作用リスクがゼロではない

からです。

懸念される副作用

心血管系リスク(心筋梗塞など)

多血症

前立腺への影響

脱毛(AGAの進行)

「怪しい」という表現は適切ではないかもしれませんが、
軽く扱ってよい薬ではないことは確かです。

年齢制限の意味を考える

キンジャセイは
・女性には販売不可
・15歳未満は禁止
とされています。

16歳ならOKなのか?
と聞かれれば、私はかなり疑問を感じます。

若年男性において、
・男性ホルモン補充
・視床下部・下垂体・性腺軸への影響
・妊孕性への影響

を考えると、
医療機関を介さない使用は勧めにくいと言わざるを得ません。

他のOTC男性ホルモン製剤

プリズマホルモン精
こちらの添付文書には、
「本剤は原則として45歳以上の成人を対象としています」
と明記されています。

この一文は非常に重要です。
・若年層への使用を想定していない
・加齢による変化を前提にしている
というメーカー側の姿勢が読み取れます。

グローミンという存在

さらに
グローミン という、より「怪しげ」に見える第一類医薬品も存在します。

このような製剤が成立している背景には、

・男性の疲労・性機能低下
・医療機関に行きづらい心理
・「病気ではないがつらい」層の存在

があるのでしょう。

女性とテストステロンの関係

興味深い点として、
テストステロンは女性にも重要なホルモンです。

女性における役割
・性欲・性衝動
・活力
・意欲

テストステロンはしばしば
「天然の媚薬」
と表現されます。

男女を問わず、
・恋愛パートナーがいない人の方が
・テストステロン値が高い

という報告もあり、
いわゆる「肉食系」という表現は、
あながち的外れではないのかもしれません。

しかし女性への使用は別問題

OTC男性ホルモン製剤の
女性適応として記載されているのは、

・女性恥部無毛症
・乳汁分泌抑制

といった、かなり限定的なものです。

「女性が飲めば若返るのでは?」
という期待は、
明らかに危険な方向性だと言えるでしょう。

男性ホルモンの基本的な特徴

内分泌調節
・視床下部・下垂体・性腺軸で厳密に制御
・血中濃度は一定範囲に保たれる

生理作用
・男性化作用(髭、声、性欲、攻撃性)
・同化作用(筋肉量増加、蛋白合成促進)
・造血作用

注意点
・前立腺癌の有無を確認
・多血症リスク
・若年男性では妊孕性低下

これらを踏まえると、

男性ホルモンは「元気が出る薬」ではなく、
「内分泌を操作する薬」

であることがよく分かります。

男性更年期障害をどう捉えるべきか

私自身は、

男性更年期障害とは
老化という避けられない過程の中で、
一部の人に強く表面化する現象

と捉えています。

・疲れを感じる
・若い頃と同じようには動けない
・気力が落ちる

これをすべて
「ホルモン不足=薬で補う」
と考えるのは、あまりに短絡的です。

まとめ

・男性更年期障害は実在するが、境界は曖昧
・テストステロン低下=病気ではない
・OTC男性ホルモン剤は慎重に扱うべき
・「疲労回復」「若返り」との安易な結び付けは危険
・本質は老化・心理・社会要因の複合体

最後に

男性更年期障害という言葉は、
つらさに名前を与えるという意味では価値があります。

しかしその一方で、
過剰に病気化し、薬で解決できるかのように扱うことには
強い違和感を覚えます。

「疲れたからホルモンを飲む」
ではなく、

・生活を見直す
・休息を取る
・必要なら医療機関で相談する

その上で初めて、
治療としてのホルモン補充が検討されるべきでしょう。

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